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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第一章 魔族のフィスト
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始まったけど乱入するけど挑戦したけど

 競技場内に、突如として荘厳な音楽が流れる。


「これより、第421回王都祭を開催いたします」


 会場内に響き渡るアナウンスに、観客たちは歓声を上げる。


「最初に、リリー王家よりお言葉を賜ります。会場の皆様、ご起立ください」


 歓声は止み、人々は立ち上がる。


「リリー王家、第一王女。リリー・フリジディ様」


 王都祭の開催の言葉は、王が行うわけではない。

 この王都で軍事的に最強たる人物が、年齢に関係なくこの大会の開始を告げる。

 その最強はアナウンスに応じて、競技場内の最上層から神が下界を見下ろすが如く、観客の前に姿を現す。

 色素などないかのように透き通った長い髪。病的とも言えるほど白い肌。

 そんな白く透明な彼女の体で、唯一色を持つのが、その眼と唇。

 自分以外の全てを見下したような眼差しで競技場内を一瞥し、嘲笑うかのように口角を上げる。

 少女のそれを、この世界に咎められるものはいない。

 一度でも咎めたが最後、彼女の力で一生肯くことしかすることが出来なくなるだろう。


「これより、王都祭を始める」


 以上。

 彼女はもう自分の役目は済んだと、王家専用の椅子に足を組んで座る。


「……皆様、ご着席ください。ではこれより、各ブロックごとに代表国の選手が戦います。対戦表はモニターをご覧ください」


 気を取り直したかのように、アナウンスがなんとか場をつなげる。


「相変わらず顔だけはため息つくくらい綺麗ね」

「そんなこと言って治安委員に聞かれたら不敬罪で一発死刑よ。黙っときなさい」


 そんな式の流れに、ため息をつきながら言うビッケと、窘めるフィスト。


「私くらい美少女なら死刑になる前に彼女の『コレクション』にされるわよ」

「ははは、違いないわね」


 美しい王女にはもう一つ噂、というより有名な事実がある。

 自分の気に入った容姿、特に美少女に洗脳を掛けて、王城にある彼女専用の『コレクションルーム』に『飾る』らしい。


「どうか願わくば、ヤコさんが乱入者選別の時点で払いのけられますように」

「それは無理でしょ。私でも突破できたんだし」



 観客席にいるフィストの予想通り、天上院は巨人二人の乱入者選別を無事突破し、大会への乱入権を手にしていた。

 乱入は優勝者が決まった時に行われ、各国の推薦から勝ち上がってきた者と乱入者による最終決戦で本当の優勝者が決まる。

 天上院は今、乱入する際の衣装決めに勤しんでいた。


「こちらはどうですか?」

「んー、ちょっと動きにくいな」

「ではこちらは?」

「若干胸がキツイや」

「ならばこちらは如何でしょうか?」

「んー。お」


 天上院はとある衣装に目を付けた。


「これがいいや」

「えぇ……本当にそれがいいんですか?」

「もうこれ以外に考えられない」



 大会は順調に消化され日が暮れた頃、各国代表の決勝戦が行われる。

 決勝戦で戦う内の一人はマントを羽織った全身鎧の騎士。

 そしてもう一人は高級そうなローブで身を包んだ女。

 その様子はまさに壮絶で、騎士が切りかかると女は障壁を生み出して防御。

 女が魔法を唱えると、騎士は剣でその魔法を切り裂くという離れ業を見せる。

 観客の熱気がピークに達したころ、両者の決着がついた。

 全身鎧は膝をついた後、ゆっくりと倒れる。


「第421回王都祭、優勝者はラポシン王国の王女、ピア・カモン様です!」


 優勝者の決定に、観客のピークに達したはずの熱気はさらに上がる。


「ふぅ、4年前は散々でしたが、今年はどうにか勝てましたわね」


 そう、彼女、ピア・カモンは四年前も王都祭に出場したが、前回の優勝者、アイディール・ロウにこっぴどくやられたのだ。


「これで終わりだといいのですが」


 ピアの脳裏に走るのは、乱入者の三文字。

 乱入者というのは、登場しない年もある。

