お祭り出るけどレズバレたけど前夜祭だけど
「私に王都祭に出場しろ、って言いたいのかい?」
「ヤコなら絶対にいい結果を出せるわ」
「途中からでも王都祭は参加できるの?」
「飛び入りって形で誰でも出来るわよ」
ここで一旦天上院は少し考え、王都に着いた時から感じていた違和感を、フィストに言う
「一つ質問があるんだ」
「なに?」
「なんで私にそのお姫様の話をしたんだい?」
「……」
今までヤコの質問には全て答えていたフィストが、初めて黙る。
「これは私の傲慢かもしれないけど、フィストは一応私に好意を寄せてくれている、っていう認識でこの数日間一緒に旅をしてきたんだ」
「……」
フィストは喋らない。
「『私しか見れないようにしてあげる』とか言ってたけど、フィストは逆の方向に私を誘導しているよね?」
「……ヤコの旅の目的は、美少女を探すことなんでしょ?」
「うん、そうだね」
「なら、遅かれ早かれヤコはあの王女の存在を知ることになる」
「そうかもしれない。でも黙っておけば、この数日間みたいにフィストは私を独占できたはずだ。事実私が町娘に声をかけている時、全力で邪魔をしてきたじゃないか」
フィストは再び静かになる。
「なんで王女の存在を私に教えたんだい?」
「……知らない。ほら、レストラン着いたよ」
あからさまに話題をそらすフィストだったが、天上院もそれ以上追及することはない。
これ以上は自分で考えないといけない、そう思ったからだ。
「ここは何の料理店何だい?」
「魔大陸の料理よ。私の幼馴染がやってる店なの」
「へぇ、それは楽しみだね」
店の外観はとてもじゃないがレストランとは思えない。
骸骨の口が開いたような入り口、その周りを囲むようにある悪魔の彫像。
表にある「今日のおすすめメニュー」という看板が無ければ、一見お化け屋敷かと思うような外観をしている。
フィストの後に続いて、天上院は入店する
「いらっしゃ……あー! フィストじゃない!」
「久しぶりね、ビッケ」
「フィストが誰かと一緒にいるなんて珍しいね~。その人だぁれ? すごい綺麗なヒトだけど」
店の中には黒くて小さな翼を生やした女の子がいた。
胸元を大きくはだけさせ、下部にいたっては最早履いている意味があるのかと言える、ヒモのような下着? を履いている。
天上院はあからさまに劣情を誘っている女の姿に大興奮だ。
「お嬢さん、私と店の裏に行きましょう。大丈夫、怖いことなんか何もないですよ」
「あー、ヤコ。その子一応サキュバスだから、下手に手を出すとマジで全部持ってかれるわよ」
「女性を抱いて死ぬなら本望」
天上院にとって腹上死は最も名誉な死に方だ。
騎士が戦場で死ぬのと同等と言ってもいいかもしれない。
「フィストの彼女面白いわね~。ヤコさんって言うの?」
「なっ、ヤコは別にただの友人で!」
「うっそだ~。もうHな関係まで進んでるって匂いでわかるよ?」
「そんなことまでわかるんだ、凄いねサキュバスって」
流石性欲を司る種族。その手の判断は造作もないというのか。
「えっ、本当にそんな関係なの?」
しかしそんな天上院の反応を見て、ドン引きしたような表情で二人を見るサキュバス。
どうやら単なる冗談のつもりだったらしい。
「ヤコ……」
「……なんかごめん」
ちょっといたたまれなくなった天上院は、少し遠い目をしているフィストに謝ることくらいしか出来なかった。
店内に気まずい雰囲気が漂う。
それをどうにか解消しようと、声を上げたのはこの店のオーナーであるビッケ。
「あー、とりあえず、座って。お二人で大丈夫?」
「二人で大丈夫よ……」
「すぐにお冷を出すわね」
フィストの幼馴染だというビッケの店は、レストランというよりはバーのような風体の店だった。
「ビッケさんとフィストはいつ頃から友達なんだい?」
雰囲気をどうにか変えようと、天上院はフリストに話を振る。
「あ、あぁ。ビッケとは子供時代からの付き合いでね。昔は魔大陸中を一緒に所狭しと駆け回ったものよ」
「そういえばなんでフィストは魔大陸を離れて各地を回っていたの?」
「さっき言った通り、子供の頃は魔大陸中を駆け回っていたんだけど、私には狭く感じてね。どこに行っても同じような荒廃した景色。明けない夜、つまらなくなって飛び出したんだ」
