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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第五章 人口生命体のキハーノ
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説明されたけど乾杯するけど飲めないけど

 キハーノとパンサさんに手を引かれて、拠点の中に入る。

 そこは外見と同じく武骨な鉄製の壁に、恐らくインテリアのつもりなのであろう物体がそこかしこに置かれている。

 だが特に鉄特有の匂いは感じず、少しひんやりとした涼しい空気が流れていた。


 少し短めの廊下を歩くと、広間に繋がっていた。

 広間と言ってもそんなに大きいわけでは無く、せいぜい大人が20人も入ったら多少窮屈に感じる程度の大きさだ。

 何故か中央に丸い台座がある。


「ヤコさん」


 広間の台座まで辿り着くと、パンサさんが立ち止まって私に振り向く。

 そしてキハーノさんがその台座に登壇し、腕を組んで私を上から見下ろす。


「最初に、私達がヤコさんを助けた理由を説明させていただきます」


 そう、そこからだ。

 今回の出来事はまさに渡りに船だったが、事前に相談していたことでもないし、なんなら私と彼女らに面識があったわけでもない。


「まず、私達の目的は『人と人口生命体が対等に生きる世界』です」


 ふむ。

 なんだろう、トレボールという国家が生まれた理由と似ている気がする。

 人口生命体に人権を、というのがこの国の存在理由と彼女らの目的は同じはずだ。


「それはこの国の理念と一緒じゃないのかい?」

「うむ。その美しき世界への道を邪魔する巨悪が存在する」


 私が聞き返すと、今度はキハーノさんが答えてくれた。

 巨悪ってなんだろう。


「ヤツの名はゼロ。このトレボールを支配し、世界を脅かそうとする者だ」

「機械帝とも呼ばれています。このトレボールの絶対的な上位者であり、この世界で一番最初に誕生した人口生命体」


 機械帝・ゼロ。

 実はその名前を、私は既に知っていた。

 いや、名前だけではあるのだが、事前に調べた情報の中で、その名前が記載されたページがあったのだ。

 世界で初めての人口生命体にして、世界で初めて人間と敵対した機械。

 トレボールの設立はゼロによるものであり、全ての人口生命体はゼロの指示に従って行動するとも。


「ん? でもキハーノさんは別に操られてるってわけでもなさそうだよね」


 さっき、思いっ切り絶対支配者であるゼロさんに向かって巨悪とか言ってたし。


「うむ。私だけでなく、ここにいる者達の殆どはゼロの支配下に無い」

「なんで?」

「わからん」


 えぇ……なんか一気に不安になったんだけど。

 大丈夫なのそれ。


「そもそも私達は、いつから自分達が誕生したかの記憶が無いのだ」

「誕生した時の記憶が無い?」


 どういうことだろう。

 誕生した時の記憶なんて私も無いが。

 いや、彼女ら人口生命体の場合は別なのか。


「私達人口生命体は、そちらの言葉で言う『製造』される段階よりも前に最低限の知識をプログラミングされ、その後は学習、『人生経験』によって自身をアップグレードしていくのです」


 おぉ、事前の資料には全く書かれていなかった人口生命体の情報がパンサさんから説明された。

 世界中で知ってる人間は私だけかもしれない。

 なんだろう、人間の赤ちゃんは生まれた時から数年で言葉を覚え始めるが、そこを人口生命体は誕生前にマスターし、その後はその知識を基礎として擬似的に成長していくということか。


