プロローグ
私の名前は天上院弥子。
お嬢様学校と名高い、私立椿ノ宮女子高校に通う16歳の女子高生。
頭脳明晰で容姿端麗。誰にでも優しく、歌を歌えば小鳥が舞い、楽器を手に取れば光が舞い散り、運動をさせても校内随一と評判の女の子。
ナルシストって呼ぶ人もいるけど、自信満々な方が女の子にはモテるのさ。
お前は女なんだから、女にモテる必要は無いはずだって? いやいや、そんな決め付けは良くないよ。
だって私の性的嗜好は、男よりも女の子なんだから。
そもそもお嬢様学校で有名な椿ノ宮に、一般庶民の私が入学したのも、在籍してるお嬢様達とお近付きになる為だしね。
そんな私は今、仲良くしていた女の子に追いかけられている。でもその程度ならいつものことなんだ。
先程も言った通り私はモテるし、校内でファンの子達に追いかけられるなんて日常茶飯事。
問題なのはその女の子が手に持っているモノ。
「全ては天上院様が悪いんですよ? 私に愛を囁きながら他の女にも愛を語るなんてするからです」
刀持ってんぞあのぶっ飛びガール。
現代日本で真剣持ってる人とかリアルに存在したのか。お嬢様は何でもアリだな。
私は適当な教室へ逃げ込み、そこにあったロッカーに入り込んだ。
「どこですか、天上院様?」
そういや天上院って凄い大仰な名前だよね。
マイマザーのマザーとマリッジしたグランドファザー辺りに由来を一度お聞きしたい。
名前の由来は分からないが、人生最大のピンチに遭遇すると、人はそんなどうでもいい事を考えて気を落ち着かせようとするんだってことが分かった。
「この部屋から、天上院様の香りがしますわ」
香りで人の居場所が分かるとか化け物過ぎないかな。トリュフ見つける豚かよ。
香水の表現を柑橘系とフローラルの二つしか形容出来ない私とはレベルが違うね。
「ふふっ、隠れてないで出てきてくださいな。今なら許してあげますから」
その台詞を言って許した人を私は知らない。
許すくらいの心の余裕があったら刀を抜かないだろう。
でも万が一に賭けて自首すべきか? 本当に匂いで居場所が分かるレベルだったら私の隠れてる場所なんてもうバレてそうだし。
「そうですねぇ、我が社の開発部が作成した拘束板のテスターにでもなっていただきましょうか」
成程、許してるの範囲が人より特殊なのね。
監禁っていう単語を辞書で調べて正しく理解して頂ければ、もう少し彼女の価値観は世間一般に近付くだろう。
「はぁ。もういいです」
おっ、諦めてくれたのかな?
そう思った次の瞬間、銀色の光がロッカーを貫いて私の腹部に突き刺さっていた。
「さよなら、天上院様、すぐに追いかけますわね。今回のお仕置きはこれで勘弁して差し上げます」
随分とキッツイお仕置きを食らった私は、暗くなっていく視界の中で思った。
もっと沢山の女の子とドスケべしたかった、と。
馬鹿は死んでもというが、私も馬鹿の部類なのかもしれない。
◇◆◇
「起きてください! 起きて!」
誰かが呼ぶ声がする。
お母さんだろうか、それにしては少し声が高い気がする。
寝惚けたような頭を動かして目を開くと、美しくサラリとした金髪の少女がいた。
透き通るような薄い素材で出来た純白の服を身に纏っており、幼い容姿に反して誘うような衣装が、私の背徳感を刺激する。
あぁ、なんだ。これは夢か。
確かにこんな可愛い子とイチャイチャしたいと妄想した事は一度や二度では無いが、夢にまで出てくるとは思わなかった。
折角なんだし楽しませて貰おう。
「私はまだ起きたくないんだ。だから一緒に寝よ?」
「ちょっと、やめてっ!」
「ふふっ、この服は誘っているのかい? 純白な服と翼を穢して欲し……え?」
いざ私の眠るベットに引き寄せて、その身体を弄ろうとし、少女の特殊性に気付いた。
なんか翼が生えているのだ。
確かに天使のように可愛い女の子だが、本当に天使とは思わなかった。
よく見れば頭の上には薄い輪っかの様な何かも見える。
「離しなさいよ、この人間!」
「あ、あぁ。ごめんね」
あまりの衝撃に冷静になったわ。
すっかり覚めた目で周りを見渡すと、私が今まさに寝ていたベッド以外は何も無い、どこまでも白い空間が広がる世界だった。
上も下もイマイチはっきりせず、右を向こうとしたら左を見ているような、方向感覚も狂いそうな世界。
「びっくりしたぁ」
唯一ハッキリと見える私以外の存在は、目の前にいる女の子だけ。
しなやかな脚に陶器のように滑らかな肌真っ赤な唇、薄い胸板。
まだまだ未熟だね。私の守備範囲外かな。
「天使をそんな不純な目で見ないでください!」
おっと、顔に出ていたようだ。
さっきまで流れから、天使ちゃんから私への第一印象はどうやら最悪のご様子。
ここから挽回していかなきゃ。
天使ちゃんはその薄い服で透き通った身体を手で隠してジト目で私を睨みつけた。
しかし間もなく気を取り直すように咳払いをすると、居住まいを正して口を開く。
「天上院弥子さん。貴女は人生において徳ポイントを一定ラインまで達成しました」
ん。徳ポイント?
