殲滅
「畜生、さっさとくたばれ!」
人口生命体によって構成された下級兵士は、腕を切り落とし、足を折り、首を撥ねても動きを止めることは無い。
数は王都軍の方が上回っているが、不死の特攻によって形勢は傾き始めていた。
散々に暴れまわった後に爆発し、壊滅的な被害を与える下級兵士。
破壊しても何の名誉にもなりはせず、ただ無表情で襲い来る機械達の猛攻によって、王都軍はじりじりとその戦線を後退する。
「使えないわねぇ」
しかし、それを良しとしない者もいた。
フリジディ王女は広範囲の洗脳魔法を用いて、王都軍の兵士達を強制的に進軍させる。
無理矢理立て直された戦線によって形勢は一時持ち直したが、機械と狂人が互いを尽き果てるまで争い続けるという地獄絵図が生まれてしまった。
しかしその均衡状態も、戦艦トレボールから新たに出撃した集団によって再び傾いた。
青い衣を纏った下級兵士とは明らかに格の違う、赤に金糸の刺繍が施された人口生命体。
最上級兵士及び上級兵士の戦線投入である。
それだけではない。
上級兵士達の登場と同時に、戦艦トレボールの艦内から、空を突くような巨大な砲塔が現れた。
次々と変化する状況に、王都軍は混乱し、統制が取れなくなった部隊から上級兵士達によって殲滅されていった。
そして巨大な爆音と共に、砲塔から何かが発射される。
高く舞い上がるその砲弾は、落ちる事無くそのまま上空へと向かっていった。
撃ち落とされることを予想して身構えていた王都軍は、謎の攻撃に拍子抜けすると共に、その不気味さに悪い予感を覚えた。
「真打登場、ってことかしら?」
一般兵士達には目もくれず、隊を為して襲い掛かって来た最上級兵士達をいなしつつ、フリジディ王女は天空へ打ち上げられた砲弾を見上げる。
『この場は我々の勝利だ、フリジディ王女よ』
辺り一帯にそんな音声が響き渡る。
上級兵士達の口をスピーカー代わりに発せられたその言葉と共に、上空から勢いよく砲弾が落下を開始した。
砲弾は落下と共にその形を変え、巨大な戦闘機となって錐揉み回転をしながらフリジディ王女へ向かって真っ直ぐ向かっていく。
「『星落シ』」
「随分と大層な技名だこと」
巨大戦闘機がフリジディ王女へと衝突し、大きな揺れと砂塵が巻き上がる。
王都軍兵士の悲鳴は爆音に掻き消され、巻き沿いを食らった人口生命体達もまた、鉄屑となって散乱した。
「……これだけの破壊力を前にして微動だにしないとは。化け物だな」
「戦闘的判断で身武一体を行使したのは貴方が初めてよ、誇っていいわ」
しかし周囲がどれだけ壊滅的な状態になっていたとしても、フリジディ王女だけは何も無かったかのように立っていた。
その姿は何時ぞやの王都祭において見せた身武一体の姿。
全裸状態にニップレスという残念極まる姿だが、その柔肌には傷一つ無い。
これぞフリジディ王女にとって最強の姿であり、中央王都最高戦力だった。
「貴方がトレボールの親玉でしょう? 他の人形共とは違うみたい」
「ご明察だな、我こそは機械帝ゼロ。人口生命体を統べる者だ」
「遠くでミサイルを打ってるだけだったら見落としてあげたかもしれないのにねぇ。調子に乗った代償は払って貰うわよ」
「ふっ。強気な態度を取るのは構わないが、ここは引くことをお勧めするぞ?」
そう言って突撃してきた巨大戦闘機、機械帝ゼロはコックピットからその顔を出し、フリジディ王女の背後を見渡す。
「ここにもう、其方の味方はいないようだしな」
王女の背後に広がるのは、ゼロの突撃の余波によって死んだ兵士達の屍。
ゼロの突撃の際、事前に指示をされていた人口生命体の兵士達はある程度その場を離れることが出来たが、王都軍は逃げることが出来無かったのだ。
フリジディ王女としても自らを防御することに専念せねばならず、他の兵士達まで守ることは不可能だった。
その結果、かなりの余力を残しているトレボール軍に対し、王都軍で生きている者はフリジディ王女ただ一人という、明らかな勝敗が決した。
「我々が望むのは人類の殲滅。勝利ではなく破壊だ」
そう言うとゼロはフリジディ王女に背を向け、戦艦トレボールへと向かう。
「本日はこれにて引き上げよう。明日の正午に再び中央王都へ攻撃を開始する」
戦闘機の形態から人型へとその姿を変化させ、ゼロは艦内へと帰還する。
「それまでに全ての戦力を集結させよ。繰り返すが、我々が望むのは勝利ではなく破壊なのだ」




