空にも飛ばすし海では泳げるクラーケン
ワイゼルに先程確認を取ったところ、ティーを乗せた潜水艦はもう出港してしまっており、中央王都に向かってそのまま真っすぐに突き進んでいるらしい。
一応そのまますぐに浮上すれば、人間側の港町であるヘイヴァーと繋がっているのだが、道中で無駄な争いをせず、そのまま中央王都へと進軍するらしい。
もしも到達してしまえば、中央王都の海軍部隊と戦いが始まってしまうだろう。
それまでにどうにか食い止めて、ティーを正気に戻さなければ。
「案ずるな、潜水艦なんぞよりもクラーケンの方がよっぽど早い。すぐに追いつくさ」
俺達人魚は、水中でも呼吸が出来るが、動力のある潜水艦に乗った方が移動は早いため、ヘイヴァーの様に余程の近場でもなければ船を選択する。
クラーケンにのったことは無いが、どれほど早いのだろうか。
というより、そもそもどうやって乗るのだろうか。
「じゃあ潜るぞ」
「えっ、ちょっと待て。どこに掴まればいいんだ?」
その質問にヒストリアさんが答えることはなく、そのままクラーケンと共に俺達は海の中へと潜った。
ここまで乗って来た車が海へと沈む。
おい、海を汚すんじゃない。
そして海に潜ったのはいいが、残念ながら俺はクラーケンの乗り方が全くわからない。
まさか潜水艦よりも早い生き物に素手でしがみ付けなんていう程ヒストリアさんもアホじゃないだろうし、一体どうやって……?
そんな俺の疑問に答えるかのように、クラーケンの八つもある触手の内の一つが、俺に向かって伸びて来た。
「まさか……」
いやまさか、そんな、ねぇ?
素手でしがみ付くと同レベルの発想だぞそれ。
クラーケンはその触手で俺の身体をガッシリと掴むと、ゆっくりと泳ぎだし、段々と加速を始めた。
しっかりと掴まれている割には、吸盤が体に吸い付いて痛みなどは全く無い。
隣をチラリと見ると、やはり同じ様に掴まれているヒストリアさんの姿が。
「二本は泳ぐのに必要なのだが、最大で六人まで同時に移動出来るぞ」
「オイ、これ顔に掛かる水圧とかで首へし折れるだろ」
「いや、先行するクラーケンの頭が水除けになっているから問題はない」
意外によく考えられてる乗り物だった。
いや、発想はバカ丸出しなんだけども。
クラーケンの酷使具合が半端ではないが、俺達はこうしてティーを追いかけ始めたのだった。




