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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第五章 人口生命体のキハーノ
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トレボール着いたけど大歓迎だけど出会ったけど

「……先刻、導き手は私の管轄を出て行きました」


 しわがれた声で報告を行う。

 被っていた深緑のフードを脱ぐと、そこには少し紫がかった黒い髪の少女がいた。


『ご苦労、これで残すはあと一人だな』


 そう言ったのは、これまたしわがれた声の人物。

 誰もいない部屋の中に浮かぶ映像に向かって喋りかける豪奢な白い服の老人。


『ねぇねぇ! 絶対失敗しないでよ! ここまで私達が折角積み上げたんだからね!』

『導き手も阿呆ではない。多少は気付いておる。それを承知で踊っている』


 続いて聞こえてきたのは、少し甲高い声と落ち着いた声。

 一つは深い深い海の底から。

 もう一つは呪われた大陸の深部から。


『……まぁ、最後の仕上げは全員で行うんですが』


 どこか諦めたかのような声が、この世の何処かにある山の頂上から吐き出される。


『最後の一人は失敗する要素も特に無いしね。それにしてもさぁ。あんなにメンタル弱くて大丈夫なの? 導き手って』

「旅立つ前には既に持ち直していましたが、不安はあります」

『人殺しはいけないってのはフツーに生きてりゃ当然だけどさ。それじゃ困るわけじゃん?』


 躊躇いなく殺人を行ってくれる人物になってくれないと。

 海の声は、そう言った。

 そしてずっと会議を聞いていた存在が、口を開く。


『心配する必要はありません。そのために、最後が私なのです』


 その無機質で感情の籠らぬ声が、映像越しに響く。


『---全ては、マスターの為に』


 その言葉を聞いた者達も、口を揃える。


『『『全ては、マスターの為に』』』



◇◆◇



「じゃ、ロウター。ここから頼むよ」

「承知した」


 どうも、天上院弥子です。

 現在、私はヘイヴァーの港から船で移動し、中央大陸から移動。

 その後は列車に乗り換え、数日掛けてトレボールに接近しました。

 そして昨日、公共の交通網の限界点まで到達したので一泊した後、ロウターにお願いして遂にトレボールへ辿り着く予定です。

 道中は特筆することも無かったので、食事風景と同じくカットします。


「して、目的地まではあとどれくらいの予定なのだ?」

「正確にはもう、トレボールっていう国自体には立ち入ってるんだよね」


 公共の交通網が無くなったのも、人間と敵対しているトレボールの領土内になったからだ。

 つまりここは既に敵国。

 いつ襲われるかは分からないので、身を引き締めていかねばならない。

 私はロウターの手綱を強く握り締め、呼吸を落ち着かせながらトレボールの空を飛んだ。



◇◆◇



 突然上空から稲妻のように響いてくる光線。

 ロウターは即座に防御結界を展開し、それを防ぐ。

 本日何度目なのだろうか、この襲撃は。


 この世界は元の世界よりも科学が発展している。

 ここに来て私は改めてそれを実感した。

 今まで襲撃というと、人や機械が攻撃してきて、それに対抗するというイメージだった。

 勿論この前の古代森林において機械の蜘蛛みたいな兵器も迫力があったが、今回は全く別。

 遥か上空からの衛星によるレーザー光線。


 トレボールの上空を飛んでから数分後、突然耳鳴りがした。

 危険を察知したロウターが取り敢えずで張った結界により、一命を取り留めることになる。

 視界が眩しい光に包まれ、凄まじい轟音に襲われた。

 もし対応が少しでも遅れていたら消し炭になっていたのは間違いない。


 科学の発展といっても、スマホのような魔法と科学の合成物程度しか目にしてこなかったせいで、兵器の発展については全く考えが及んでいなかった。

 全くもって私の迂闊である。

 そもそも科学を発展させる理由の一つが、自国を守るための兵器開発だったりするものであり、『目標に対して正確に上空からのレーザー光線による攻撃を行う』というレベルを警戒する必要があったのだ。


