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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第五章 人口生命体のキハーノ
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天上院弥子と目指した女 人口生命体のキハーノーSide2ー

「ゼロ様。用意が出来ました」

「すぐに向かおう」


 トレボールの機城の地下に、誘拐された子供達が運ばれた。

 ゼロは自動人形を引き連れ、現場に向かう。

 そこには四角い板に四肢を拘束された子供達が、円形の部屋の壁にズラリと並べられていた。


 その光景を睥睨したゼロは、胸に手を当てて目を閉じる。


「我を造り出した主よ、今ここに顕れ給え」


 ゼロが祈った数瞬の後、空間が一瞬固まり、再び動き出した時には、そこに何者かが立っていた。

 目元まで被ったスポーツキャップに、ヘソ出しシャツと青いジーパン。

 そして黒い髪の毛と透き通るような黄金の瞳。


「やぁ、ゼロ。久しぶりだネ?」

「ご足労おかけいたします。マスター」


 ゼロは突如現れたその人物に跪くと、礼の言葉を口にする。


「ん。これだけあれば十分足りると思うよ」

「はい、依り代の準備は出来ています」

「アハハ、見せて貰っていいかい?」

「勿論です」


 この部屋の中央に位置する巨大な円筒の機械。

 子供達全員の拘束板から伸びる管がそこへと繋がっている。

 ゼロが操作すると、その円筒の機械が二つに分かれ、その中身が姿を現す。


「これが、君の理想の娘なのかい?」

「……えぇ」


 全ての国民が人口生命体によって構成されており、その人権を獲得する為に建国されたのがトレボールである。

 しかしトレボールにおいて、感情という人間としての機能を持つ人口生命体はゼロを除いて一人もいない。


「ま、君も人口生命体では無いしね」


 機械から姿を現した、『理想の娘』と称された物体を見つめるゼロに、謎の人物は笑いかける。


「そして、全く同じ方法で娘を作ろうとしているわけだ」

「……はい」

「永遠に生きる研究、捗ってる?」


 答えは分かってるとでも言うように、ゼロへ質問をし続ける。


 永遠に生きる研究。

 それがゼロの野望であり、人口生命体として生まれた理由でもある。


 ゼロが人間だった頃、研究者として活動していた彼は、不老不死に憧れを抱いていた。

 不老不死だけではなく、彼には是非とも自らの手で生み出したい発明が多かった。

 その為に異世界から訪れたという人物にもコミュニケーションを取り、その知識を用いて新たなものを生み出し、科学の発展に尽力した。


「自らの思考や感情と記憶を全て完璧にプログラムすることで、もう一人の自分を生み出す。だっけ?」


 しかし彼が最も憧れを抱いていたテーマ、不老不死だけはどうしても死の間際まで完成出来なかった。

 彼は自らが信じた自論を研究し続け、何度も挑戦したが、どうしても失敗作しか出来上がらない。

 もっと時間があれば。

 そんな時に現れたのが目の前の人物だ。


「さぁ、始めようか」


 そう言うと中央の機械に手を付いて、瞳を閉じて呟く。


「流動せよ」


 その一言目で、部屋に拘束されていた何十人もの子供達が一斉に苦しみだす。

 散々に暴れるが、誰一人としてその機械による拘束から逃れることは出来ない。


「流れ込め」


 二言目で暴れる子供達の力は段々収まり、やがて動きを完全に止めた。


「我が掌に集まれ」


 子供達から繋がっている管を伝って、淡く輝く光が掌で触れている中央の機械に集まっていく。

 そして掌にその光が集合すると、強い閃光となって瞬き始めた。


 閃光が弾けると、辺りに輝く粒子が舞い散る。

 それを頬に受けて笑みを浮かべると、ゼロに振り返った。


「さ。完成したよ、ゼロ」


 ゼロは何も言わず、ただ真っすぐに『理想の娘』を見つめた。

 ゆっくりと近付いて、その髪の毛を撫でる。


「……違う」


 だが撫でる手を止めて首を横に振り、ポツリと呟く。


「違う? 確かに成功したはずだよ」

「違うのです。これではまだ、完成ではない」


 そう言うとゼロは機械から『理想の娘』を抱き上げ、部屋の出口へと歩いて行った。


「どういうことだい? 君の意図が掴めないよ」


 スポーツキャップのつばに触れ、去り行くゼロを見送る。


「子供とは、成長していかねばならないのです」



◇◆◇



「……ん」


 気持ちが悪い。

 頭が痛い、助けて。吐きそう。

 襲い来る嘔吐感に口を抑える。

 いっそ吐いたら楽になるのだろうかと思い、口を思いっ切り開けてみたが、乾いた空気が出入りするだけだ。


「あ……あぁ?」


 待て、吐くってなんだ。

 私の身体にそんな機能は無い。

 まず今の状況はなんだ、私は誰だ。


 個体名:D・キハーノ

 燃料残量残り:98%

 損傷状態:問題無し

 最終調整日時:23時間前

 メッセージ:0件


 頭に流れてくる私の情報。

 D・キハーノ、燃料残量?

 なんだそれ、全く分からない。

 私はそんな名前じゃない、もっと別の名前だったはずだ

 でも思い出せない、なんでだろう。

 次々にそれらしいものが浮かんでは、違う気がするし、その全てが合っている気もする。


「動作異常個体の存在を確認、確保して修理所に連行します」


 近くで聞こえた機械音声。

 そちらを振り向くと、無機質な表情をした二人が私へ向かって歩いてくる。

 え、動作異常個体? 連行?

