そして幕開けへ
しかし、一体どんな物体で出来ているのか知らないが、その拘束具はどんなに壊そうとしても、傷一つ付くことは無かった。
「くっ、傷も付かないなんて……」
「下手に乱暴に壊せばヤコが危ないし……」
一番の難題は、無理矢理外そうとすると警告のように電流が流れる仕組みになっているのだ。
恐らく正規の手段で解除しなければ、ヤコの身に危険が及ぶ可能性がある。
強行突破は諦めて、可能性は薄いが本来の解除方法を試してみるしかないか。
私達がそう考え始めた時、後ろから突然声をかけられた。
「貴方達は……?」
「!? 気付かれた! いつの間に……」
ヤコの拘束解除に必死になり過ぎて、警戒を怠っていたのか、第三者の接近に気付くことが出来なかった。
行運流水を解除しても何も起こらなかったのをいいことに、少々派手に動き過ぎたか。
いずれにせよ敵の登場に身を構える。
「あっ、いや、違う!」
しかし、現れた人口生命体と思しき人物は、両手を挙げて敵意が無いことを私達にアピールしてきた。
加えて、彼女達もまたヤコを助けにきたのだという。
ヤコに視線を送って確認を取ると、頷きを返された。
「大丈夫だよ、フィストとビッケさん。彼女は間違いなく私の仲間だから」
「そう……ごめんなさい、勘違いをしちゃったみたい」
「構わない。ゆっくり自己紹介をしたいところだが、生憎時間が無い。まずはヤコを助けよう」
その後は彼女達の協力によって、無事にヤコの拘束は解除された。
助かった、正直私達だけだったら完全にお手上げだっただろう。
すぐにここから離れようと、人口生命体の二人が相談を始めたが、何やら一人が諦めたように首を横に振った。
そしてその直後、大きな物音がこちらへと向かってやってきた。
「マズい。ゼロに気付かれた!」
「ゼロ?」
「人口生命体の大ボスだ!」
それは大分マズいのではなかろうか。
少なくともこんな逃げ場のない狭い部屋の中で相手にしたくはない。
人口生命体の二人と、ヤコがふらつきながらも警戒の姿勢を取ったので、私とビッケの二人も戦闘に備える。
その時だった。
私の前に突然、刀身から妖しげな赤黒いオーラを放つ、一本の短剣が現れた。
驚いたのも束の間、その短剣から放たれるオーラが増幅し、私を飲み込む。
あまりの事態に反応が出来なかった私は、そのままそのオーラに飲み込まれたのだった。




