天上院弥子が咲かせた女 植物人のヴィエラーSide4ー
「い、いったいどこに向かえばいいんですかねぇ?」
私がヤコの呼んだ協力者さんの所に行くと、青い服に身を包んだ女性が森の中を彷徨っていました。
木に手をついてオロオロしています。
「やっぱり部下を連れてくるべきでしたかねぇ。でもかなり危険性の高い場所ですし、巻き込むわけにも……」
「こんにちは」
「きゃあ!?」
私が声をかけると、まるでお化けでも見たかのようにその人はびっくりしました。
とても失礼ですね。
「お、お化け!?」
「おばば様に言われて案内しにきました」
「おばば様……?」
本当に私のことをお化けだと思ったようです、酷いですね。
確かに霊体なので透明ですが、悪い事なんてした覚えはありません。
「私に付いて来てください」
「は、はぁ……」
女性は少し迷ったような素振りをしていましたが、私の誘いを断っても仕方がないと判断したのか遠慮がちに付いてきました。
◇◆◇
「おばば様、連れてまいりました」
「うむ。ご苦労だった」
おばば様の元へ協力者さんを案内した私は、ヤコのいる家へ向かおうとしました。
ですが、おばば様に再び制止されました。
「待て、ヴィエラよ」
「なんですか? おばば様」
「お前視点での話を聞きたい。ここに残ってお前も話をしてくれ」
なるほど、確かに襲撃された時点で私とおばば様は別行動をしていました。
色々な出来事が連続で起こったので報告もまだでしたね。
一刻も早くヤコと会いたいのですが、優先順位を守らねばなりません。
「ではまず自己紹介と行こうかの。ワシはこの森を治める世界樹が主、ユグドラシルと申す。お主ら人間が植物人と呼ぶ者よ」
そう言っておばば様は協力者さんに挨拶をしました。
それを聞いた協力者さんは軽く頭を下げて礼をします。
「お初にお目にかかります、ユグドラシル様。私の名前はアイディール・ロウ。中央王都の治安委員局長及び裁断者を勤めさせて頂いております。本日は中央王より王都代表として参らせて頂きました」
どうやら人間の中でかなり偉い人のようです。
森の中で迷っていたせいでイマイチ威厳がありません。
続いて私の自己紹介をしましょう。
「はじめまして。ヴィエラ、言います」
以上です。
特に私は肩書などはないのでこれで終わりです。
アイディールさんが「えっ、それだけ?」という顔をしていますが、本当にこれ以上言うべきことは無いです。
「……まぁ、紹介は程々にして、本題に入るとするかの」
おばば様がそう言って、初めての公式な人間と植物人との対談が始まりました。
「事の経緯をざっと説明しようか」
「えぇ、お願いします」
おばば様はアイディールさんに今回の事件の顛末を余すことなく説明しました。
途中何度か私にも質問をしてきましたが、私は基本的にマシンを拘束して地面で押し潰していただけなので特に喋ることはありませんでした。
「その、マシンが綺麗な形で残ってたりしませんか? 調査の証拠物品になるので回収させて頂きたいのですが……」
「ひとつ残らずぺちゃんこにしちゃいました」
ちょっと壊したくらいでは蠢いて抵抗し続けるので完全に機能停止させるしかありませんでした。
一応鉄屑としては残っているのでそれを見せた所、小さくため息をつかれてしまいました。
「……残念ですがこれでは捜査のしようがありませんね」
「お役に立てずにすまんのう」
「いえ、最初からそういう旨の契約です。植物人の方々に非は全くございません」
今回の事件が起こる前に、この森に多大な被害が及ぶのであれば人間の事情に考慮せず対処するという取り決めがありました。
アイディールさんはそのことを言っているのでしょう。
「それとその……ヤコ・テンジョウインはどうしたのですか?」
「あぁ、それについても説明しよう」
おばば様からアイディールさんにヤコが気絶した時の話をすると、アイディールさんは何か考えたような仕草をしたあと、軽く頷きました。
「わかりました、そちらについては私に任せてください」
「……よいのか?」
「えぇ、大丈夫です」
なんと、ヤコが気絶した理由をアイディールさんは知っているそうです。
私よりもヤコに詳しいだなんて、少し心がモヤモヤします。
そしてこの後ヤコが目覚めると、アイディールさんは追いかけていきました。
戻って来たヤコの顔はとてもすっきりした表情で、私はさらにモヤモヤするのでした。
そして。
◇◆◇
「あー。ヴィエラさんがこの女に付いてったらどうなんですか?」
森の外に出て行くというヤコを引き留める私に、アイディールさんは提案をしてきました。
ヤコを引き留めるのではなく、私自身がこの森を出て行く。
その考えは私にとって革命的でした。
確かにヤコと一緒にいる為に、ヤコが私に合わせる必要はありません。
私がヤコに合わせればいいのです。
でも、出来るのでしょうか。
私は生まれてから200年間、この森を出たことがありません。
そもそも、私はこの森から出ることが出来るのでしょうか?