一体なんのことだろうか、訳がわからない。
まぁ確かにこれは夢だし、展開が多少読めないくらいはどうでもいいや。
「人はそれぞれ達成しなければならない徳があります。貴女に与えられた使命は『人に喜びを与える』ことでした」
喜び? 悦びならいっぱい与えた覚えはあるけどね。
私はそんな聖人では無いし、我欲に塗れた人生を送って来た自信がある。
その過程で女の子と関係を深めることで愉悦という快感を与えたことはあったが、喜びなんて大それたものは記憶に無い。
「その徳に応じて徳ポイントが与えられ、それに応じたご褒美を今ここでお渡しするのです。人間界で言う『天国』だと思って下さって構いません」
天国ねぇ。
確かに天使さんは目の前にいるし、そう言われればそうなのかもしれない。
しかし、夢にしては随分と私の思考がハッキリしている。
明晰夢としてもあまりにリアルだ。
「天上院さんはかなり徳が高い人だったので、極楽行きは勿論、お望みなら大天使になることも出来ます!」
「大天使……?」
想像したのは白い羽衣に身を包んだ沢山の可愛らしい天使ちゃん達に奉仕してもらってる大天使の私。
うん、アリだな。こんな穢れの塊みたいなのが大天使なんぞになれるのかと言う問題は置いといて。
「大天使さんになれば仕事はありますけど、イケメンな天使がご奉仕してくれる上に、超絶イケメンな神様とも偶にお話しできます!」
一気に興味が失せたわ。
イケメンな女の子の天使とか超絶美少女な女神様とかなら大歓迎だけど、男とか爪の先程も興味が湧かない。
「男には興味無いんだ」
「左様ですか。うーん、ではどうしましょうかねぇ」
まぁ、私の願いはもう決まってるんだけどね。
どうせ夢だし、目先の利益を考えよう。
「願い事は決まってるよ」
「え? あ、本当ですか!」
提案を却下され、困った表情を浮かべた天使ちゃんは、私の言葉に笑顔を浮かべた。
そして何処から取り出したか分からないステッキを掲げて口を開く。
「人間よ、願いを申せ。天使ヴィクティムが、我が身を賭けて叶えよう!」
天使ちゃんの名前を初めて知った。
ヴィクティムちゃんって言うのか。
言葉と共に、ステッキから溢れんばかりの光が飛び出して、私の身体を包み込む。
今願いを言えば叶うのかな?
ならば言わせて貰おう。
「天使ヴィクティムとドスケベしたい」
「よかろう! 願い、聞き届け……は?」
私の言葉に、ヴィクティムちゃんの顔が凍り付く。
しかし状況に付いていけない彼女を置き去りにする様に、私を包んでいた光は輝きを強める。
やがて光が収まると、私が寝ていたベッドはゴシックな天蓋付きのベッドとなり、どこまでも続いていた白い空間は、出入り口の無い個室になっていた。
そしてベッドの側には、呆然とした表情のヴィクティムちゃん。
正直状況が謎過ぎて笑ってしまいそうだが、折角私好みの展開になっているのだ。しっかり楽しもうと思う。
とりあえず私は突っ立ってフリーズしている天使のヴィクティムちゃんをベッドに押し倒す。
「か、考え直しませんか! 時間はたっぷりあります、もっといい願いがあるはずです!」
そうだね。不老不死になりたいとか、頭が凄く良くなりたいとか。
普通はそんな願いを言うものだろう。
でもいいじゃないか、そんなことはこの際どうでも。
確かにちょっと私の好みには若干お肉とか年齢が足りていないし、正直小さな子供をからかってる程度の気持ちにしかならない。
でも、天使ちゃんとエッチ出来る機会なんて一生無いだろう。
「地獄に落としてやる……! 徳なんて関係ない、天使の私にこんなことしてどうなるか」
「あはは、こわ〜い」
ヴィクティムちゃんはどうやら怒り心頭の様子だが、願いの力なのか、それとも純粋に力が無いのか、私を振り払うことが出来ないでいた。
「とっても可愛いよ、ヴィクティムちゃん」
「顔を近付けないで!」
軽くほっぺたにチュウをしようとしたら、唾を引っ掛けられてしまった。
そこまで私は嗜虐趣味が強いわけではないのだが、反抗的な子を虐めるのはとても楽しい。
こんな私の徳が高いんだってさ。嘘でしょ?
