トライデント
「ここだよ。ここが俺の家だ」
「了解した」
海底都市のアレックスの家に、一台の車が滑り込むようにして到着した。
ヒストリアはアレックスを車に乗せた途端、事故を起こしてもおかしくが無いほどのスピードで車をかっ飛ばし、ものの数分で目的地へと到着させたのだ。
こんな彼が環境長官というポジションで、インフラの整備やライフラインの建設などを行っているというのだから疑問でしかない。
「私はここで待っているから、早くトライデントを持って戻って来い。そのまま都市長殿と会いにいくぞ」
「おう。すぐに取ってくる」
ヒストリアさんと別れた後、家に入って自室へと走る。
そしてクローゼットを開くと、大きな白い布に包まれたソレが、布を透かすほどの眩い光を放っていた。
「おぉ、なんだこれ」
『我が主、我が主よ』
相変わらず煩いなぁコレ……
音が出る機能に加えて自動的に光る機能まであるなんてどんな造りをしてるんだ。
「まぁいいや、持ってこ」
取り敢えず下手に触るのも面倒だったので、詳しい話はヒストリアさんから聞くとして、布ごと引っ掴んでクローゼットから取り出した。
そしてそれを担いで部屋を出ようとして、ドアに思いっ切りトライデントをぶつけて転んだ。
「いってぇ……」
無駄にデカいんだよなぁ、これ。
そういえば部屋に入れる時も相当苦労して気がする。
槍の穂先があまりにも鋭いもんだから、ちょっと滑らせた時に壁へ大穴を開けたのだ。
父さんには死ぬほど怒られたし、俺がこの槍の扱いが雑な理由もそういうところにある。
別に貰ったところで使わないのだ、コレ。
細心の注意を払って槍を抱えたまま階段を降りて、ヒストリアさんの待つ車へと急ぐ。
車が幸いにも天井が開いているオープンカーだったので、槍が車に詰め込めないという悲劇は起こらなかったが、それにしたってこの槍は相当重い。
「お前……なんでそんな状態になるまで放置していたのだ」
「い、いやぁ。流石に槍が光るとは思わねえだろ」
ヒストリアさんは持って来たトライデントを見て、軽いため息をつく。
しかし槍が光り始めたのは間違いなく今日からだ。
この槍を保管していた場所は俺の着替えなども入っているから毎日確認するのだが、今日の朝までこんな風に光っているのは見たことが無い。
「まぁいい。取り敢えずあの女がいるだろう場所に向かうぞ」
そういうとヒストリアさんは、エンジンを起動して車を発進させた。




