化け物
目を瞑って衝撃に身を構える。
耳をつんざく様な轟音が聞こえた。
化け物が振り下ろした腕はラポシン王国と私を虫ケラのように叩き潰し、破壊するだろう。
しかしいくら待てども痛みは襲ってこない。
ひょっとしたら即死をしたせいで、痛みを感じずに死ぬことが出来たのだろうか。
それはある意味幸運なのかもしれない。
だが、こうして思考をすることが出来るということは、ひょっとして私は生き延びているのだろうか。
恐る恐る目を開くと、そこには空中にふわりと浮いた、紫がかった髪の毛の少女が化け物の攻撃を受け止めていた。
苗木の枝のように細い片手一つで、化け物の巨腕を受け止め切っている。
冗談のような光景だが、
「クッキー、美味しいですから」
少女が呟いて腕を払うと、化け物は大きくたたらを踏んで後ずさりをした。
その隙を逃さずに追撃をする少女。
体格差をものともせず戦っているが、決して有利とは言えない。
暫く呆けてその光景を見ていた私であったが、自分の使命を思い出し、周囲に檄を飛ばした。
「何をしている! すぐに兵士達は国民の避難、余力のある者は彼女の援護をせよ!」
国を統治する者は、頭脳だけでなく、その身を捧げて国を守らねばならない。
私は王都祭で優勝する為だけに日々鍛錬をしているわけではない。
その力を民の為に使い、仇なす存在を打つ払う為に磨いているのだ。
「出でよ、砲門」
城の修繕費すらケチって、なけなしの予算を叩いて用意した軍事力。
今ここで使わなくていつ使うのか。
「放て!」
私の命令に従い、指を差した対象に向かって国の城壁に備え付けられた砲台からレーザー光線が射出される。
本来であれば敵陣目掛けて火炎弾でも打ち込むところであるが、対象が自国に居る為に周囲への被害を最小限へ抑えるレーザー光線が選択された。
そしてその対象は勿論、化け物に向けてである。
少女が砲門に気付いてその場から離れてくれたので、何の心配もなく砲撃が出来た。
国家的脅威の排除とはいえ、流石に命の恩人を巻き込むのは気が引けたが、これで流石に化け物も消し炭になっただろう。
「グ、オォオ」
しかし、光線が収まった後に現れたのは、植物の蔓なようなものを用い、高速で自己再生を行う化け物の姿。
その再生速度は異常な程であり、驚いている間にも再生は終わってしまった。
「な、なんで」
「貴女、偉い人ですか?」
渾身の一撃が無意味だったという事実で頭が真っ白になった私へ、いつの間にか傍によって来ていた少女が話しかけて来た。
「私、おばば様とお話してきます。だから、頑張って下さい」
「え、ちょ」
そう言うと少女は何処かへ、いや古代森林のある方向へと飛び去って行った。
残された私は、再び暴れ出そうと恐ろしい咆哮を上げる化け物を見上げて頭を抱えた。




