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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第五章 人口生命体のキハーノ
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天上院弥子の地球浪漫 ~日本編、その2~

 その日から私の受難は始まりました。


「おはよ! 姫子ちゃん」


 天上院弥子は毎日のように私に話しかけてきます。

 いや、話しかけてくるだけだったらまだ良かったのですが、事あるごとにそのスペックの高さを私に見せつけてくるのです。

 例えば体育の授業ではそのスポーツの部員を寄せ付けないプレーをこなします。


「姫子ちゃん! パス!」

「え? きゃ、きゃあ!」


 目の前に飛んできたバスケットボールを私は受け止めようとしますが、失敗して地面に落としてしまいました。

 対戦相手にボールを奪われてしまいましたが、天上院弥子がすぐに取り返し、そのままディフェンスを華麗に避けてレイアップシュート。

 そこまでならまだいいです、むしろカッコイイと思って見直すことが出来たかもしれません。

 シュートを決めた天上院弥子は、私に走り寄ってきて抱き着いて言うのです。


「ナイスパス! 姫子ちゃん!」


 もはや煽ってます。

 パスの定義を分かっているのでしょうかこの人。

 投げられたボールを落とすことがパスでしたら、ドッジボールという競技はこの世に存在しえません。

 他にも天上院弥子の私に対する絡みは続きます。


「姫子ちゃん。あーん」


 もうこれは完全にバカにしていますよね。

 中学までは椿ノ宮が提供する学生とは思えないレベルの給食だったのですが、高校からは学校のカフェテリアか弁当になります。

 人によっては正月のようなお重に詰めた弁当を使用人に持ってこさせる人もいますが、私は毎朝玄関でその日の弁当を手渡されます。

 お腹に入れば皆同じだと思うのですが、こういう学校に通わせるような家はどうやら弁当ですら見栄を張りたいらしく、相当に趣向を凝らした弁当になっています。

 正直箱がお重でないだけで中身は正月料理みたいな感じです。


「ほら、唐揚げ冷めちゃうよ~?」


 しかし4限が終わるなり勝手に私の席に椅子を寄せて自分の弁当を広げるこの女は、いかにも庶民的な唐揚げを箸でつまんで私の目の前に持ち上げてきます。

 冷めちゃうよなどと抜かしていますが、元から弁当に入れて時間が経っている時点で冷めてます。


「姫子ちゃんに食べて欲しいと思って早起きして作ったんだよ?」


 そうですか。知ったことではありません。

 私は自分の弁当を食べ続けることによって無視を決め込みますが、正直唐揚げの強い匂いのせいで基本的に薄味の私の弁当は風味が台無しです。

 本当にどうしてくれましょうかこの女。


「あのですねぇ」

「隙あり!」

「むぐっ……」


 まぁ、たまには濃い味付けもいいかもしれません。



◇◆◇



 いつも憂鬱な私ですが、今日に限っては殊更に憂鬱です。

 担任の教師から二週間後にある中間テストの告知がされたのです。

 私の成績は良いとは口が裂けても言えません。

 中学の時ですら下の中といったレベルだったのに、高校になってからは授業に全く付いて行けていません。

 常に赤点ギリギリのラインだった私は今度こそ追試組の仲間入りでしょう。

 頭のいい高入のおかげで平均点は寧ろ上がるでしょうし、絶望的と言っても間違いありません。


「ではくれぐれも赤点で追試になるなどという事態にならないよう、今からしっかりと勉強してください。以上でホームルームを終わります」


 担任がそう言って解散を宣言すると、生徒たちは堰を切ったようにきゃあきゃあと騒ぎ出しました。

 テスト期間の二週間前になると、進学校である椿ノ宮では部活動が休みになります。

 勿論一部の熱心な部活は自主的に活動したりするのですが、部活動にはそこまで関心の無い生徒が大部分の為、普段よりも早く帰宅できると言う事実に浮足立ちます。


 私といえば部活動には参加しているものの、図書館で本を読む文系の部活動であるため特に苦痛に思ったことは無く、寧ろ家に帰って習い事をこなさなければならないという事実の方が億劫です。

