ガラードの怒り
気絶したボーズを地面に投げ捨て、ドレッドは意気揚々と民衆への演説を再開する。
ドレッドの主張に同調するかのように大声を張り上げる観衆。
もはや彼女を止める者など誰もいない。
「今こそ立ち上がれ獣人達よ! 中央大陸は我らのものぞ!」
そう言うと、ドレッドはエンジュランドの港の方へと歩き出した。
演説を始める前に、船を手配していたのだ。
ただの船ではない。
正真正銘、軍事用の戦艦である。
演説に触発された観衆達が、ドレッドに続いて戦艦に乗り込んでいく。
国の兵士だけに及ばず、腕に自信のある一般人までが彼女に付いて行った。
「進め!」
そしてその全員が乗り込んだ頃合いに、ドレッドが出発の合図を出した。
戦艦は一路、中央大陸へと向かって真っ直ぐ舵を切る。
波に乗り、トップスピードで海を渡ってゆく。
だがその行く手を阻む者がいた。
ソレが現れたのは突然だった。
とっくに過ぎ去ったはずのエンジュランド。
その一番高い山である精霊山の山頂から、一筋の金色の流星が放たれた。
空を駆けるような速さであっという間に船へと追いつき、その航路を遮るようにして目の前で立ちふさがる。
「これはどういうことだ、ドレッド」
本来は白かったはずの体毛を金色に染め上げ、王と呼ぶにふさわしい威圧感を持って睨み付ける。
その目には怒りを湛え、見る者全てを怯ませた。
「そこを退いてくれないか。ガラード」
「ならば退くに足る理由を示してみせよ。友であるボーズを裏切ってまで、満たしたかったその目的を」
怒れるガラードの体毛は全て逆立ち、憤怒の形相を浮かべていた。
いや、憤怒しているのはガラードだけではない。
彼女の背後に、険しい顔をした獅子の男が見える。
あれは間違いなく、前国王のアルト・ペンドラーだ。
「人間とは決別せねばならぬ。いや、支配する必要すらある。劣等種たる奴らを我ら獣人が支配し、正しく導いてやらねばならないのだ」
「肉体が屈強だから、出来ないことが出来るから。ただそれだけの理由で自らが上位だと思い込んでいるのか、愚か者めが」
言い返すドレッドへ、更に怒気を強めて睨み返すガラード。
「なら空を飛べない我々は鳥に劣っているのか。水中で呼吸が出来ない我々は魚に劣っているのか。その程度の判断すら出来なくなってしまったのなら、私が直接教えてやる」
そう言うとガラードは両足のホルスターから二つの銃を引き抜いた。
そしてその二丁の銃口をドレッドへと向け、容赦なく打ち抜いた。




