ドレッドの暴走
一瞬にして反転した視界の中で求められるのは次に行うべき状況判断。
私は全力でドレッドに戦いを仕掛けたが、いとも容易く伏せられてしまった。
私の背中が、海面へと打ち付けられる。
視界一杯に広がる光の雨、あれに一つでも当たってはならない。
ならばと私は叩きつけられたままに海の中へと潜り込み、水の中を飛ぶようにして光弾を避け続ける。
あの攻撃には見覚えがあった。
私の父、サー・ランスロウの狂銃アロンダイト。
幼い頃、永刻王となる為に散々に食らった、弾幕によって生み出される空飛ぶ剣撃。
あんなものが一体どこに。
永刻祭が終わり、私達が新たな役割を引き継いだ時、所在が不明となった物がいくつかあった。
その中の一つがアルト・ペンドラーの王銃エクスカリバーであり、そして狂銃アロンダイトもまた紛失しいていた。
例え所有者が死んだとしても、精霊龍によってこの世に生み出さた精霊銃が消えることは無い。
必ずどこかにあるはずだと、今日にいたるまで捜索をしていた。
王銃エクスカリバーを私が手に入れた以上、ドレッドが狂銃アロンダイトを手に入れたのはある種の運命と言えるかもしれない。
問題なのは、狂銃アロンダイトが前永刻王であるアルトに嫉妬したランスロウの憎しみの象徴とも言うべき忌むべき品であるということだ。
あれがドレッドの手に渡っている以上、彼女が既に所有している絆銃クラレントというもう一つの精霊銃と合わせて身武一体を行った場合、私が持つアドバンテージは無いに等しい。
王銃エクスカリバーと清銃ディランという切り札で、一気にケリを付けようと思ったら、彼女が同等というにふさわしいもので対抗してきたのだ。
そして彼女が口に含んだシロモノ。
ゆっくりと流れる世界の中が、連続で送られるコマのように再生された私の目にはハッキリと見えた。
それはランスロウの執務室から発見された、数百年前に禁止された薬物。
獣人達の基礎能力を底上げする代わりに、命を蝕む毒。
ガラードを亡き者にせんとした父は、それでもなお強かったドレッドによって返り討ちにされたが、今の状況でそんなものを使われて、私がドレッドに勝つ確率は。
船底に潜り込むことによって光弾を回避した私は、ドレッドの暴走を止める方法を必死に考えた。
そんな一瞬の思考時間すらも許されなかったのだろう。
いつの間にか私の視界は白く点滅し、やがて意識が遠のいていく。
思いっ切り水を飲み込み、海水の塩味が口いっぱいに広がった。




