無機質な死神
ゼロの合図と共に、戦艦トレボールから人口生命体の兵士たちが飛び出した。
下級兵士だけでなく、上級兵士達が隊を為して人間達に襲い掛かる。
「立ち向かえ、勇敢な兵士達よ」
しかし人間サイドもただでやられはしない。
エクスト王が率いる精鋭部隊を筆頭に反撃を行う。
巨人達が大きな手で握り潰し、天馬騎士が撃ち落とす。
「妨害電波、起動!」
精鋭部隊だけではない。
一般の部隊もまた、各々に出来る役割を全うしていた。
中央王都の科学班によって即席で生み出された妨害電波を、巨大なスピーカーのようなもので発信。
試作段階でしかない為に余り大きな効果を得ることは出来なかったが、人口生命体達の動きは少し鈍くなった。
しかし、そんな妨害電波すらもモノともしない人口生命体もいた。
「たっ、助けてくれ!」
妨害電波を放つスピーカーを護衛している部隊の兵士が、現れた一人の赤い服を着た人口生命体によって首を刎ねられた。
最上級兵士は妨害電波を全く意に介さずスピーカーに接近し、それを叩き壊す。
紙細工のように粉々にされたそれは機能を失い、周囲を護衛してた兵士達に戦慄が走る。
人口生命体達への切り札となり得るそれは、突貫ではあるものの、他のどんな兵器よりも頑丈に作られていた。
しかし現実は最上級兵士によって片腕一本で叩き壊され、その機能を失ってしまった。
妨害電波を放つスピーカーはここにあるものだけではないが、この様子では全て壊されるのも時間の問題だろう。
人口生命体の動きを鈍らせ、その隙に行動不能状態にするという作戦にも関わらず、その最初の段階すらも上手くいかないのであれば、絶望でしかない。
いや、それ以上に、兵士達にとっては目の前に存在する絶望が第一だろう。
鋼鉄をも容易く叩き潰した最上級兵士の無機質な瞳が、くるりと護衛隊へと向けられる。
目元は全く笑っていないにも関わらず、口角だけが愉快そうに上げられたその表情を見て、人間の兵士達は恐怖を覚えた。
そして最上級兵士の姿が一瞬ブレたかと思えば、全ての護衛兵は最初にあの世へと旅立った兵士と同じく、一瞬にして物言わぬ肉塊へと姿を変えた。
目標を一つ達成した最上級兵士は、また次の標的を探して戦場の死神となって彷徨い始める。
運悪くそれに遭遇した人間達は、何も抵抗出来ずに死んでゆく。
状況は、徐々に人間達が劣勢となっていった。