「その最低限の知識のプログラミングの時点で、通常ならば最上位管理者としてゼロが指定されるのだが、私達はそれが何故か行われなかった」

「それに気付いたゼロは、私達を『不良品』としてすぐさま処分しようとしました」


 処分、恐ろしい言葉だ。

 人を人と扱っていない。

 人口生命体の人権獲得を目標に建国されたトレボールが、皮肉にも同じ人口生命体同士が対等に扱っていないのだ。

 というかこの世界自体、人を人とは思わぬ風潮を感じる時があるので、仮に人権を認めていたとしてもどうなのという気がする。


「そこから私達は逃げ出し、ここに身を潜ませてゼロへの反逆の機会を伺っているのだ」

「恐らく製造段階での不良だったのでしょう。私達は全員同じ日に生産された個体ですから」


 そうかなぁ。

 フィストにティーエス、ドレッドにヴィエラさん。

 美少女感知センサーが強い反応を示していた彼女らは、全員が何かの出来事に巻き込まれていた。

 そして彼女らと全く同じ強さの反応を示すキハーノちゃんの運命が、ただの不幸なバグによるものだとは思えない。

 だがそれを説明したところで彼女らには理解出来ないと思うし、私も未だに確証が無い。


「だからトレボールに史上初めて訪れた人間であるヤコに、私達は反逆の手がかりとなる希望を見出したのだ」


 なるほどなぁ。

 だから私を助けてくれたのか。


「具体的な計画はもう立ってるの?」

「勿論。小細工などせずとも正面から打ち崩してくれるわ」


 自信を持ってキハーノさんにノープラン宣言をされた。

 そんなドヤ顔されても。


「トレボールの中心街に一歩でも侵入しようものなら、管理カメラによってすぐに特定されてしまうのです。ですから、本当に実行する時は正面突破しか無いのです」

「私が一度でもゼロと向かい合うことさえ出来れば一刀で切り捨ててくれるというのに……」


 パンサさんの現実的な情報と、キハーノさんの妄想の差が酷かった。


「まぁ、難しいことはひとまず置いておいて、取り敢えず私達の交友を深めることが大切だ」


 キハーノさんはそう言って口角を上げる。

 確かに、私達は知り合って半日も経っていない関係だ。

 作戦が云々という前に、まずはお互いの事をより深く知ることが大切だろう。


「では、我々の出会いを記念して乾杯をしよう!」


 おっ、一杯やっちゃいますか?

