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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第四章 植物人のヴィエラ
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決意したけど貰ったけど触れるけど

 アイディールさんの『だったらヴィエラさんがヤコに付いて来たらどうか』という発言に、ヴィエラさんはその場でかなり悩んでいた。


「貴女はヤコ・テンジョウインを引き留めることばかりを考えているようですが、自分がついて行くという発想に何故ならないのですか?」

「……森の外に出たことがない、です」


 あぁ、言われてみれば確かにそうだ。

 ヴィエラさんは植物人という、この世界で存在してたのかも怪しいとされてた種族である。

 当然森の外に出たことないだろう。

 それは勿論、外での生活など出来るか不安になるだろうし、どちらかと言えば私が残る選択のほうが彼女にとって有難いだろう。


「そんなもの、貴女のエゴを通す何の言い訳にもならないでしょうに」


 しかしアイディールさんはヴィエラさんの言葉をばっさりと切って捨てた。

 凄いわ彼女、言い過ぎ感は否めねえけど。


「貴女、よっぽどこの女がお気に入りなようですが、この女がどっか行く程度で信じられなくなってしまう程度の愛なんですか? どんな苦難が待ち構えて居ようと追いかけて一緒にいるって程度の覚悟もないくせに?」


 最早何も言わなくなってしまったヴィエラさん相手に、アイディールさんは更に言葉の追撃を加えていく。

 その程度にしてあげてくださいと思うが、私からは何も言わない。

 ここで何か言ってアイディールさんを止めたら、それこそ私はどっち付かずになってしまうし、アイディールさんは私の為に言ってくれているからだ。


「どっかり構えて帰りを待つか、追いかけて『健やかなる時も病める時も一緒にいる』か。二つに一つですよ」


 ヴィエラさんはしばらく俯いて地面をみていた後、やがて顔を上げて私の眼を見て口を開いた。


「ヤコ」

「なんだい?」

「おばば様の説得、一緒にお願いしていいですか?」


 彼女はどうやら、彼女なりに覚悟を決めてくれたようだ。

 なら私も、全力でそれに答えなければならない。

 私は軽く笑って、ヴィエラさんに返事をする。


「勿論さ、ヴィエラさん」

「ありがとう、ヤコ」


 そう言ってヴィエラさんはくるりと背を向け、森の中央に向かっていった。

 私も追いかけようとしたが、その前にアイディールさんへお礼を言わなければならない。


「アイディールさん」

「なんですか」

「ありがとう」


 私がそう言うと、アイディールさんは腕を組んだままため息をつく。


「……はぁ、私はここで待ってますから、さっさとあの女と一緒に戻ってきなさい」

「うん。わかった」


 そして私もヴィエラさんの後を追って、おばば様のいる森の中心部へ走った。


 森の中央に辿り着くまで余り時間はかからなかった。

 今日も存在感を放っている世界樹の前で、先程急にいなくなったおばば様の姿。

 おばば様はやってきた私達に背を向けるような形で、世界樹を見上げている。


「おばば様」

「……」


 ヴィエラさんの呼びかけに、おばば様は何も答えない。


「おばば様、話を聞いてください」

「……聞こえておる」


 そう言って振り向いたおばば様。

 フードに隠されて表情は見えないが、どこか重々しい雰囲気を感じる。


「おばば様。私、この森を出て行きます」


 そんなおばば様に、ヴィエラさんはストレートに自分の想いを伝えた。

 報告をしただけで、是非は聞かないとでも言うようなヴィエラさんの言葉。

 それを受けておばば様は軽く拳を握り締める。


「……どこまでも、運命通りに進んでしまうのだな」

「何か言いましたか? おばば様」

「私はッ!」


 おばば様は突然叫び声を上げた。

 その声に反応し、周りの木々が騒めいて花びらが舞い上がる。

 更に大地が大きく揺れ、おばば様を中心として風が巻き上がった。

 しかしその現象は、平静を取り戻したおばば様によりすぐに収まった。


「……取り乱した。すまんな」


 いや、正直かなりビックリした。

 今の一瞬で感じた力は、正直自然災害というレベルだった。

 ヴィエラさんに会う為に突破した初日の森の妨害は、例えるならドレッドと戦っている時のような緊張を感じた。

 だが先程の現象は、そんなレベルではない。

 本能的な恐怖を感じる、その威圧。


「森を出たい。だったな、ヴィエラ」

「はい。おばば様」

「いいだろう。方法はある」


 そう言っておばば様が念じると、地面から一本の苗木が生えてきた。

 あれは……ヴィエラさんの本体だ。

 美少女感知センサーが反応してるし間違いない。


「私達は、依り代のある場所から一定以上離れることは出来ない」


 へぇ、そんな生態があるのか。

 霊体だと色々すり抜けられて便利そうだなとか思っていたが、そんなデメリットがあるらしい。


「まぁ、正直今のヴィエラのサイズであればこうして依り代を移動させればいいのじゃが、いずれ成長した時に面倒なことになるだろう」


 そう言っておばば様はヴィエラさんの苗木の枝を掴むと、軽く目を瞑った。


「だから、こうするのじゃ」


 ボキィ!