 予選に全員振り落とされ、乱入全員無しとなった場合だ。

 これは普通にあることで、確率はほぼ半々。


「まぁ、今年もいるんでしょうね」


 観客がどことなくソワソワしているのが肌でわかる。

 皆期待しているのだ、乱入者の存在を。

 ピアには、期待の乱入者が今年もいるということが分かった。

 別に強者の雰囲気を感じたというわけではない。

 理由は単純。大会の作業員が、透過の術を使って、不審な動きをしているからだ。

 そして再びアナウンスから、競技場にいる全て、ピアを含む全ての者が望んだ言葉を紡ぐ。


「――会場の皆様、ここで突然ですが、緊急事態です。栄誉ある王都祭に、乱入者が現れました」


 その言葉に、怒号にも似た歓声が響き渡る。


「やはり、いますか」


 ピアは中央王都に戦争で負け、従属している国の王族。

 なので一応代表として出場しているだけで、優勝しても特に中央王都から特別な褒美が貰えるわけでもないのだが、優勝できるならそれがベストである。

 その最後の壁である、乱入者の登場に対して、本能的に身構える。

 前回の乱入者は幻術を巧みに操るダークエルフだった。

 さて、今年はいったいどんな曲者が現れるやら。


「さぁ、乱入者が遂にその姿を見せます、会場の皆様。括目せよ、その雄姿に!」


 心なしか熱の入ったアナウンスを聞いて、全ての視線が競技場の中央に向けられる。

 数泊おいて後、物凄い勢いで噴射された煙と光魔法によるエフェクトが巻き起こった。

 光が収まり、煙が晴れ、会場に大いなる静寂が訪れる。

 そしてその張りつめた雰囲気の中、射殺すような視線の先には


「お ま た せ」


 ボンテージ姿の天上院がドヤ顔で仁王立ちしていた。


「は?」


 ピアは状況が理解できずに、固まってしまう。

 今年度の乱入者は、性技を巧みに操る変態女だ。



「え……?」


 いまだに混乱から立ち直れないピア。

 それは観客も同じである。

 突然現れた痴女に驚愕を隠せない。


「衝撃的な登場をした今年度の乱入者、出身は異世界のガチレズバンザイ国より転生、第17代王女のドスケベ=クイーン三世様だそうです!」


 もちろん全て天上院が乱入者として係員に名前を聞かれた時に答えた出鱈目である。


「なにやってんのヤコ……」

「ガチレズバンザイ国のドスケベ=クイーン三世ってなに……なんでそんなヤバそうなのが三代も続いてるの」


 観客席でドン引きのフィストとビッケである。

 いや、二人だけでなく、もはや会場中の全員がドン引きしている。


「え、えー。どうします? アイディール様」

「猥褻物陳列財扱いで拘束します?」


 治安委員も、もれなくドン引きしていた。


「え、えーっと。その、そういうお国柄なのかもだし……とりあえず様子見で」


 『鉄の女』であるアイディール・ロウも、平時なら決して見せることない動揺した表情を見せていた。


「えーっと、貴女が乱入者様ですの?」

「いかにも、我こそはドスケベバンザイ国の19代王女、ガチユリ=クイーン三世である」

「あれ、先ほどのアナウンスではガチユリバンザイ国と言っていたような気が……」

「ふはははは! 細かいことはどうでもよろしい。麗しき姫よ、いざ尋常に勝負!」


 ワリとどうでもいいところは適当な天上院だった。


「なにあのキャラ……」

「強そうな口調だと本人は思ってるんでしょうね……服装も相まってバカにしか見えませんけど」


 フィスト達はモニターに映る天上院の姿を見てため息をつく。

 そんな観客たちをよそに、栄誉ある王都祭、その決勝戦が始まった。


「くっ、ふざけた格好のくせにやるじゃないですか!」

「何を言う! これは我が国の決闘時における正装だ!」


 天上院は全日本国民に謝るべきだろう。

 しかし戦いは観客の想像に反して、熾烈を極める。

 天上院がペニバーンでピアを攻撃しようとすれば、ピアも魔法で応戦する。


「これはあまり使いたくなかったのですが……」


 そう言ってピアが天に両手をかざすと、光とともに大きな銃が現れる。


「ほう、奥の手があるのか」


 銃なら離れるより接近したほうが得策と考えた天上院は、ピアに肉薄する。


「近寄らないでください変態!」

「ぐあああ!」


