ヴィエラの選択
私は森の深部へと向かいました。
おばば様はどんなところからでも植物を操ることが出来ますし、普段いる場所から動くことは無いでしょう。
そう思った私は森の奥へと向かいます。
侵入者には例外なく森の植物が襲い掛かってきます。
私もここの住人だったとはいえ、今のおばば様は何を考えているかわからないので襲われる可能性を考慮していましたが、植物達は私の姿を見ても沈黙しています。
気付かれていないのでしょうか。
いや、そんなはずはありません。
そんなことを考えている間に、最深部に到達しました。
この森で最も巨大な木の根元に一人立つ緑の衣。
彼女は振り向いてそのフードを外します。
「何故来た。ヴィエラ」
現れたのは、菖蒲のように鮮やかな紫色の髪の毛をした、美しい少女。
その青い瞳からは怒りの色が滲み出ており、少なくとも私がここに来たことについては好ましくは思っていないのが見て取れます。
「……ゼロめ。私だけ綺麗なフリをするのは許さんということか」
そう言うとおばば様は私に向かって、その掌を向けます。
「最後の親心じゃ。全てを捨て、どこか遠くへ逃げろ。ラポシン王国でも、導き手のところでもない。ずっと遠くへ」
そしてその掌を握り締めると、私の足元の地面が裂かれました。
裂いたのは巨大な緑の手。
いや、あれはこの森の地中深くに生えている植物の一種です。
普段は奥底で眠り、土から栄養を吸い取っているのですが、おばば様の力によってその生態が活性化したのでしょう。
その手が私へと向かって掴みかかってくるのを、私は慌てて避けました。
私とおばば様は実体がありませんが、「敵意のある植物を用いた攻撃」であれば、攻撃は通ります。
その植物が襲い掛かってくるのを見た時、明らかな悪寒を感じました。
これは間違いなく私を害する目的で放たれた一撃です。
「おばば様、どういうことですか」
「二度は言わん。ただワシの邪魔をするのであれば、死んでもらうぞ。ヴィエラ」
そう言うと、私達の周囲に茨の壁が現れました。
鋭い棘を生やして、籠の中で閉じ込める針の檻。
ですが、一つだけ逃げ道がありました。
四方は囲まれているものの、まだ太陽が昇る上空だけは開かれていました。
私はその事に気付くと、自らの力を使って上空を茨の層で囲み、退路を塞ぎました。
「何故だヴィエラ!」
おばば様が悲痛な声で叫びます。
「何故逃げてくれないのだ、ヴィエラ」
「おばば様と、ちゃんとお話したいのです」
そして、私とおばば様の会話が始まりました。