「い、いや!」
「そんなに嫌がらないでよ、きっと気持ちいよ?」
顔をゆっくりと近付ける私に、必死でイヤイヤと顔を振るヴィクティムちゃん。
そろそろ潮時かな。
「もうやめて!」
「うん。いいよ」
私が彼女の拒否を了承するとべッドが掻き消える。
支えを失ったヴィクティムちゃんが倒れこみそうになったので、背中を押さえて支えてあげた。
「えっ?」
「冗談だよ。あんまり必死に拒否されたから、ちょっと傷付いたけどね」
「あ、あぁ……」
私がそう言うと、ヴィクティムちゃんは膝から崩れ落ちて泣き出してしまった。
罪悪感が凄い。まぁ強姦未遂と言われたら文句言えないし、実際に罪だが。
「怖がらせてせてごめんね」
私は泣いているヴィクティムちゃんにハグをする。
あれだけ怖がらせたんだし、拒否されるかと思ったけど、意外にも彼女は抱きしめ返してくれた。
「怖かったです……」
「大丈夫、もう怖くないよ」
怖がらせた本人が何言ってんだって感じだけどね。
マッチポンプ感が半端無い。
ヴィクティムちゃんはそれから暫く泣き続けたが、やがて落ち着いたのか、目を擦って私から離れた。
「それで、私はこれから地獄に落ちてしまうのかな?」
どうせ夢だからって流石に調子乗り過ぎたよなぁ。
ロクなことにはならないだろう。
ヴィクティムちゃんはマジ泣きだったし、ちょっと自分でもやり過ぎたと思う。
涙目で真っ赤になった彼女は、それでも震える声を抑えて口を開いた。
「あ、あのですね。天上院様の徳は本当に高いので、まだ願いをかなえて差し上げることが出来るんです」
……大丈夫か、この子。
仮にも君を襲おうとした人間だよ?
優しいにも程があるだろ天使かよと思ったが、本物だったわ。
「いいの?」
「はい。その、今度はしっかり相談させて頂きますけど」
「うーん」
天使ちゃんって凄いね、職務に忠実だ。
自分と言う存在がとても醜いものに思えてくるよ。
彼女の優しさで浄化されたい。
もしくは純潔な彼女を私が……さっきやったしもういいや。
「率直に言うけど、私は色んな女の子とドスケベがしたい」
「本当に率直ですねぇ。まぁ、さっきので何となく察しましたけど」
ヴィクティムちゃんはそう言うと、何処からか三つの本を取り出した。
「ならば、もう一度人として生きていくのはどうですか?」
ちょっと待って何その言い方。
まるで私が死んだかのような。
いやごめん。天国とか地獄とかの話はしてたけど、まさか本当に?
完全に夢だと思ってたんだけど。
「えっ、ごめん。私死んだの?」
「へ? 死にましたよ。資料には刃物で刺されて死亡って書いてありますけど」
……あー、そう言えば思い出した。
私死んでたわ、刀で刺されて。
じゃあえっと、つまりどういうことだ?
「ここは本当に天国ってこと?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか。本当に変な人ですね」
そっか……私死んだのか。
でもいいや。なら願い事を使って生き返ればいい。
「じゃあ私を生き返らせてよ。それが私の願い事」
「ごめんなさい、それは出来ないんです」
えっ、なんで?