 まだまだ隠し玉があるかもしれないが、警戒のレベルを更に上げなくてはいけない。


「ロウター、大丈夫?」

「威力自体はあまり大したことがない。至近距離で直接食らっていたら分からないが」


 私の頼れる相棒は実に心強い。

 その後も何度か攻撃を食らったが、ロウターは一切速度を落とすことなく防ぎ切った。

 そんな状態で、しばらくすると一切のレーザー攻撃が無くなった。


 しかしトレボールという国は非常に殺風景だ。

 国境を越えてからかなりの距離を飛んだのだが、目下の風景は微かに雑草が生えている程度で、基本は干ばつした大地しかない。

 当然動物の類も全く見えず、かなり不安な心境になる景色だ。


「全く生命の息吹を感じぬな……」


 ロウターも同じ心境らしく、死滅したとも呼べるトレボールの大地を見下ろしている。


「目的地まではあと少しだ」

「うん、油断せずに行こう」


 ロウターがかなりのスピードで飛んでくれているおかげで、トレボールの中心都市までかなり近付いている。

 よく目を凝らせば地平線の向こうに、小さく黒い影が見えた。


「見えた!」


 間違いなくアレがトレボールだろう。

 段々と近付くにつれ、その全体像が見えてきた。

 広大な茶色い大地の中に、黒々と広がる都市。

 黒以外の色が見えず、外部からの侵入者を一切拒絶するような冷たい印象を受ける。


「拒絶というよりは、大歓迎に見えるがな」

「え?」

「すぐにわかるさ。速度を上げるぞ」


 そう言うとロウターは更に猛スピードでトレボールに向かった。

 近付くにつれて、その言葉の意味が分かる。

 上空に浮かんだ、子供のような人影。

 それがずらりと並んでこちらを見ている。


「なに、あれ」

「凄い数だな。壮観だ」


 間違いなく友好的ではない。

 数える気分にもなれないが、百は余裕で超えているだろう。

 最先端のレーザー光線が効かないと思ったら、急に原始的なフルボッコ形式に変更したようだ。


「撒ける?」

「それだけなら容易いと思うが、潜入してからはどうするつもりだ?」

「そうなんだよねぇ」


 本来の目的は、トレボールに潜入して古代森林襲撃についての情報を掴むことだった。

 それならば最初からコソコソ侵入しろと思われるだろうが、こんな360度見渡しても何もない場所でどうやってコソコソしろと言うのか。

 とりあえず国内に侵入してみて、最悪の場合は逃げ帰ることまで視野に入れよう。


「いくぞ」

「うん」


 ロウターは天高く舞い上がると、翼を折りたたんで急降下。

 いつぞや逃走中のドレッドを追尾した時と全く同じだ。

 恐らくこの状態が最もスピードが出るのだろう。


 空に浮かんだ子供達も、突撃してくる私達に立ち向かうように隊列を組んで、人差し指をこちらに向けてきた。

 そして指先から放たれるレーザー光線。

 レーザー光線大好きだな。

 確かに凄い厄介だけどさ。


 しかし頼れる相棒は、それらを突撃しながら体を回転させて回避し続ける。

 風はロウターの魔法でカットされるし、猛スピードで振り落とされる心配もないのだが、ぐるぐると回転する視界で酔いそうだ。

 どうしても避けきれないのもいくつかあり、その場合は防御結界で守ることになる。

 3本程度が同時に当たるのは問題ないが、それ以上の本数が増えると若干空気が熱くなるのを感じるし、結界も割れそうになる。

 なので基本的には避けるしかない。


 だがそんなシューティングゲームはもう終わりだ。

 遂にレーザーの包囲網をかいくぐり、トレボールの上空に辿り着く。

 そこは建物があるものの、明かりが灯っていない、真っ黒な世界だった。


 子供達はトレボールの上空に辿り着いた私達をレーザーで狙うのを止めた。

 流石に自分の国に向かって攻撃するのは躊躇われるのだろう。

 その代わりに、全く人間とは思えない速度で追いかけてきた。


 いや、空に浮いている子供達が人間でないことなどは知っているのだ。

 このトレボールという国は『人口生命体』と呼ばれる存在の国。

 発展した人工知能が人類に反旗を翻し、人権を獲得するために創立された、機械達の国なのだ。

 以上が、トレボールという国について調べた結果をざっくりと纏めたものである。

 情報は完全に人間サイドによるものしか無く、客観的な事実以外は全て眉唾モノだったので、国の成り立ち程度で調べるのをやめた。


 だから、空に浮いている子供達は間違いなく人間ではない。

 いや、そりゃもちろん普通の人間は指先からレーザー放ったり、空を高速で飛び回ったりしたりなどは出来ないのだが。


「しっかり捕まっててくれ、主殿」


 ロウターはそう言うと一気に降下し、トレボールの都市を超低空で縦横無尽に飛び回る。

 子供達も、先回りなどを駆使して私達を捕らえようとするのだが、戦力が分散したならば強行突破が可能だし、纏まって行動すればその分撒き易くなる。


 だが、ずっとこうして逃げ回っているわけにはいかない。

 私の目的は潜入捜査であり、ここからどうにか隠れなければならない。

 正直監視カメラなどがそこかしこにあるので、どこでロウターから降りるのが正解なのかというのもある。

 いくら振り払ってもすぐに居場所を突き止められているところを見ると、監視カメラの情報が子供達に伝達されているのかもしれない。

 しかし私はアテも無く逃げ回っていたわけじゃない。

 ロウターに逃げる方向を指示しつつ、『反応』の場所へと向かっていたのだ。


「こっちだ! 人間!」


 ビルの狭間から現れた少女の背丈は、私達を追いかける子供達と変わらない。

 だが、こちらを捕まえようと言った敵意の代わりに、並々ならぬオーラを放っていた。

 そして何より、『美少女感知センサー』が強く反応している。


 ロウターから私が飛び降りると、少女は急いで現れた場所に身を隠した。

 私も続いてビルの狭間に入ると、マンホールの蓋を開けた少女の姿。


「ここに入るんだ!」


 言われた通りにマンホールの中に入り、梯子を下る

 私がある程度の深さまで潜ると、少女もマンホールの蓋を閉じて降り始めた。

 地上からの光が遮断され、全く視界が効かなくなった暗闇の中、私は手の感覚を頼りにひたすらマンホールを下って行った。

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