 習い事で疲れた後にテスト勉強もしなければならないと思うと最早やってられません。


「ひ~めこちゃん」


 挙句の果てにこの女です。


「この後どうするの?」

「別に貴女には関係ないでしょう」

「冷たいなぁ……」


 この女、天上院弥子はどうして毎回私に絡んでくるのでしょうね。

 私と天上院弥子は全く対局の存在と言っていいでしょう。

 流石は新入生代表を勝ち取るだけあって成績は良く、運動神経も抜群。

 様々な部活動からオファーが来たそうですが全て断り、どうしても人数が足りない時などに参戦して英雄的な活躍をしてくると聞きます。

 どこの超人だと言いたくなるような女ですが、お陰で同学年の生徒だけでなく学園中の人気者になっており、ファンクラブも出来ているそうです。


 正直劣等感の塊である私は隣に座っているだけで卑屈な気持ちになるのですが、何故かこの女はしつこく私に話しかけてきます。

 今日もいつもの面倒な絡みだろうと思っていましたが、天上院弥子の口から驚くべき提案がされました。


「一緒に期末のお勉強しない?」

「え?」


 一瞬何を言われたのか理解が出来ませんでした。

 何故この女は私と勉強しようなどと言うのでしょう。

 そういうのは普通対等な学力の人間相手とやるものではないのでしょうか。


「姫子ちゃんっていっつも授業中寝てるでしょ? 大丈夫なのかなって不安になってさ」

「何故貴女に心配されなくてはならないのです」

「ほら。私って姫子ちゃんの彼女だし」


 はぁ?

 どうやらこの女は色んな生徒にチヤホヤされているから調子に乗っているようですね。

 別に私は天上院弥子の彼女になった覚えなど一度もありません。


「冗談が過ぎますよ。さよなら」


 私は天上院弥子を無視して教室を出て、いつもより早めに迎えに来た車に乗り帰宅しました。


 家に帰って問題集の試験範囲のページを広げてみましたが、やはり全く出来ません。

 一番苦手な科目は英語です。

 言語系の科目が出来ないのは勉強してない証拠だとよく言われますが、返す言葉もございません。

 ノートは一応全て書いていますが、普段から予習復習をしているわけでは無いので何を言っているのか全く理解できませんし、教科書を読んで補完しようにも「面倒くさい」というどうしようもない怠け癖が思考を阻害します。


 そもそも英語という科目を勉強しようにも単語をほぼ覚えてない私が今更足掻いたところでどうにかなるとも思えません。

 椿ノ宮のテストは授業で習った英文をそのまま出すという形式ではなく、それに関連した論文などを持ってきて解かせるといった形式のものです。

 なので必然的に高い単語力を要求されますし、読解力も必要です。


「……」


 結局その日は、何もせず問題集を閉じてそのまま就寝しました。


◇◆◇


「起きて、起きて姫子ちゃん」

「ん……」


 6時間目終了時刻となり、クラスが帰りの支度にざわついている頃、私は天上院弥子に体を揺さぶられて目覚めました。


「もう授業は終わったのですか……」

「そうだよ~。今日はテスト前だからってちょっと長引いてたね」


 6限は英語の授業でした。

 相変わらずの異世界言語に理解が出来なかった私は机に肘を付いて即寝を断行。

 気が付いたら授業は終わっていました、不思議ですね。


「姫子ちゃん。昨日のお誘い、やっぱりダメ?」


 昨日お誘い。

 二人で勉強とやらのことでしょうか。


「別に構いませんが、理解が出来ません」

「理解が出来ないって、何が?」

「学年トップの貴女が、落ちこぼれである私と勉強したがるメリットがわかりません」


 この女はよく私に絡んできますが、私はそれを全て冷たくあしらっています。

 なのになんでここまで執拗に私と勉強することに拘るのでしょうか。

 仮にそれが成就したとして、天上院弥子に私が教えられることなど何一つありません。


「うーん、メリットかぁ」


 天上院弥子は顎に軽く指を置いて天井に目を向け、考えるようなポーズを取りました。

 そして名案が思い付いたとばかりにニッコリと笑顔を見せます。


「じゃあさ。もし仮に姫子ちゃんがいい成績を取れたら、一日デートしてよ」

「はい?」


 それがメリット?

