清宮姫子編 その1
私がその募集用紙を情報局の窓口に提出すると、それを受け取った局員の中年女性は募集用紙と私の顔を見比べ、少し困ったような表情を浮かべました。
「失礼ですが、情報カードはお持ちですか?」
情報カード。
情報局内で使用が出来る身分証明書のようなものであり、それには過去の依頼達成状況や犯罪履歴までが記録されているものです。
なんで私がそんなことを知っているかと言えば、ビッケさんにお世話になっていた頃に作ったから持っているのです。
私のような小娘が、こんな恐ろしい化け物と戦えるのかというのはある当然の疑問であり、中央王都でも毎回確認されていたので今更気に障ることではありません。
懐にしまっていた情報カードを取り出して女性に渡すと、女性はスキャナーにそれを通して情報を調べ始めました。
すると間もなく私の情報が調べ終えたのか、少し驚いたような表情と共に女性は書類に印鑑を押してパソコンに幾つかの操作をした後、どこからかプリントされた用紙を私の前に情報カードと一緒に置きました。
「ありがとうございます。こちら情報カードの返却及び契約書になります」
契約書には、情報局の規約や依頼主からの特記事項が書かれており、最後に私のサインを書く欄がありました。
最初の内は、こうして一つの依頼を受けるだけでもかなり揉めましたが、その都度にビッケさんがフォローに入ってくれました。
ある程度私の実力が認められてからも、ビッケさんは「暇潰し」と言って依頼を手伝ってくれました。
愛する人と別れを告げて、私は少し人恋しくなっているのかもしれません。
そんなことを考えながら、私は契約書にサインをしました。
「ありがとうございます、今依頼内容を記した紙を発行しますので少々お待ちください」
サインをした契約書を女性に渡すと、女性は再びパソコンを操作します。
私はこういったIT技術が全く無いので、キーボードを高速で打ち込む彼女の姿には少し憧れますね。
お金が溜まったら勉強して、ビジネスワークへの就職でも目指しましょうか。
流石にお婆ちゃんになってまで、このような肉体労働をするのは難しいでしょうし。
「こちらが依頼内容になります、ご利用ありがとうございました」
女性から依頼内容の詳細が書いてある紙を受け取って、私は情報局を出ました。
どうやら依頼日は明後日の正午からのようです。
既に殆ど準備は整っており、あとは護衛が可能な人手を探しているというだけの状態だったようで、かなり性急な依頼内容でした。
最も、あまり長くここに留まる予定では無かった私としては好都合ですが。
さて、次は明日と明後日の宿探しですね。