 だがピアは近づいた天上院をその足で払いのける。


「なかなかいい蹴りを持ってるじゃないか、イきかけたぞ……」

「ほんとに気持ち悪いですねアナタ……ですがこれで終わりです」


 痛みに思わずうずくまる天上院に向けて、ピアは銃を構える。


「これは全弾追尾性のガトリングガンです。申し訳ないですが、死になくなければ投降してください」


 王都祭の戦いにおいて、もし戦いの結果死人が出てしまっても、それで罪に問われることはない。

 これはピアの警告である。


「えげつないモン持ってるなオイ……だけどね!」


 天上院は立ち上がり、ピアに向かって走る。


「私は一度も!」


 天上院は叫ぶ。


「死ぬのが怖くて美少女を諦めたことは無いッ!」

「そうですか、残念です。では、さようなら」



 ピアは迫り来る天上院に対し、容赦無く引き金を引く。

 彼女の持つ銃は、そこまで体を鍛えていない女性でもその反動に耐えられるように改良された上、魔力を追尾性の銃弾に変えて敵を撃つという、超高性能なガトリングガンである。


「究極性技 真四十八手 其ノ二十八」


 天上院は銃口から放たれ、天上院の命を奪わんとするその弾丸に対して、彼女が持つ奥の手を使う。

 ペガサスの防御魔法で防いでもらうことも考えたが、どちらにせよもう間に合わないし、自分の力で防がなければ、王家の目に留まる事は無いと判断したからだ。


「“ヨリソイ”」


 “ヨリソイ”

 究極性技 真四十八手の中でも数少ない防御系統の技の一つ。

 戦いに疲れた者達に束の間の休息を与える。

 その神聖ともいえる空間に、無粋なモノが入る余地は無い。


 天上院に放たれた魔弾は、彼女の体に当たる前に、悉く消失する。


「そんな馬鹿な!?」

「か~ら~の~?」


 衝撃的な光景に、思わず銃を撃つ手を止めてしまうピア。

 その大きな隙を、天上院が見逃す事は無い。


「究極性技 真四十八手 其ノ四十八」


 再び肉薄する天上院。

 ピアは先程のように蹴り飛ばそうとするが、二度も同じ手を食らう天上院ではない。


「“ツバメガエシ”」


 “ツバメガエシ”

 究極性技 真四十八手、その最後たる四十八番目を司る奥義。

 相手が晒した致命的な隙を寸分違わず貫く。

 剣豪の必殺技を冠するその名に、恥ずべきモノ無し。


「きゃあああああああ!」


 ツバメガエシの直撃により、思わず銃を手離してしまい、吹き飛ぶピア。

 競技場の壁に強く背中を打ち付け、襲う激痛に耐えてどうにか立ち上がろうとした彼女の鼻先に、槍の穂先が突き付けられる。


「……私の負けですわ」


 ピアの降参により、沸き立つ会場。

 天上院の登場や服装は少々アレだったが、肝心な戦いは大いに自分たちの血と魂を湧き上がらせてくれたのだ。

 乱入者というのは通常、各国の代表選手に勝つ確率は低い。

 なぜならそこまで豪の者ならば、代表選手になっているからである。

 だから今回の戦いは異例中の異例。


「やった! やった、ヤコさん勝ったよ! フィスト!」

「ヤコならいいセン行くとは思ってたけど……勝っちゃうなんて」


 観客席で大興奮のビッケと、どこか呆れた様子のフィスト。

 素晴らしい戦いを見せた二人を、全ての人間が称賛する。


 だが、この王都祭はまだ終わらない。

 優勝者となった天上院は、ピアから視線を外し、ずっと上……観客席の最上層。

 そこに自らの愛槍、ペニバーンを向ける。


 天上院のその行動に、観客達は最初、何をしているのか分からなかった。

 勝利した自らを誇ったポーズかと思った。

 だが、モニターに映る天上院の挑発するような表情を見て、何かがおかしいことに気付く。

 まさか、いや、そんなはずはない。


 観客達は分かっているのだ。

 天上院が何をしていて、何を望んでいるのかを。

 だが、どうしても理解できない。頭がソレを拒否する。


 だってそれは、この世界の最強に挑む行為だから。


 美少女感知センサーは、この競技場内のあちこちに、やかましいほど反応している。

 だがその中でも、天上院の頭上にいるソレだけは別格だった。

 他の反応を感じ取ることが出来なくなるほど、センサーはソレを強く示していた。


「かかっておいでよ、王女様(ガール)