 というかデートってなんでしょう。

 確か不純異性交遊の一つだった気がしますが、具体的に何をするのかまではわかりません。


「それはいけないことなのでは?」

「えぇ、どこまで想像してるの? エッチだなぁ姫子ちゃんは」


 何故私が変態扱いされなければならないのでしょう。

 納得がいきません。

 結局私は天上院弥子に丸め込まれ、翌日から二人の勉強会が始まりました。


 勉強会を始めることを決めた翌日の放課後、私達二人は図書館で居残り勉強をすることになりました。

 予め家には友人と一緒に勉強するから迎えは2時間程遅れていいと連絡してあります。

 それを聞いた使用人はニコニコしながら勉強しながらつまむお菓子などを持たせようとしてきましたが、図書館は飲食禁止だからと断ってきました。


「えーっと。まず姫子ちゃんってどれくらい勉強出来るの?」


 最初から答えづらい質問が飛んできました。

 まぁ仕方ありません、ここは正直に答えましょう。


「貴女が想像している半分も出来ないと思いますよ」

「えっ……足し算引き算レベル?」

「ちょっと待ちなさい。私をどれだけバカにしてるんですか」


 それって想像しているレベルは掛け算割り算が怪しいレベルですよね。

 私が天上院弥子を睨み付けると、彼女は冗談だと笑って手を振りました。

 そして通学鞄から英語の教科書を取り出すと、机の上に置いてパラパラと捲り始めます。


「姫子ちゃんって英語が一番の苦手科目なんだよね?」

「えぇ。正直今回の試験範囲は全く理解出来ませんでした」


 私の返答に、天上院弥子は「うーん」と唸ってシャーペンで頭を軽く叩きながら考えます。


「単語は分かるの?」

「単語すらわかりません」

「まずはそこからだね」


 そう言って天上院弥子はルーズリーフを一枚袋から取り出して英単語をいくつか書きだします。

 そして書きだした単語の一つをシャーペンで指して言いました。


「attemptの意味は? 動詞なんだけど」


 あ、あてんぷと?

 ぐぅ、初回からわかりません。

 とりあえず当てずっぽうで答えてみましょうか。

 なにやら天婦羅みたいな感じの語呂ですね。


「食べ物を揚げる、ですかね」

「いやそれはfryでしょ」


 馬鹿過ぎてごめんなさいとしか言いようがありません。

 因みに「試みる」という意味だったらしい「あてんぷと」は天上院弥子としては初級レベルの確認だったらしく、その後も念のためいくつか質問されましたが全く分かりませんでした。

