王銃エクスカリバー
私はその日、朝から執務をしていた。
扉をノックする音が聞こえ、入室を許可すると、そこには髭を伸ばした老人が立っていた。
彼は精霊の儀で審判役を務めていた人物である。
普段は精霊山に籠って精霊龍へ祈祷をしているはずであり、王城に姿を見せることは殆ど無い。
歳も定かではなく、聞いた話によると前エンジュランド王、つまりアルト王の時代よりも前から審判役を行っているとの噂まである。
そのエンジュランドでもかなり謎に包まれた人物が訪れたとなると、間違いなく普通の用事では済まないだろう。
「何用か、仙人殿」
「役者は揃い、乱世が幕を開ける」
彼の言っていることは訳が分からないことが多かった。
私とドレッドの試合の時も、彼は謎めいた発言をしている。
しかしその言葉には不思議と重みがあり、意味が無いとは思えなかった。
「申し訳ない。言葉の意図がくみ取れないのだが……」
「水晶を追え。さすれば王の道が開かれる」
そう言うと老人は懐から水晶玉を取り出し、私の前に掲げた。
水晶を追え。とは、この水晶を見つめろということだろうか。
若干警戒しながらも、老人の言葉に従ってみることにする。
ただの水晶ではないらしく、中で何やら渦巻いているのがわかる。
じっと目を凝らすと、その渦はやがて一つの大きな集合体となり、青く荘厳な龍へと変化して、私へとその大きな口を開いた。
「ッ!」
驚いた私は飛び退こうとしたが、水晶からその竜が飛び出して私を飲み込む。
水の中に引き摺り込まれる感覚の後、どこか狭い洞窟の中に放り出された。
「どこ、ここ……」
私は、王城の執務室にいたはずだ。
知る限りでは、あの短時間で移動出来る範囲に、こんな洞窟など存在しないはずである。
これはあの老人が見せた夢か、はたまた幻覚か。
いずれにせよ、早く抜け出して問い詰めてみる必要がありそうだ。
幸い洞窟は一本道であり、迷うことは無いだろう。
後ろはただの岩壁であり、ひたすら真っすぐ進む以外に道は無い。
「この道、なんだっけ」
私はこんな道に覚えがある。
来たことは無い、間違いなく初めて来た。
だが、私はこの場所の存在を知っていたのだ。
それもつい最近知ったはずだ、なんだったか。
「『王の銃』」
そうだ。
前エンジュランド王、アルト王の手記にてこの場所が書いてあったはずだ。
妻であるペンドラー・クランが光となって精霊山に飛び立ったのを見たアルト王は、妻を探すために一人で精霊山の山頂を目指した。
そして山頂で精霊龍と出会い、その腹の中に飲み込まれてしまう。
目覚めたアルト王は、丁度今、私がいるような一本道の洞窟の中にいた。
もしここがアルト王の手記通りの場所であれば。
「この先に、『王銃エクスカリバー』があるはず」
エンジュランドの王に受け継がれて来た伝説の秘宝。
それが、この洞窟の先にある。