 言っている意味は分からなかったが、確実に彼らから不穏な雰囲気を感じた。

 彼らに掴まれば、間違いなく私にとっていい結果にはならないだろう。


「あ、あぁっ!」


 逃げなきゃ。

 何処へ? そんなの分からない。

 彼らがいない所へ。

 私は逃げた。

 でも追手はどんどん数を増やし、まるで私のいる場所を常に把握しているかのように追い詰め、更に数を増やしていく。


「明らかに異常な動作を確認、危険度を上方修正」

「こちらの呼びかけに応答せず、危険度を上方修正」


 逃げる度に聞こえる彼らの機械音声。

 危険度を上方修正ってなんだ、彼らにとってはもう私は危険因子扱いなのか。

 ますます捕まるわけにはいかなくなってしまった。

 そして本当にここは一体どこなのだろうか。

 夢ならば早く目覚めて欲しい。

 家に帰りたい。


「え……?」


 そもそも家ってなんだ。

 私の家ってどこにあるんだ。

 その事に気付いた私は、走る速度を落としてしまった。

 それが完全に命取り。

 追いつかれた私は掴まってしまった。

 地面に引き倒され、腕を背に拘束される。


「目標を拘束完了、直ちに連行します」

「解析を開始」 


 万力のような力で組み敷かれ、動けない私の頭に手が伸ばされる。

 その手が触れた途端、まるで頭に何かが侵入してくるような耐え難い不快感が私を襲った。


「ッァア!」


 必死に頭を振って逃れようとするが、まるで張り付いているかのように手は離れてくれない。

 頭の中枢にまで不快感が到達し、これ以上はまずいと感じたその時だった。

 大きな音と共に私の拘束が緩み、不快感からも解放された。


 見上げると、私を庇うようにして一人の少女が立っていた。

 追手たちと同じような無機質な表情と瞳。

 だが私の脳に、何故か『この人は信用して大丈夫』という考えが浮かぶ。

 彼女は倒れている私に振り向くと、手を差し伸べて抱きかかえた。


「きゃあ!」

「逃げますよ、しっかり掴まっていてください」


 そう言って私を抱きかかえたまま空へと飛んだ。

 吹き付ける風の勢いと、空を飛んでいる事実に取り乱してします。

 何故空を飛べるのか、そんなことはありえない。

 そんな考えが脳裏に過ぎるが、同時にその考えにも疑問が湧いた。

 どうして空を飛べることがありえないのか。

 追いかけられているという事実に慌てていたせいで気付くことが出来なかったが、私自身にだって空を飛ぶ昨日は備わっているのだ。


「落ち着きましたか?」


 険しい顔を浮かべる私を安心させるように口角を上げ……恐らく笑っているつもりなのだろう。

 機械仕掛けの少女は微笑んだ。


「私の名前はS・パンサ。怖い思いをしたようですね」


 これが私と彼女との出会いだった。

 パンサと名乗った少女と共に辿り着いたのは、私が追われていた場所からかなり離れたゴミ山だった。

 不思議なことに、彼女が空へと飛んで逃げた時には、人形たちはもう追っては来なかった。


「ここは?」

「ここはゼロ……貴女を追いかけていた人工生命体の親玉の管理外地域です」


 なるほど。

 ここに隠れていれば安全なのか。

 しかしそれにしても分からないことが多過ぎる。

 私を追いかけていた人形達は一体なんだったのか。

 そもそもどうして私はこんな所にいるのか。


 何か思い出したくても思い出せない。

 確かに記憶はあるはずなのに、厳重な鍵が掛かっているかのように取り出せないのだ。

 悩む私を見て、パンサさんはまるで子供をあやすように背を撫でてくれた。

 

「少し混乱しているのですね。大丈夫です、時間はあります」


 そう言って、しかめ面の私に微笑むと、逃げてきた街の方向を見た。


「そろそろ私達の仲間が帰ってきますよ」


 パンサさんが見ている方向に目をやると、確かに小さい何かが街の方から飛んでくる。

 それは段々と大きくなり、人の形をしたそれは、私達の前で着陸した。


「攪乱任務完了しました」

「同上、故に帰投」


 見た目は先程、私を追いかけた人形達と何も変わらない。

 服も一緒だし、正直見分けが付かない。

 一切の乱れ無く整列する彼らを見ると、助けてくれたのに申し訳ないが正直不気味だ。


 パンサさんの説明によると、私が今ここにいる国の名前はトレボール。

 人口生命体及びその長であるゼロという支配者が君臨する国家で、人間の国と敵対しているらしい。

 どうやら彼女らは全員製作過程の不備でゼロに対する強制支配プログラムをされなかった人口生命体の集団らしく、私も追いかけられていた下級兵士という警察隊からこの場所で隠れて過ごしているらしい。