 そんな音と共に、おばば様はヴィエラさんの苗木の枝をへし折った。

 えっ、それ大丈夫なの。

 私は驚いてヴィエラさんに振り返ったが、特にヴィエラさんが苦しんでいる様子はない。


「これを、導き手殿に預ける」


 そう言っておばば様は折った苗木の枝を掌で包んで念じる。

 すると枝が光りだし、宙に浮かんだ。

 そして枝は形を変える。


「……これを常に身に着けていろ。それがヴィエラの新たな依り代となる」


 おばば様が掌をこちらに向けると、微かに淡い光を放つカチューシャが、私の手に収まった。


 私はその綺麗なカチューシャをそっと頭に着けてみる。

 着けるために開いた時に一瞬とても柔らかくなり、頭に着けるとキュウッと一瞬締め付けた後、ジャストなサイズで固定された。

 軽く頭を振ってみるが、落ちそうな感じもない。


「いいカチューシャじゃろ?」

「凄いですね、これ」

「先程も言ったが、それはヴィエラの依り代。当然ヴィエラの好きなように操作が出来るし、そのカチューシャがあるところの周辺までは好きなようにヴィエラが移動出来る」

「移動できる範囲はどのくらいまでなんですか?」

「そうさなぁ」


 そう言っておばば様はカチューシャをじっと見つめた後、元の苗木に目を落とす。


「まぁ、この森の十分の一くらいかのう?」

「結構広いんですね」

「依り代の大きさで移動範囲が決定されるんじゃよ」


 なるほど、恐らくヴィエラさんの元々の依り代であった苗木のサイズがあれば、この森全体が行動範囲だったのだろう。

 このカチューシャの大きさは苗木の十分の一程度の大きさなので、この森の十分の一くらいが行動範囲と、つまりそういうわけだ。


「ん? じゃあおばば様の行動範囲って物凄く広いんじゃ?」


 ヴィエラさんの苗木サイズでこの森全体であれば、その数百倍、いやもっとあるかもしれないおばば様の依り代である世界樹。

 その行動範囲はどれほど広いのだろうか。


「あぁ、行こうと思えばこの世界のどこにでも行ける。だからワシは『世界樹』と名乗っているのじゃ」


 へぇ……セルフどこで〇ドアなわけだね。

 とても便利そうで羨ましいや。


「じゃあおばば様とはまたいつでもお会い出来るのですね」


 そう言うヴィエラさんはどこか嬉しそうだ。

 やはりおばば様と離れるのは寂しかったのだろう。


「……いや。もうワシは自らお主たちに会いに行くことは無い」


 おばば様はヴィエラさんの頭を撫でると、軽く抱きしめた。


「だからヴィエラ。お前が自分の役目に気付いた時、再び会おうぞ」


 そう言っておばば様は指を鳴らすと、私の立っていた地面が隆起する。

 びっくりして思わずふらついたが、よく見ると手すりのようなものも生えてきたのでそれに捕まった。


「さらば」


 目の前の景色が、急速に離れていく。

 私の立っている地面が森の外へと拘束で移動しているのだ。


「おばば様!」


 私が移動すると共に、ヴィエラさんがまるで見えない壁に引きずられるかのように、彼女を抱きしめていたおばば様から引き離された。

 私がカチューシャをしていることで、その移動範囲に引きずられているのだ。


「おばば様!」


 ヴィエラさんは、もう遠く見えなくなってしまったおばば様へと叫ぶ。


「またいつか!」


 私達はそのまま、森の外に放り出された。

 言葉通り放り出されたので、重力に従って地面に頭から落ちていく。


「アフターケアの精神0かよ!」

「大丈夫です、ヤコ」


 このままだとぶつかるという寸前で、ヴィエラさんが植物の根っこをトランポリンのように生やして受け止めてくれた。

 新天地を目指す前に酷いことになりそうだった。


「ありがとう、ヴィエラさん」

「無事でなによりです、ヤコ」


 そう言ってヴィエラさんは私の頭を軽く撫でてくれた。

 まるでお日様のように安心する温もりが掌から伝わってくる。


「……ん?」


 あれ、なんか今おかしな出来事が起こったような気がする。


「どうしました? ヤコ」

「いや、なんでもない……かなぁ?」

「そうですか」


 ありえないことが起こった気がするんだけど、普通のことな気がする。

 自分は何に疑問を抱いたのだろう。


「手を貸します、どうぞ」

「ありがとう、ヴィエラさん」


 トランポリンに尻餅を付いていた私は、ヴィエラさんの伸ばしてくれた手を握って立ち上がった。

 そしてその瞬間、違和感に気付いた。


「……ヴィエラさんに触れる?」


 そう、森にいた時は実体が無く、触ろうとすればすり抜けてしまったヴィエラさん。

 仕方が無いので愛の証明とやらで苗木とドスケべすることになってしまった苦い思い出。

 それが今、触れる。


「えぇええええ!? なんで!?」


 マジかよ、最高じゃん。

 うっわ、ヴィエラさんの手すげえ柔らかい!