 果てしない天を見上げ、天上院は不敵に笑う。



 天上院の槍が示す先を、人々は見上げる。

 最強は挑戦者チャレンジャーの申し出を受けるのかと。


「いい度胸ね」


 最強は玉座から立ち上がる。


「顔は文句無い、むしろ満点」


 そしておもむろに最上層から飛び降りた。

 悲鳴が上がる。

 それはそうだろう、人が超高高度から飛び降りたのだ。

 しかし、この世界の最強は、そんな人々の心配など杞憂とでも言うかのように、宙で優雅に浮き上がる。


「本当にやるの……?」


 降りてくる王女の姿を見て、不安そうな声を上げるビッケ。

 もはや後には引けない。


「私達は最初っから、祈る事しかできないでしょ」


 それを見て、半ば諦めた様子のフィスト。


「ヤコさんが心配じゃないの?」

「止めたところで聞くような性格なら、ヤコはそもそも王都祭に参加してないよ」


 王女は遂に、競技場に降り立つ。

 見た目は14歳の、いやそれ以上に幼く見える少女。

 だが彼女の纏う雰囲気は、何処か重苦しい。

 1000の時を生きる魔族の王ですら、こんな邪悪な雰囲気をまとう事は無いだろう。


「呼んだ? ドスケベさんとやら」

「ふふっ、お会いできて光栄だよ」


 そんな彼女を前にして、飄々とした雰囲気を保つ天上院。


「要件は何かしら?」

「『自分より強い人』としか結婚しないんでしょ?」

「……そうよ」


 天上院の質問に、ニヤリと笑って返す『不貫の王女』リリー・フリジディ。

 何故女である天上院が、自分にそんな質問をしたのかなど、彼女は疑問に思わない。

 彼女は天上院から感じたのだ、自分と同じ波動を。


「プロポーズをしに来たんだ」

「そう」


 その言葉に驚くことはないフリジディ王女。

 そして、薄く笑ってこう返す。


「なら、縁談と行きましょうか」

「あはは、ご趣味は何ですか? ってね」


 二人は何も言わず、各々の武器を召喚する。

 天上院はペニバーンを。

 フリジディはイージスの盾を。


「そうね、私の趣味は」


 先制した天上院の槍による突きを盾で軽くいなしながら、王女は答える。


「美少女を愛でる事かしらね?」


 盾によるシールドバッシュを、後ろに一歩引いて天上院はそれを避ける。


「奇遇だね、私と一緒だよ」


 避けられた王女は深追いせず、その場で踏みとどまり、天上院の様子をうかがう。


「あら、気が合うのね」


 そんな王女の反応を見て、動きが単調にならないよう緩急を付けながら、天上院は槍を繰り出す。


「あはは、でも私は生き生きとした少女が好きなんだよね」


 しかし、そんな小細工は無駄とばかりに、その全てを王女は防ぐ。


「あら、残念。」


 全てを防がれた天上院は、王女から再び距離を取る。


「私は、私の言うことに逆らわない子が好きだわ」

「うーん、分かり合えないね」

「口では納得できないみたい」

「あはは、なら」


 天上院はペニバーンを風車のように回した後、日の落ちた夜空に槍を向ける。


「拳で語ろうか」


 天上院とペニバーンは光に包まれて消える。

 しかし次の瞬間、閃光に包まれ、天上院が再び現れる。

 完全変態ドスケベ☆ヤコモードだ。


「覚悟は出来てる?」


 本気になった天上院。

 その姿を見て、フリジディ王女は少し驚いた後


「へぇ、貴女もソレ(・・)使えるんだ?」


 ニヤリと笑った。

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