 今回はたまたまトレボール内を偵察している際に、下級兵士に追いかけられている私を見付け、同類だと判断して救助してくれたらしい。

 彼女らがいなければ、私は今頃間違いなく掴まっていただろう。

 感謝してもしきれない。


「人口生命体、か」


 しかし感謝以上に、気になってしまうのだ。

 それは私自身もまた、彼女らと同じ人口生命体であるということ。

 そのことを考える度、鍵のかかった記憶の扉が強く叩かれているような気がする。


「明日からキハーノも、ここの住人です」


 でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「仲良くしてくださいね」


 少なくとも私は、彼女達と共に生きていくしか無いのだ。


 それから私とパンサ達との共同生活が始まった。

 しかし基本的に私は迷惑ばかりかけてしまっている。

 最初はしばらく、全く知識が無い私の勉強会が中心だった。


 パンサ達の話によると、この国はトレボールという名前の国家で、機械帝という二つ名が付く絶対権威を持つ、ゼロという名の支配者によって治められているらしい。

 トレボールは人類にたいして人口生命体の人権を認めさせる為に建国された国であり、日々争いを繰り返しているとのことだ。

 私はこのゼロのやり方に強い不快感を抱いた。

 他人に自分を認めさせることにおいて、暴力を用いて屈服させることは何の解決にもならない。

 そう憤った私はパンサに主張したが、パンサは「えぇ、そうですね。きっと人間の子供でも理解出来ると思います」と言って、わずかに口角を上げるだけだった。


 知識面でも皆には迷惑をかけたが、睡眠においても迷惑を掛けてしまった。

 人口生命体は皆、活動限界に達する前にベッドに備え付けられたシステムに身体を繋いでエネルギーを補充するのだが、私はイマイチその感覚が掴めなかったのだ。

 つい何かに熱中してしまい、気が付いたら強制的に意識が無くなり、翌日パンサ達に見つかってベッドまで運んで貰っていた。


「全く役に立てないなぁ」


 ある日、使えそうな残骸漁りをしながら、私はポツリと呟いた。

 その呟きは近くで同じく作業をしていたパンサにも届いたのか、彼女は振り向いて口角を上げる。


「悩んでいるのですか、キハーノ」

「うん。私、皆に迷惑かけるばかりで、何も皆の役に立ててないなって」

「キハーノは最近ここに来たばかりでは無いですか。これからですよ」


 パンサはそう言ってくれるが、私としては納得できない。

 今すぐに、簡単なことでもいいから皆に貢献したい。


「なら、キハーノ。貴女は私達のリーダーになってくれませんか?」

「リーダー? 私が?」


 リーダーというのは一般的に、集団を纏めて責任を持つ存在のはずである。

 それ大事な役目を、トラブルメイカーの私にやれとはどういうことだろう。


「私達人口生命体は、自立力が弱いのです」


 そう言ってパンサが語ってくれたのは、人口生命体の特徴。

 元々人に命令されたプログラムに従って動くだけだった人口生命体は、どうしても自らで考えて行動するという力が弱いそうだ。