結構ヤンチャなフィストだった。
「魔大陸ってそんなひどい所なの?」
「うん、他の大陸に行ったら地元がゴミに見えてきた」
「そんな生まれ育った故郷を否定するもんじゃないよ……」
「そうよフィスト。貴女たまには魔大陸に帰って御両親に顔を見せなさいよね。メールばかりで碌に電話すら寄越さないそうじゃない。そのせいでこの前オレオレ詐欺に引っかかりそうだったんだからね。あの人たち」
二人がフィストの昔話をしていると、グラスに水を持ってビッケが店の奥から戻ってきた。
「私はオレなんて言わないでしょ……」
「声を聴かないと、親って案外簡単に騙されちゃうものよ。」
むくれるフィストをビッケが窘める。
「私的にはフィストの過去話より、そちらのヤコさんとフィストの馴れ初めを聞きたいんだけど」
そう言ってビッケは二人をじろりと見る。
「その前に一つ聞いていい? ビッケ」
「なによ」
「なんかさっきより随分と着込んでない?」
フィストの言うとおり、店の奥から戻ってきたビッケは先程の服装から一転、全身を黒いフードで包んでいた。
「いや、別に同性愛とかに関しては偏見なかったつもりだし、愛のカタチの一つだと思ってたけど、いざ昔からの友人が同性愛者って分かると……ちょっと引いちゃって」
「ビッケ!?」
「フィスト……私達これからも清い関係でいましょうね?」
「私が汚れてしまったかのような言い方はやめて!」
「フィストがどこか遠い存在になってしまった気がするわ……」
「私はここにいるから!」
大声で会話をする二人を見て、本当に仲のいい二人なんだなぁと思う。
冷静な天上院だからこそ気付いているが、口ではビッケがフィストを遠ざけているが、口元が微かに笑っている為、ただの冗談なのだとわかる。
「二人は本当に仲がいいんだね」
「ズブズブの関係である二人ほどじゃないけどね」
「そんな関係じゃない!」
「そうですよ、まだキスまでしかしたことないんですから!」
「ヤコも話をややこしくするのはやめて!」
一方フィストは二人のからかいに対してガチ焦りである。
「フィスト……将来は自分より強くて、私がどこにいても見つけてくれる人と結婚するって言ってたのに……」
「ビッケ!? 何故距離を取るの!?」
「強引に押し倒されて愛を囁かれたいとも言ってたけど、まさかそちらの方にもう……」
「はい。出会ったその日にやりました」
「やっぱり……」
「うわぁああああああああああああ!」
本気で狼狽えるフィストを見るのが楽しくて、もっとからかう二人。
それで更に動揺するフィスト。
落ち着いてご飯を食べるのは、まだまだ先になりそうだ。
「んで、お二人さん。注文は何にする?」
フィストのからかいを頃合いで辞めたビッケが、二人に注文を聞く。
「あ、私はあまり魔大陸の料理に詳しくないから、フィストにお任せしてもいいかな?」
「おっけー。んー、ヤギ肉の香草焼きと地底魚のスープ。デザートはサキュバスのミルクアイス。飲み物は誓いのユニコーンで」
「はーい」
「サキュバスのミルクアイス詳しく」
「いや、名前がアレなだけで普通のアイスだから」
「なんだ……ビッケさんの母乳アイスじゃないのか……」
あからさまにがっかりした様子の天上院。
誓いのユニコーンはただの赤いトマトジュースらしい。
若干ゲテモノが多いこの店で、比較的まともな部類のラインナップだそうだ。
二人はビッケとの会話に花を咲かせる。
「ヤコさんは明日の王都祭参加するの?」
「飛び入りで参加する予定だよ」
「へぇ、応援行こうかな。フィストは?」
「私は今回はスルーする予定。ヤコのが私より強いし、ヤコの応援に回るよ。」
「フィストの応援かぁ」
チアリーダー姿でボンボンを振って応援するフィスト。
タオルを差し出してくれるフィスト。
レジャーシートを敷いて、お弁当をあーんしてくれるフィスト。
「たまんねえなおい」
「何想像したか知らないけど、やらないから」
つれない返事だ。
「じゃあ明日は一緒にヤコさんを二人で応援に行きましょうか」
「そうだな。サキュバスの応援があったらヤコも頑張るだろう」
「そんな凄いの?」
「揺れるし跳ねるわよ」
「たまんねえなおい」
フードの上からでも隠し切れないビッケの巨乳に目をやる。
アレが応援中に揺れるし跳ねるのか。
試合に集中できなくなりそうだ。
