ヒストリアの力
ティーがいるのは放送局でほぼ間違いないだろう。
この海底都市全体に音波攻撃なんて芸当をするには、そこの拡声器を使うしかない。
問題なのは、相手が何人いるかという話だ。
ヒストリアさんの話によると、音波は使い方によっては人の精神を左右することも可能であり、その力を意のままに操っていたのが、ティーのお婆さんにあたるミーシン・セージという女性だったらしい。
確かに以前海底都市でティーが暴走した時に巻き起こった現象は、人間技では無かった。
ただの声で建物が破壊されるだなんて衝撃でしかなかったし、それぐらいの力があれば人を操ることも出来るという話だって納得だ。
「で、具体的にどうすんだよ」
「あの女とお前が会うところまでは私が保証してやる。だからお前はそのトライデントを使ってどうにかしろ」
いや、どうにかしろと言われましても。
どうするのかという質問に、どうにかしろっていうのは答えになってないだろう。
だがヒストリアさんにも確実な方法など思い浮かばないのだ。
ティーが暴走した時に、ヒストリアさんはその力をコントロールしようとしたらしいが、力量の差が違い過ぎて歯が立たなかったらしい。
というか、あの時って確か俺がティーとその……キ、キスしてどうにかしたんだよな。
つまり今回もまたやるのか?
なんというか、あれ以来俺とティーは一応付き合ってるってことにはなってるけど、都市長とそのサポートって仕事が忙しすぎてまともにデートとかの類は出来てないんだよな。
「そっか、まだ何もやってねぇもんな」
「いきなりどうした」
そう思えば、俺とティーの関係はある意味全く進歩していない。
ティーを生涯賭けて守ると意気込んだのはいいが、このままでは本当にただの仲がいい二人で終わってしまう。
そうならない為に、せめて自分で誓った宣言通り、ティーを正気に戻してやらなきゃならないんだ。
「見えたぞ。あれが放送局だな」
ヒストリアさんがそう言って睨み付けるのは、周囲の建物よりも一際大きな白いビル。
その入り口には大勢の人魚が立ち並んでおり、全員が手に獲物を持って剣呑な雰囲気を出している。
「私の部下までいるではないか……惑わされおって馬鹿共が」
車はその勢いを落とさず放送局に向かって突っ込み、入り口へ衝突する直前で急停車した。
すぐに人魚達が俺達を取り囲もうとするが、ヒストリアさんが立ち上がって右手を掲げると、糸が切れたように全員がその場に倒れる。
「いくぞ。トライデントをいつでも使えるようにしておけ」




