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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第一章 魔族のフィスト
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天上院弥子の地球浪漫 ~アメリカ編、その2~

 二日目、天上院は朝早くからソウと共にバス停に立っていた。

 ソウは、毎日スクールバスを利用し、中学校に通っている。


「ヤコ、眠くない?」

「ソウのおかげでよく眠れたよ」

「あはは、私も」


 やがてバスがきて、二人は乗り込む。


「Hello,メイ」

「Hello,ソウ。その子が前に行ってたホームステイの子?」

「そうよ、ヤコっていうの」

「ヤコ、初めまして。私の名前はメアリー・クリスティン。メイって呼んでね」

「よろしく、メイ。天上院弥子です」


 メイは飄々として元気そうなソウと違い、フード付きの上着を羽織り、頬にタトゥーをしたミステリアスな雰囲気の少女だ。


「素敵なタトゥーだね」

「ありがと、かっこいいでしょ」

「うん、メイとソウはいつ知り合ったの?」

「いつだっけ? 忘れちゃった」

「えー、酷いよメイ! 図書館であなたが上級生に絡まれてたところを颯爽と助けたのが、二人の運命的な出会いだったんじゃない!」

「本当に忘れるわけないでしょバカ、ただ本の場所を聞いてた強面の上級生が私に言い寄ってると勘違いした女の事なんて。しかもそのあとソウは」

「ごめん、私が悪かったからそれ以上ヤコに私の恥ずかしい過去をバラさないで……」


 なにやら楽しそうな二人である。

 馴れ初めをもっと聞きたいと思った天上院だったが、ソウが必至で妨害してくるので諦めた。


「ヤコは今日ソウと同じ授業を受けるんでしょ? 大体私とも一緒だろうし、よろしくね」

「え? 二人は同じクラスじゃないの?」

「ん? あぁ、ホームクラスは一緒だけど、一部受ける授業は違うんだよね」

「そうなんだ。日本の中学はホームクラスで全員同じ授業受けるのよ」

「へぇ、アメリカだと授業ごとに教室が違うんだよね~。この移動が面倒でさぁ……」


 その後も天上院はソウとメイと共に会話で盛り上がった。

 英語を勉強していてよかった。

 天上院は、このとき一番それを実感したかもしれない。


 その後、天上院は二人と共にアメリカの学校の授業を受ける。

 数学は日本の知識でも対応可能。体育は若干ぎこちなく参加。

 天上院にとって驚きだったのは、アメリカにも英語の授業があることだった。

 ただ日本のそれと違いよりハイレベルで、日本でいう「国語」に近いものだった為、理解をするのにソウとメイの協力が必要だった。

 さらに英語の授業の先生は、留学生である天上院に自己紹介をして欲しいと言い、急遽天上院は生徒たちの前で自己紹介をすることになった。


「こんにちは、私の名前は天上院弥子です。将来自分のやりたいことを捜しに、アメリカに二週間留学をすることになりました。最初は緊張しましたが、今は優しい友人、ホストファミリーのおかげで、アメリカに来てよかったと思います。以上です、ありがとうございました」


 話した言葉はとても少なく、たどたどしい英語ではあったが、頑張ってアメリカに来てよかったと伝える天上院の姿に、クラス中から大きな拍手が起こった。

 ソウに関しては感激のあまり天上院の名前を大きく呼んでいる。


「Yako~!I love you!」


 天上院も負けじと言い返す。


「I love you,too!」



天上院の楽しいアメリカ留学の日々は、あっという間に過ぎて行った。

 普段の日は学校へ授業。授業後や休みの日は、ソウやその両親、そしてメイとアメリカの色々な所へ遊びに。

 楽しい時はすぐに終わってしまう。

 今日は天上院の留学最終日、学校は休みの日。

 天上院はソウとその家族とメイ、そして犬のオスカーと共に山の小川でキャンプをしに来ていた。


「ヤコー、水がきれいですよ、Come here!」

「はーい、今行く!」

「ヤコ! ソウ! 日焼け止めを塗らないと後で酷いよ!」

「たまには日焼けするのもいいでしょ、メイ!」

「いいから塗りなさい! あんたいっつも赤くなって痛い痛い言うでしょ!」


 天上院たちが遊んでいる間に、ソウの両親がバーベキューの用意をしてくれる。

 たくさん遊んでおなかの空いた天上院たちは、それを沢山食べ、そしてまた遊ぶのだった。

 そうこうしているうちに日は暮れ、夜になり、天上院達はアンデルセン家の車に乗り込む。

 その時になって天上院は、楽しかった留学、ソウやその両親、メイたちと会うのがこれで最後の日なんだと、本当の意味で気付く。

 悲しい気持ちでいっぱいになった天上院の目からは、涙が出てきてしまった。


「ヤコ……」


 ソウ達が、天上院の涙の理由を聞くことはない。

 彼女達だって同じ気持ちだからだ。

 だが、勿論こうなることは分かっていた。

 分かっていたからこそ、ソウ達は天上院を元気付ける為、一つの作戦を予め立てていた。

 本日は晴天、夜空には雲一つない。

 車はそのまま家路につくことなく、山を登り始める。


「何故山を登っているの、家に帰らないの?」

「ふっふっふー、行けばヤコにもわかります」


 自信満々に笑うソウとその両親、何かに気付いたのか微笑むメイ。

 状況がわかっていないのは、天上院だけだった。

 車はついに、山の頂上まで登り、そこで停まる。


「ここで降りましょう、ヤコ」


 先に降りたソウに導かれるまま、天上院が車を降りると、目の前に彼女が見たことがないほどの星空が広がっていた。


「相変わらず綺麗だよねぇ、ここ」


 メイも車を降りて、星空を眺めて笑う。

 天上院がその言葉に反応することはない。

 すべてを吸い込んでしまうような、それでいてどこか輝いているような、星空の美しさに、魅せられているからだ。


「ヤコ」


 そんな天上院を、後ろからソウが抱きしめる。


「ひょっとしたら、未来永劫、私と貴女が会うことはないかもしれません」


 ソウは優しく、しかし力強く天上院を抱きしめる。


「だけどそれを嘆く必要はないんです」


 天上院の頭は優しく撫でられる。


「この宇宙は、空が繋いでくれます。遠い日本の国の貴女、アメリカの私。これから私達が成長して変わっていっても、それぞれの人生を送る国が変わっても、私達と貴女が出会ったという事実は変わりません」


 天上院の髪が何か柔らかいものにまとめられた。


「だからヤコ、別れを悲しまないで下さい。私達は例え貴女と離れても、貴女の幸せを祈っています」


 天上院の髪を結んだ星条旗のハンカチ。

 それは天上院達の上、夜空に輝く星々に似ていた。

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