茨の檻
「マスターに初めて出会った時のワシは、ただの種に過ぎなかった」
茨の檻は、どんなに切り裂いても蛇のように畝って再生し、私を決して逃がそうとはしませんでした。
ならばと自らが塞いだ天井の壁を破壊しようとしましたが、こちらも既におばば様に支配されてしまったらしく、同様に破壊は不可能でした。
「芽吹こうにも栄養素が足りず、どうやっても発芽することのない不良な種。それがワシじゃった」
地面に穴を開け、地中から逃げようとも考えましたが、それこそ足元に潜む、おばば様が操る植物達の餌食になるでしょう。
まさに八方塞がり、絶体絶命です。
「しかしマスターは、そんなワシに強烈なエネルギーを与え、こうして人格を得るまでにしたのじゃ」
一番可能性があるとすれば、やはり茨の檻を強行突破するしか無いでしょう。
再生すると言っても、おばば様が私に攻撃をする為に力を使っている以上、檻を全力を出して固めているわけではないはずです。
ならば、私の全力を持ってこの檻を破壊するしかありません。
「ワシはマスターに多大なる恩義を感じ、例えどんな非情な事であろうと命ぜられれば実行した」
大きな穴でなくていい、人一人がギリギリ通れるスペースがあれば構わない。
外に脱出することが出来れば、多少棘に傷付けられても問題では無い。
お願いだから、壊れて。
「だが唯一、私が拒んだ命令があった」
全力で魔力を掌に込め、握り締める。
過去を振り返っても、これほどの量を扱ったことは無い。
しかし、暴走とも言えるソレを叩き込まねば、道は閉ざされたままだろう。
「ヴィエラ。お主を犠牲にして、生き永らえよという命令は、どうしても嫌じゃった」
渦の様に拳の周りで踊る魔力と共に、全力の一撃を叩き込む。
殴り付けたと同時に、込めた魔力が刃となって茨に突き刺さった。
私が使える植物に対して干渉する力は、成長を促す以外にもう一つ存在する。
それは、不要となった植物を腐らせ、養分へと変える力。
その力を、抉る程に茨の壁に向かって叩き込んだ。
突き刺さった場所から、茨は茶褐色へと変化し、ボロボロと崩れ落ちる。
腐敗は止まることなく、刺さった場所を起点として、周囲を腐らせていく。
一点が腐ったら、その周囲が、そしてそのまた周囲が。
鋭い針を持つ茨はあっと言う間にその活力を失って、地面に崩れ落ちていく。
「マスターの命令に逆らう事は出来ない。しかしヴィエラを殺したくなどない」
やがて茨の檻は崩壊し、私の前に道が拓けた。
「だから、ワシは、お主に殺してもらうことにした」