 未成年だからジュースしか飲めません路線でアルコールは断ろう。

 まぁ乾杯くらいお酒じゃなくてもいいでしょ別に。


「一番いいやつを持って来ようか!」


 そう言ってキハーノさんは台座から降りて、拠点の奥へと消えていった。

 どうやら私のために秘蔵の逸品を用意してくれるらしい。

 それを断るなんて大変心苦しいな。

 最悪舐める程度なら付き合おうか。


 キハーノさんの仲間から、鉄のコップが渡された。

 なんだろう、熱いモノとか入れたら相当使いずらそうだけど、その辺大丈夫なのだろうかこのコップ。

 というか飲み物入れたら風味最悪になるんじゃないのかな。


「私が直々に酌をしようじゃないか」


 戻って来たキハーノさんは、そう言って持ってきた……ポリタンクを掲げた。

 仲間たちはそれを見て、ヒュー! と器用に口笛を吹きつつ、拍手で歓迎する。

 なんだろう、凄い嫌な予感がする。

 いや、冷静に考えりゃそうだよな。

 人口生命体、つまり機械仕掛けの人の飲み物にアルコールが含まれるかどうかという問いがあるとすれば、恐らく答えはノーだろう。

 そしてあのポリタンク。

 確実に人間が飲むタイプのシロモノが入ってるとは思えない。


「これはとても上質でなぁ。廃品の中で回収されていなかったものをかき集めたんだ」


 キハーノさんは、ポリタンクの蓋を開けて私に近付いてくる。

 そして私のコップにソレをゆっくりと注いだ。

 ポリタンクの口から流れるグレープフルーツのようなピンク色の液体。


「とてもオクタン価の高いガソリンだ。最高にキマるぞ」


 確かに飲んだら間違いなく色々ぶっ飛ぶだろう。

 なんかガソリンって気化した状態で引火すると爆発してヤバいとか聞いたことあるんだけど大丈夫なんだろうか。

 アルコールなんかよりよっぽどヤバいもん飲まされそうなんだが。

 数十秒前の舐める程度に付き合おうとか考えていた自分を殴りたい。


「えーっとね、キハーノさん」

「なんだ、足りないか?」

「人間はガソリン飲めないのよ」


 普通に生きてたら、多分一生言わなかったであろうセリフを言った気がする。


 ガソリンを私が飲めないというのを伝えた後、衝撃の事実が発覚した。

 私の食べ物、および飲み物がトレボールには存在しない。

 考えてみりゃそらそうだ。

 人口生命体は食事を必要としないし、水分補給も必要ない。

 基本的には日光エネルギーなどのクリーンエネルギーを中心で、嗜好品としてガソリンを嗜むらしい。


 当然必要が無ければ作るはずもなく、ここには一切の食糧が無い。

 水は工業用水ならいくらでも存在するが、飲料水などは無し。


「生命の危機じゃん?」


 やばい、ここに来て食べ物や飲み物があって当然の現代的危機意識の欠如が如実に表れてしまった。

 水は最悪、工業用水をロウターに浄化して貰って飲むか、それこそ飲める水を召喚してもらえばいい。

 最大の問題は食料だ。


「どうしたのですか、ヤコ」


 悩んでいると、カチューシャの中からヴィエラさんが登場した。


「人間が二人に増えた? どういうことだ」

「データには、人にそんな機能はないはずです。魔法の類でしょうか」


 突然現れたヴィエラさんにキハーノさん達がびっくりしている。

 ロウターに乗る際の移動に危険があるといけないと思ったので、トレボールに侵入する前からカチューシャの中に身を潜めて貰っていたのだ。

 カチューシャに身を潜めるというとわけがわからないと思うが、元々ヴィエラさんの本体はこのカチューシャであり、私の目に見える人型は分身である。

 なので町などの安全な場所以外は分身を消し、カチューシャとして私の頭の上でお昼寝をしている……らしい。

 たまたま起きたら私が悩んでいたので、話しかけてくれたというわけだろう。


「えっとね、私とヴィエラさんの食べ物が無いって状況なんだ」


 そう、私だけではなくヴィエラさんの食糧も必要なのだ。

 人二人分の食事量となると、結構な負担になるだろう。

 いつまで必要になるのかはわからないが、それでも確保に頭を悩ませることになるのは間違いない。


「食べ物、ですか?」


 そう言ってヴィエラさんは拠点の床に向かって右手の人差し指を向けると、鉄の床から色々な法則を無視して木の苗が生えてきた。


「え」


 苗の成長は止まることなく、そのままどんどんと大きくなる。

 ついに天井まで伸びたかと思うと、葉っぱを茂らせて林檎や蜜柑、トマトやキュウリと様々な果物や野菜が生えてくる。

 完全に絵本の中で出てくる不思議な木だ。


「これではダメなのですか? ヤコ」


 いや、植物を生やす能力があるのは古代森林で知っていましたが、正直ここまでとは思っていませんでした。

 私が人生舐めちゃう最大の原因は、多分ロウターやヴィエラさんみたいな困ってもなんとかしてくれちゃう存在がいるからだと思うんですよ。


 ヴィエラさんが突然生やした木に関して、とりあえず拠点のど真ん中に生やされると邪魔なので、別の場所へ植え替えることとなった。

 とは言っても鉄の床から謎の原理で生えてきた木の移植方法など皆目見当も付かなかったのでヴィエラさんに丸投げしたのだが。

 結果的に、拠点の真横に現在移されており、キハーノさん達は私達の大切な食糧として手を出さないと約束してくれた。


 食糧問題が無事に解決してしまったので、次に解決すべきは衣食住の住である。

 衣服に関して、この世界に来てから制服をロウターに毎日洗濯してもらっているのでそれしか着ていない。

 まともな一人の女子としては服を買ってお洒落したいのだが、残念ながら基本的に居住地となる場所は無いし、嵩張る衣服を旅に持ち歩きたくないというのもある。

 というか普通に邪魔なのだ、服。


 だからまぁ、とりあえず今の私に必要なのは寝床である。

 別にその辺に野宿でも構いはしないのだが、どうせなら屋根付きである拠点の一角を貸していただきたい。

 聞いてみたところ、余ってる部屋はいくらでもあるそうなので、その中の一つを貸してもらえることになった。



「では、これからその部屋にご案内します」


 キハーノさんは何やらやることがあるらしく、案内をパンサさんに任せて拠点の外へ出て行った。

 言動は多少おかしなところがある人だが、一応ここのリーダーらしく、エネルギーの管理や足りない資源を集める指示など、沢山の仕事をこなしているらしい。

 その一方で打倒ゼロの為、日々作戦を練っているというのだから意外に凄い人なのだ。


 キハーノさんの仲間達も各々自分の仕事場に向かった。

 残された私は、一通り拠点の案内をパンサさんにしてもらうことになる。


「ここがヤコさんの部屋です」


 その部屋は広すぎるわけでも、狭すぎるわけでもなかった。

 布団どころかシーツやマットレスも無い鉄製のベッドと作業台が一つずつ置かれているだけで、他には何もないという殺風景な部屋。

 人口生命体にも睡眠という概念があるらしく、一日の内で何時間かはベッドの上で休憩し、使用した機能を休ませているのだとか。

 それ故にベッドはあるのだが、別に体が冷えたり身体が凝ることも無いので布団なども必要ない。

 まぁ、そこらへんは後でどうにかしよう。

 プライベートスペースがあるだけでもありがたいというものだ。


 部屋に案内してもらった後、拠点内を案内された。

 その中には危険だから入っていけない部屋なども存在し、中でもキハーノさんの研究部屋などはパンサさん達すらも出入りを禁じられているらしい。

 いったいどんな研究をしているんだろう、気になるところだ。

 あとでキハーノさんに聞いたら教えてくれるだろうか。


 衣食住の問題はあらかた解決した。

 安心して休憩させて貰おう。

 時間はまだ昼と夕方の間くらいだが、まぁ少し遅めの昼寝ってことでいいだろう。


「色々ありがとうね、パンサさん」

「どういたしまして。これからも頼ってください」


 そう言うとパンサさんは部屋から出て行った。

 いやぁ、本当にいい人だ。

 布からベッドの加工まで色々手伝わせてしまった。

 今度何かお礼をしよう。


「お昼寝ですか? ヤコ」

「うん、ヴィエラさんも寝る?」


 私はベッドにダイブし、ヴィエラさんを手招きする。

 するとヴィエラさんはニコリと笑い、私の隣に飛び込んできた。

 敷き詰めた草の香りが微かにしてとても心地良い。

 私はヴィエラさんを抱き寄せると、そのまま目を閉じた。

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