 生まれて間もない赤ちゃんのようなモチモチ肌である。

 同じ女として少し羨ましい。


「恐らく、そのカチューシャのお陰ですね」

「え、これ?」


 試しにカチューシャを外して、トランポリンの上に一旦置く。

 そしてヴィエラさんに触れようと手を伸ばしてみると、今度は以前と同じ様にすり抜けてしまった。


「このカチューシャにそんな機能が……」

「それは私自身です。ですからそれを身に着けている限りは分身である私にも触れます」

「へぇ、それは凄い……ね?」


 いや、凄い。

 間違いなく凄い、革命的だ。

 今まで触れることの出来なかったヴィエラさんに、こうしていれば触れることが出来るのだから。

 だがその時、私はもう一つの事実に気付いてしまったのだ。


「もし」


 そう、もしもあの時。


「愛の証明の時、苗木に触れていた時に」


 ヴィエラさんに触れていたら?


「えぇ、間違いなく私とも接触出来ていたと思います」

「そう……ごめんヴィエラさん。ちょっと森に忘れ物をして来ちゃったみたい」

「本当ですか? 取りにいかなければいけませんね」

「いや、大丈夫。ここで待っててほしい。すぐに終わるから」


 待ってろバ〇ア、血祭りに上げてやる。



 結局私が再び森の中心に向かおうとすると、行動範囲的な問題でヴィエラさんが付いてくる必要があるので遺憾ながら断念した。

 次再び出会うことがあったら確実に息を止めようと思う。


「きゃああああ!?」


 そう私が固い決意を胸に誓っていると、もう一人森の中から放り出されてきた。

 アイディールさんである。

 いいのだろうか、一応彼女はおばば様サイドからすれば客人だろうにこんな扱いをして。

 とりあえずスルーは流石に可哀想なので抱きとめて差し上げた。

 彼女は小柄なので、見かけ通りというか結構軽かった。


「あ、ありがとうございます。今回ばかりは助かりました」

「どういたしまして。怪我は無い?」

「……なんでしょう、貴女が普通の対応してくると若干気持ち悪いですね」


 流石にこの扱いは酷いと思う。

 アイディールさんは私の腕から離れると、軽く服を払って私達に向き直った。


「その様子では上手くいったみたいですね」


 隣でふわふわ浮いているヴィエラさんと私を見比べて微笑むアイディールさん。

 あれっ? ひょっとしてアイディールさんの純粋な笑顔ってこれが初めてじゃね?

 凄い貴重な気がする。


「貴女のおかげです。感謝します、アイディールさん」

「いえ、最終的に行動したのは貴女ですよ。私は助言しただけです」


 私以外と話すアイディールさんってこんなにまともな人なのか。

 もうちょっとその優しさを私にも向けて欲しい。

 彼女はヴィエラさんから私に目線を移し、口を開いた。


「おい痴女」

「はい、なんでしょう」


 これですよ、差が酷い。

 自然過ぎて返事をしてしまったが多分怒っていい場面だと思うんだ。

 少なくとも相手を敬った呼びかけではないのは確かである。

 貴女って単語を知っていることは数秒前に証明されてるんだから故意であることも確かだ。


「トレボールまでの行き方は分かってるんですか?」

「あー、うん。まぁ多分」

「なんですかその曖昧な言い方は」


 いや、実際に正確なところは分かんないんだけど、大体どう行けばいいのかは分かるんだ。

 なんでかって言われると、ここからかなり遠くの方でありながらも、かなり自己主張の激しい反応を美少女感知センサーが示している。


 それで、だ。私も流石にバカじゃない。

 美少女感知センサーによって探した女性全てに共通することがあるという事実にも気が付いてる。

 どっかの中央王都の王様にもおばば様にも明言されていたわけじゃないが、ほぼ間違いないだろう。

 きっとこの『美少女感知センサー』が指し示す反応の先に『七色の英雄』とやらがいる。


「トレボールってとこに、私はいずれにせよ行かなきゃいけないんだと思う」

「先程も言いましたが、生きて帰って来られるとは思えませんよ」

「それでも行かなきゃいけないんだ」


 誰かに操られている気がする。

 仕組まれているというのも薄々気が付いてる。

 でも、私には「選択する権利」があって、私は「それに乗っかる」って方を選んだ。

 だから、きっと後悔はしない。


「そこに美少女がいるなら、たとえ死んでも行くしかない」

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