ドレッドVSガラード
なんで、なんでなの。ドレッド。
昔の君も、今の君も、そんな人じゃなかった。
自分ではダークに斜に構えたイメージとして振舞ってたみたいだけど、決して腹芸が得意なタイプじゃなかった。
少なくとも、私が見抜けないような隠し事が出来る程、器用な人じゃなかったのに。
「何故だドレッド!」
私が放った二つの銃弾は、涼しい顔をしたドレッドの髪を掠める。
今のは警告、次の返答次第では必ず当てる。
こんなエンジュランドの人々を巻き込んでまで、一体彼女は何がしたいのか。
「何故か? そんなのは簡単だ、奴らが人間で、私達が獣人だからだ」
そんなの答えになってない。
確かに私達獣人と、彼ら人間が大昔に争い、結果的に私達の種族は負けた。
だが今現在を持って不利益を被っているわけではないし、いつまでもそうして他種族を見下すのは非合理的である。
そう言ったのは他ならぬドレッドであったし、私もその言葉を信じて彼女と一緒に、王座に就いてから努力してきた。
「二回目の裏切りだよ、ドレッド」
一回目の裏切りは、間違いなく私に非があった。
でも今回は、彼女に譲ることは出来ない。
橙色に輝く瞳に濁りは無く、ドレッドが本心からそう言っているのが嫌でも分かる。
なんで、どうして。
なんでいつも私と話していた時の目で、共に笑い合った時の目で、そんなことが言える。
そんな君を、私は認めない。
胸の底から湧き上がってくる感情に身を任せた私の視界が、白く染まる。
白く染まった世界には、一人の男がいた。
誰でもいい、なんでもいい。
彼女を取り戻す力を、私に。
---彼女を取り戻す力を、私に。
男が私に手を伸ばす。
彼の手は悲しみに染まり、無念と後悔の傷で塗れていた。
あぁ、そうさ。私がお前に力を貸してやる。
だから、お前も私に力を貸せ。
先代永刻王、アルト・ペンドラー。
再び晴れた視界は、どこかゆっくりとした時が流れているように感じた。
凪いだように冷たい心の奥底で荒れ狂う激情をエネルギーに変え、船の甲板に立つドレッドへと空を蹴って突撃する。
遅すぎる空気の乱れの先に、彫ったように不気味な笑みを浮かべるドレッドの笑顔。
彼女はポケットから取り出した小さな粒を幾らか口に含んだ。
「これが私の精一杯です。マスター」
そんなどこかドレッドらしくない声音が聞こえた後、私は海に叩き付けられた。




