魔法的な力
「うぉおおお!?」
誰か助けてくれ。
猛スピードでクラーケンにぶん投げられて、車で空を飛んだのはいい。
いや、わけわからんけど、そこまではいいんだ。
恐らく身に着けているシートベルト程度じゃ、恐らくどうにもならないであろうということはさておき。
体感的には、遊園地のジェットコースターがレールから外れて空を飛んだイメージだ。
クラーケンのパワーは恐ろしいもので、未だに車は上昇を続けている。
しかし、これが下降を始めたら恐怖というレベルでは済まないだろう。
運転席で座っているヒストリアさんは平然としている、マジぶん殴りてえ。
「着陸するぞ、気を付けろ」
じゃあどう気を付ければいいのか教えてくれよ。
地面に向かって落ちる車の搭乗者とか、背筋伸ばしてシートベルト握り締めるくらいしか出来ることねえだろうよ。
死ぬほどパニくってドアを開いて逃げようとしたが、しっかりロックが掛かってて開かなかった。
もう逃げられないみたいだ、ごめん父さん。先に死にます。
いよいよ車が下降を始めた時、俺は目を閉じて来るべき時を待ち構えた。
そして感じる強い衝撃。不思議なことにあまり痛みは感じなかった。
あぁ、即死か、即死したのか俺は。
痛みを感じないのは何よりだ、ありがたい話だ。
「おい、いつまで目を瞑っているつもりだ。早く車から降りて戦闘準備をしろ」
あぁ、これが死後の世界って奴なのか。
真っ暗で何も見えねえや。
「……おい」
いてえ!
誰かに頭をぶっ叩かれた衝撃で俺は目を開いた。
そこには何やら辺り一面が青い世界で、隣にはヒストリアさんがいた。
「ここが天国かぁ」
「いつまでも寝ぼけてるんじゃない。さっさと車を降りろ」
クルマ……?
あぁ、車か。車ならもう俺の身体と一緒にズタボロになったはずだが。
そう思って視線を落とすと、目を瞑る前と何も変わらない車内の様子がそこにあった。
は? なんで生きてるんだ俺。
訳が分からないが、とりあえず言われた通りにシートベルトを外して車から降りる。
まず足元に感じたのは、どこまでも沈みこんでしまいそうなグニャリとした感触。
よく見ると、薄い赤色のような何かの上に、車は着陸していた。
「お、おい。なんだここ……」
ここは間違いなく海底都市と外の世界を繋ぐ外交窓口の中に流れ込む海だった。
だが、俺の足元に広がっている赤い地面の小島など全く記憶にない。
そう思ってヒストリアさんに問いただそうと振り返ると、恐ろしく大きな目玉と目が合った。
「おぉおおおお!?」
「助かったぞクラーケン。また次も頼む」
驚き過ぎて呼吸が出来なくなりかけたが、後でヒストリアからの説明を受けた所、一匹目のクラーケンによって思いっ切りぶん投げて貰い、二匹目のクラーケンに受け止めてもらうという移動方法だったらしい。
物理法則とかどうなってんだと質問したが、魔法的な力でどうにかしたらしい。
とりあえず、いつまでも魔法を都合の良い説明に使ってると後悔するぞと言っておいた。
一話と二話(天上院の転移からヴィクティムサイドのストーリー)までを全面的に書き直しました。
完結に向けて、全面的な最終校正を行っていきます。
サブタイトルについても全て『召喚したけど襲ったけど刺されたんだけど』→『1-1』といった風に変更していきます。