「天上院ちゃんは何が目的で王都祭に出るの?」
「不貫の王女って人と戦うためかな」
「やめたほうがいいわ」
唐突に真面目な雰囲気になったビッケが、天上院の発言に異を唱える。
「どうして?」
「アレに目を付けられない方がいいわ」
「そこまで言う? 大陸で一番の美少女なんだろう?」
「過去に一度あの女が戦っている姿を見たことがあるの」
先程フィストをからかってきた時とは打って変わって、真剣な瞳でビッケは天上院を見つめてきた。
「あの女の盾に触れた瞬間、いかなるものでも吹き飛ばされる。何度も繰り返すうちに戦意を喪失した相手に彼女はゆっくりと近づいていって」
そこでビッケは一度言葉を区切る。
「隷属の魔法をかけるの」
「隷属の魔法?」
「男も女も大人も子供も関係ない。あの女に気に入られた人間は、みんなアイツの玩具になるのよ」
どうやら想像より過激なお姫様のようだ。
「え、彼女は何歳だい?」
「齢はまだ14歳。ただその力を使って何度も戦争に出撃する過程で、人を屈服させることに悦びを見出したのでしょうね」
ビッケは食べ終わった天上院に忠告をする。
「ヤコさん。貴女は美しい。その上強いのなら、間違いなくあの女は貴女を気に入るはず。どんな手を使ってでも貴女を手に入れようとすると思うわ」
天上院はその言葉を聞きながらワイングラスを傾ける。
「それでも私は」
甘味が一瞬口の中に広がった後、強烈な苦みが襲ってきた。
「私は美少女とドスケベしたい」
ビッケの店を後にし、ホテルの帰りついた二人。
「フィスト」
「なに?」
「お姫様について詳しく教えてくれる?」
さすがに不安になった天上院は、フィストに王女の情報を求める。
「いいわよ、本名をリリー・フリジディ。不貫の王女との異名を持つ。戦闘のスタイルはイージスの盾と呼ばれる盾を操る完全防御型の戦法。そして彼女にはある一つの噂があるの」
「噂?」
「あぁ。攻撃する手段を彼女は持たないという噂よ」
「本当?」
「あぁ、だから相手の心が折れるのを待って、洗脳の術を掛けるのが彼女の戦法らしいわ」
どうやら本当に防御一辺倒な戦いをする人らしい。
「ならその洗脳の術にさえ気を付ければ負けはしないのかな?」
「ところがそういうわけでもない。彼女は他の攻撃手段がない代わりに洗脳術は最高レベルって聞くし」
「それはどれくらいやばいんだい?」
「彼女に触れたらアウトって聞いたわ」
「お前それ相当やぞ」
美少女に触れてはいけない。天上院にはだいぶキツイ条件である。
「どうしよ……流石に洗脳は嫌だなぁ」
「逃げるの? ヤコ」
「やってやろうじゃないか!」
「その割にはやけに弱気じゃない」
「フィストはバカだねぇ、私が美少女相手に怖気づくわけないじゃないか。どうやって洗脳されないように姫様を倒すか考えてただけだよ」
天上院は煽られたら引けないタイプの女だった。
シャドウボクシングを初めて余裕アピールをする。
そんな天上院を見てクスリと笑うフィスト。
「ヤコ」
「なにさ」
「今日はいいわよ」
「え?」
天上院は思わず聞き返す。
何がいいのか分からなかったからだ。
「何がいいんだい?」
「だからその……シてもいいわよ」
その言葉に天上院は一瞬固まる。
そしてその後、満面の笑みで服を脱ぎ始める。
「なになになになになに? 今日はやけに積極的だねフィストちゃん」
「うるさいわね、お酒が回ってイイカンジなのよ」
「こんなフィストちゃんをビッケさんが見たら、なんて言うんだろうね?」
「ふふ、ドン引きどころじゃ済まされないでしょうね」
「いやはや、フィストから誘ってくれるなんて夢にも思わなかったよ」
「昨日は凄いことになってお預けになったでしょ? それに」
フィストは天上院を抱き寄せ、その唇を重ねる。
「明日の英気を養ってあげる為だけだし」
「あはは、頑張っちゃうぞ~」
いつもは天上院からキスをせがむが、フィストが自主的にキスをしてくれた。
これほど嬉しいことはない。
「じゃあお返しに、究極性技 真四十八手を二つほど」
「あはは、なにそれ」
「“立ち鼎”と“鵯越の逆落とし”って技なんだけどね、フィスト、ちょっと立ってくれる?」
二人ともワインでよくわからないテンションになっていたのだった。
明日は王都祭、四年に一度の大会。