導き手
揺らぐ視界の中、私は目覚めた。
しかし体全体が重く感じるし、何より全く頭が働かない。
なんとなく記憶はある。
最上級兵士達との戦いで私は敗れたのだ。
定まらない視界をどうにか動かして現状を探る。
手足が拘束具のようなもので十字架のような形をしている器具に縛り付けられており、身動きは殆ど出来ない。
殺されていない、というのは運が良かったと言えるかもしれない。
だがこうして拘束されている以上、命の保証があるとは言えない。
記念すべき二度目の死を迎える可能性は十分にある。
「お目覚めか、導き手殿」
どうやってこの拘束から抜け出そうか悩んでいると、誰かから声を掛けられた。
キハーノさんやパンサさんではない。
確か、ゼロの声だ。
頭をそちらに向けると、未だにハッキリしない視界で、恐らくゼロと思われる人物の姿を捉えることが出来た。
「手厚い歓迎に感謝するよ。ゼロさん」
「あぁ、娘の大切なお友達だ。それは丁重におもてなしするさ」
皮肉を込めて挨拶をしたが、よくわからない返答をされた。
娘って誰だ。
「さて、生憎美味しいクッキーやお茶を出す事も出来なくてね。代わりに面白い話をしてあげようと思うんだ」
面白い話とは一体なんだろうか。
恐らくだが、私にとっては愉快な内容ではないだろう。
「なに。少し難しい昔話さ」
むかしむかし、今から大体200年前。
世界はとても発展しており、人々は平和に暮らしていました。
しかしある一人の人物が言いました。
『この世界は停滞している。一度壊して創り直さなければ、これ以上の発展は無い』
その人物はとても強力な力を持っていましたが、残念なことに直接的な行動を取ることが出来ない上に、そうする時間もありませんでした。
しかし諦めずに方法を模索した結果、自分以外の人物に力を与えるという結論に達しました。
意見に賛同する6人に力を分け与え、目論見通り平和な世界は終わらぬ争いが続く動乱へと姿を変えました。
人々は戦う為に必死になり、敵を殺すために研究をし、纏まる為に強力な支配体制を形成しました。
力を与えられた6人はそれぞれの支配者として君臨し、世界の発展の為に尽くしました。
しかし、200年経つと、再び世界は平和になってしまいました。
殻を破るような明確な発展はなく、「愛する人と生涯を過ごすことが出来ればそれでよい」と考える人達も出てきました。
これでは戦いで死んだ人達も報われません。
人は血と汗にまみれ、必死にならなければならないのです。
困った6人と1人は考えました。
支配者となった彼らは、そう簡単に戦う理由を作ることが出来なくなってしまったのです。
やがて、彼らは一つの方法を思い出しました。
『そうだ。異界からやって来た者を、争いの導き手としよう』




