王の誕生
洞窟は終わりを感じさせないほどに長かった。
歩いても歩いても出口は見えず、灯りは壁に生える微かな光苔だけ。
床も少し湿っており、あやうく足を滑らせそうになる。
『クランを追って精霊山を登った私を待ち構えていたのは、嘗て私に銃を授けた精霊龍だった』
アルト・ペンドラーの手記にはこうある。
『精霊の儀の時以外は普段を見せない精霊龍が、まるで私がここに来るのを待っていたかのように湖から姿を現し、その大きな口で私を飲み込んだ』
状況は違えど、私も水晶玉から現れた龍によって飲み込まれ、この場所にいる。
あの老人がどのような術を使ったかを知る術はないが、恐らくあの龍もまた、精霊龍だったのだろう。
『あわや彼の龍の怒りを買い、殺されたのかと思って目を閉じた私は、次の瞬間に不思議な場所にいた』
とても狭く、両壁が岩で構成された一本道の洞窟。
微かに光る苔と、足元を流れる水。
間違いなく現在の私と、過去のアルト王は同じ場所を歩いている。
『洞窟はひたすらに長く、何時間歩いたのかも知れなかったが、不思議と疲れを感じることは無かった』
不安定な足場に、先の見えない暗闇を只管に歩く。
常時であれば既に疲れているはずだが、不思議と疲れを感じない。
むしろ一歩、また一歩と進む度に、心に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じた。
『私の情熱が満ち、今にも走り出さんとした時、今まで暗かった洞窟に眩いばかりの光が差した』
それはまるで太陽を直視するかのような眩しさであり、春風のような心地良さ。
温かい光が私の肌を刺し、その正体を見極めんと再び歩を進める。
『これが私と、王銃エクスカリバーとの出会いだった』
導かれるかの如く分け入った洞窟で、新たな王は運命に辿り着く。
そして大きな一歩を踏み出すのだ。
閉じられた悲劇の幕を引き裂き、嘲笑する観客への叛逆が始まる。
そんな文章が刻み込まれた台座の上で、黄金の光に包まれて浮かび上がる美しい銃があった。
清銃ディランにも勝るとも劣らぬ輝きを放ちつつ、どこか荘厳な雰囲気を受ける。
私は以前、その銃を見た事がある。
今この時ほどの輝きを放ってはいなかったが、間違いなく前アルト王が生前に使用した愛銃である、『王銃エクスカリバー』だ。
『これを見た者が、そこに辿り着けるかは分からない。だかもし君がそこに辿り着いたのならば』
私は迷うことなく光に手を伸ばし、銃を掴む。
『どうか私の無念を晴らして欲しい。この絶望の脚本を考えた"奴"を倒してくれ』




