クラーケン・アクセル
「……なんだと?」
外交窓口とは、まさにヒストリアさんと俺達が戦ったあの場所だ。
人間達と大陸と海底都市を繋ぐ唯一の道であり、まさに外の世界への窓口と言えるだろう。
じゃあなんだ、今まさに放送局で流されている音波攻撃は、予め録音しておいたものだとでもいうのか。
完全に騙された形である。
「クソッ、仕方ない。急いで放送だけでも止めに行くぞ」
かと言って、ヒストリアさんの言う通り放送を止めずにいても被害は増える一方だ。
気持ち的にはすぐにでもティーのいる場所へと向かいたいが、ここまで来てしまったのなら時間のロスにそこまで差は無い。
俺達はワイゼルとの通話を切った後、放送局の奥へと走った。
確かに言われてみれば、ティーが操って自身の警護を付けているにしては守りが薄い。
そのおかげか、大した抵抗を受ける事無く、比較的簡単に音波を流している部屋へと辿り着いた。
「よし、さっさと外交窓口へと向かおう」
ヒストリアさんは容赦なく音波を放送していた機械を叩き壊すと、急いで出口に向かって走り出した。
俺もその後に続き、再び二人で車に乗り込んだ。
「ここから外交窓口へは微妙に遠いな。少々無茶をするからしっかり掴まっておけよ」
放送局に来るまでも正直かなり荒い運転ではあったが、それ以上に無茶をするというのか。
信号無視は当たり前だったし、カーブも全く速度を落とさずに無理矢理曲がっていた。
公務用のそこまで性能が高い車ではないので、事故を起こしていないのが奇跡と言ってもいいくらいだった。
「いくぞ!」
そう言うとヒストリアさんは思いっ切りアクセルを踏み、エンジン全開で発車する。
確かにもっと急いで欲しいくらいではあるのだが、人を撥ねてしまいそうで非常に怖くもある。
「足りんな」
しかしヒストリアさんはそんな猛スピードで車を走らせながら、恐ろしいことを口走った。
「仕方ない。クラーケンを使うか」
「は?」
いや、車でクラーケンを使う要素は無いはずだ。
鉄の塊のスピードを上げるという目的の為にイカは要らない。
俺の考えをよそに、ヒストリアさんは口をパクパクとさせ始めた。
これはここに来る途中も何度か見た事がある、超音波を使っているのだ。
ヒストリアさんは超音波を用いてティーの攻撃を無効化したり、仲間との伝達を行っていたが……まさか。
わずか数十秒後、突如目の前の地面から巨大な触手が生えた。
「うぉお!?」
「やっと来たか、遅いぞ!」
『グオオオ!』
クラーケンはそのまま巨大な触手を使って俺達が乗っている車を持ち上げる。
いや、なんだろう。凄い嫌な予感がする。
これだけ発達した現代において、物凄く原始的でアホなことをやろうとしてる気がする。
「『クラーケン・アクセル』!」
ヒストリアさんのその掛け声と共に、クラーケンは俺達をぶん投げた。