「試みる」の意味の英単語は「とらい」だけで十分ではありませんか。

 なんで同じ意味の単語が二つあるんでしょうね、意味が分かりません。


「取り敢えず姫子ちゃんは今日から数日かけて単語を詰め込もうか」


 そう言って彼女は椿ノ宮高校に入学した時に使用したらしい英単語の参考書を取り出します。


「今からやって覚えきれますかね……」

「まぁやらないよりはマシだしね」


 やらないをずっと続けた結果がコレですからね。

 取り敢えず単語は翌日までに天上院弥子が指定した箇所まで覚えてこいと言われ、その後は英文法を教えて貰うことになりました。

 不定詞の名詞的用法などと天上院弥子が言い出した時は理科の授業でもされているのかと思いましたが、私が理解出来るようになるまで細かく追求して説明してくれます。

 2時間という時間はあっという間に過ぎて、頭が若干パンパンになったような気分になりながら勉強会の一日目は終了しました。


◇◆◇



「merchandise……製品。retail……なんでしたっけ」


 翌朝、私は送迎の車の中で天上院弥子に言われた範囲の英単語を声に出して復習していました。

 最初は恥ずかしいと言いましたが、「赤点取る方が恥ずかしいよ?」と言われてしまい渋々声に出しています。

 夜寝る前にも一通り覚えたのですが、やはり寝て起きると忘れてしまっている単語がいくつかあります。


「試験勉強ですか? お嬢様」

「へっ?」


 突然運転手が私に話しかけてきました。

 彼が話しかけてきたのは数年ぶりの出来事であり、思わず変な声が出ました。


「え、えぇ。まぁそんなとこです」

「そうですか。頑張ってくださいね」


 私としたことが動揺してしまいました。

 以前会話をしたのはいつ頃でしたっけ。

 小学校の頃だったか、それとも中学か。

 この運転手は私が幼い頃から送迎をしてくれていたのですが、ここ数年は乗り降りの業務的な会話のみでした。


「着きましたよ。お嬢様」


 私が小さな驚きに呆けていた間に、いつの間にか学校へ到着したようです。

 運転手がドアを開けてくれたので、私は通学鞄を持って車から降ります。


「では、本日も帰りは二時間後に」


 そう言って一礼すると、再び運転手は車に乗って走り去っていきました。

 私はそれを見えなくなるまで見送り、椿ノ宮の校舎へと歩を進めます。

 一学期の半分もすると、億劫だった最上階への階段も多少慣れてくるようです。

 入学当初は登るだけで軽く息が上がっていた階段も、今となってはさほど苦になりません。


「おはよ。姫子ちゃん」


 教室に入ると、待ってましたとばかりに天上院弥子が話しかけてきます。

 彼女はいつも私より先に教室にいるので、何時に登校しているのかと聞いたら朝の6時頃と答えられました。

 そんな早くに登校して何をしているのかと聞くと、自習や部活動の手伝いをしているらしいです。

 まさに模範生と言うべき行動に感心を通り越して呆れます。


「おはようございます。天上院さん」

「ちゃんと単語覚えて来たかな~?」

「えぇ。まだ余り自信はありませんが」


 天上院弥子が覚えて来いと言ってきた単語は100個。

 正直単語の暗記をまともにやったことのない私としては多過ぎると思ったのですが、それもただの100個ではありません。

 今回の英語の試験範囲は経済関係の文章らしいので、それに因んだ単語が載っているページを指定されました。

 時間があるならまだしも、直前にまで迫った中間試験にある程度対応するにはこうするしかないという彼女の判断です。


「あはは。今日の放課後にテストするからね! 出来なかったら……」

「出来なかったら?」

「出来なかった単語1個ごとに1秒チューしちゃうね」


 その言葉を聞いた私はすぐさま席に座り、単語帳を今まで以上に見返し始めました。



◇◆◇



 放課後になり、私達二人は図書館へ向かいます。


「いやー。姫子ちゃんがどれくらい覚えてきたか楽しみだなぁ」


 天上院弥子が何か言っていますが、私は何も聞こえていないふりをして歩きながら単語を覚えています。

 恐らく冗談であると信じたいのですが、1つ間違えるごとに1秒キスをするなどと言っていました。

 万が一にも漬け込む隙を与えないためにも必死に覚える必要があります。


「そろそろ図書館着くよー。躓かないように気を付けてね」


 あぁ、タイムリミットですか。

 仕方ありません、後はもう自分を信じて出来ることを天に祈りましょう。

 予めテスト形式は事前に説明されています。

 覚えてくる単語は100個ですが、そのうち出題される単語は10個。

 英語から日本語に訳させる問題もあれば、その逆も出題されるそうです。

 スペルミスも間違いとしてカウントするそうですが、逆に日訳の場合はある程度のニュアンスが掴めていればOKとのこと。


 単語帳を鞄の中にしまって図書館に入り、自習スペースに座ります。

 一刻も早くテストをしてくれなければ頭から単語が零れてしまいそうです。


「はやくテストをしてください」

「んー? テストは本日最後のイベントだよ?」

「……は?」


 ちょっと待て、この女何を言いやがりましたか?


「勿論始める前に5分くらいは確認する時間あげるけどね」

「う、嘘ですよね?」

「よし、じゃあ今日の勉強始めよっか。まずは昨日の復習から~」


 あまりのことに思わず呆然とする私など知らぬとでも言うように、天上院弥子は参考書を取り出して本日の文法解説を始めました。

 テストのことが気になり過ぎて若干集中力が欠けましたが、説明が分かりやすいのと昨日教わった知識と関連した内容なので昨日よりはすんなり頭に入ってきます。

 そしてそろそろ迎えが来ると言う15分前、いよいよその時がやってきました。


「よし。今日の勉強は終わり! じゃあお楽しみのテストしよっか」


 楽しみでもなんでもありません。

 消えてなくなれとすら思っています。


「テスト形式は昨日も言った通りね。それで、1問間違えるごとに1秒チューね」

「……冗談ですよね?」

「本当にやるよ?」


 やはり本気でしたかこの女。

 間違えようものなら必死に抵抗したところで結局する流れに持っていかれる気がします。

 かくなる上は全問正解で突破するしかありません。


「じゃあ5分あげるからその間は確認してていーよ。その間に問題作っちゃうから」


 もう昨日の晩から何十回も見直した単語を再び睨み付け、虱潰しにしていきます。

 5分という短い時間はあっという間に過ぎ、いよいよ天上院弥子が用意した問題をやる時になりました。


「終わったら教えてね。よーい、ドン!」

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