 何か問題があって、それに対処する手段を考えて実行する程度なら可能だが、自ら何かを創造して活用するという力が殆ど無いらしい。


「自分から積極的に、皆の力になりたいと願って方法を考えるキハーノなら、きっと良いリーダーになれますよ」


 私が皆のリーダーになるという目標が決まってから、勉強の量は更に増えた。

 拠点の構造理解に加えて、トレボールの中央に侵入している仲間達への指示。

 加えてパンサから提案された『想像力の強化』の為に、私専用に与えられた研究室で、廃材を使って何か作れないかを日々試行錯誤している。

 正直ただのゴミの塊が量産されていくだけだったが、そこは想像力でカバーだ。


「リーダー。そろそろ拠点に戻りましょう」

「ん、そうだな」


 最近、パンサは私のことをリーダーと呼ぶようになった。

 まだ皆には伝えていないらしいが、とりあえず二人だけしかいない時はこうやって私をリーダー扱いしてくれる。

 正直彼女は私にとっての恩人であり、そんな彼女から敬語を使われるのは慣れない。

 だが「リーダーたるもの威厳が必要です」と言われたので、少し偉そうな口ぶりで喋ることになった。


 慣れない尽くしの新生活だが、私は一つの目標を持った。

 それはトレボールの支配者であるゼロに反旗を翻すことだ。

 どうも私と彼の考えは合う気がしない。

 人口生命体の権利を獲得すべく戦うと言っているのに、彼が実際にやっているのは人口生命体の支配でしかない。

 そんな彼からこのトレボール及び人口生命体達を解放すべく、私は作戦を練る。


 まぁ、大した作戦などそう簡単に思いつけば苦労などしない。

 こうした拠点への帰り道などにボーッと考えるだけでゼロを倒せるのであれば、とっくに誰かがそれを成しているだろう。


「疲れてますか? キハーノ」


 心ここにあらずな私を心配したのか、パンサが話しかけてくれた。

 正直今まででも結構キツかったのに、リーダーになったことで更に大変になった。

 だが皆の役に立ちたいと言い出したのは私であるし、しっかりと役目を全うしたいと思う。


「いいや、大丈夫だ。心配しなくていい」

「なにか手伝えることがあったら相談してくださいね」


 パンサは本当にいい人だと思う。

 私が危険な目に合いそうになるといつもフォローしてくれるし、トレボールやゼロのことを教えてくれたのも全てパンサだ。

 勿論拠点にいる他の仲間達も優しいのだが、特にパンサに私は甘えてしまっている。

 拠点に着くとパンサが私に振り返って、その口角を上げた。


「リーダー」

「なんだ?」

「リーダー就任、おめでとうございます」


 そう言って拠点の扉を開けると、物凄い破裂音と共に拠点が光り輝いた。


 びっくりして構えてしまったが、目を開けると拠点の中は廃材を用いて豪華に飾り付けられていた。


 そしてパンサを中心に拍手をしてくれる仲間達。


 破裂音はどうやら、爆竹を加工したものだったらしい。


「……あぁ、ありがとう」


 この後、運良く見つけたというガソリンで乾杯し、私は正式に皆のリーダーになった

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