そう聞き返す私に、ヴィクティムさんは丁寧な説明をしてくれた。
今私がいる天国は、数ある世界の交差点であり、ここから他の世界に向かって分岐する事は出来ても、元来た道、つまり私が今まで生きていた世界に戻ることは出来ない。つまり一方通行らしいのだ。
「ですから、私からは天上院さんの住んでいた世界と良く似た世界に案内する事しか出来ないのです」
先程はヴィクティムちゃんが泣いていたが、今度は私が泣きそうである。
えー。マジかぁ……じゃあもう二度とお母さんやお父さんに会えないのか。
私を刺してきた女の子だって、元はと言えば悪いのは私なのだ。
死んでしまった今となってはもう手遅れだが、もう一度会ってお話しがしたかった。
「その……元気を出して下さい。元いた世界に戻る事は出来ませんが、特殊な方法でお話しする事は出来ますから」
「ほんと!? その方法を教えて!」
「残念ながら今すぐには不可能です、ですが」
ヴィクティムちゃんは元から出していた3つの本に加えて、黒字に金色の装飾が施された本を一冊、何もない空間から取り出した。
「これは?」
「詳しい説明は後ほどさせて頂きますので、取り敢えずはその本の1ページ目を開いて下さい」
言われた通りに、手渡された本の最初のページを開くと、黄金の淡い光で構成された、丸い紋様が浮かび上がる。
「その魔方陣に口付けを」
そうか、確かに言われてみれば、子供の頃に一度は憧れた魔法に見える。
私がそれに軽くキスをすると、私のキスマークが魔方陣の上に浮かび上がる。
少しの間の後に、魔方陣が消えて本が閉じると、まるで空気中に溶けるようにして本が消えた。
「では続いて、これから天上院さんが行く世界を選択します」
そう言ってヴィクティムちゃんは、先程何処かから取り出した3つの本を私の目の前に浮かべた。
それぞれ『科学世界』『魔法世界』『混合世界』と書いてある。
これらから行きたい世界を選べという事なのだろう。
「これらが私の用意出来る、地球とほぼ同じ法則と倫理観のある世界です」
「これ以外もあるの?」
「あるにはありますが、文明すら存在しない太古の生物だけの世界だったり、水が一滴も無いマグマだけの世界だったりと、おおよそ人が生存するに相応しくありません」
流石にそれはアウトだね。
恐竜とかがいるなら少し見てみたい気もするが、まだ見ぬ美少女を差し置いてまで優先すべき事じゃ無いし、死んでしまっては元も子もない。
「混合世界って何?」
「それは科学も魔法も両方存在するごちゃまぜの世界ですね、ただ……」
ん? どうしたんだろう、ヴィクティムちゃんの顔色が暗い。
「最近、そちらの世界に案内した方々の情報追跡が出来ないケースが発生していて、安全性が低いので正直オススメ出来ません」
そうか。
確かに日本という平和な国で育った人間だし、天使自らが危険と言っている世界は避けるべきかもしれない。
だが、魔法というのも経験したいし、想像出来ない世界では、想像も出来ない美少女と出会えるはずだ。
「決めた。混合世界にするよ」
「え、本当に何も保証が出来ませんよ?」
「いいんだ。すぐに死んじゃうかもしれないけど、それはそれでいい」
「何故ですか?」
正直人生に2回目以降があるなんて思ってなかったし、何より。
「死んだらまたこうやってヴィクティムちゃんと会えるんでしょ?」
自分で言うのもなんだけど、流石にクサ過ぎたかなこの台詞。
引いてなきゃいいけど。そう思いながら顔色を伺うと、若干呆れたような顔だったが、案外満更でも無さそうだった。
私は混合世界と書かれた本のページを捲る。
本の中には、私が転移する際に手に入れることが出来る特典の一覧が書いてあった。
「出生身分の指定?」
「どういった身分の家庭で生まれたいかという指定ですね。徳ポイントの消費量に応じて王族や庶民などの指定が出来ます」
だが追加説明によると、確かにお姫様として産まれてくることは可能だが、何番目のお姫様かどうかは決める事は出来ない上に、今にも崩壊してしまいそうな国のお姫様として産まれる可能性もあるらしい。
一般家庭にしたって、その幅は広く、比較的裕福な家庭かもしれないし、明日の食べ物にも困っているような家庭になるかもしれない。
ならば。
「いっそ私自身が、どこの家庭からも産まれずにその世界へ行く事は出来ないの?」
「可能ですよ。転生ではなく転移という形ですね」
出来るのか、下手にギャンブル性の高いモノに賭けるよりも、最初からそうした方がいいような気がする。
「ただその場合、所属してる国籍などが存在せず、国による保護を受ける事が出来ない可能性もありますが、それでも大丈夫ですか?」
言われてみれば確かにそういうデメリットもあるのか。
国籍とか全くの視野外だった。
でもなぁ、正直私がその世界で新たに産まれるという事は、今度は別の両親が出来るわけだ。
すると現在の目標の一つである、日本の両親と会話するという計画にブレが出て来そうだ。
それに赤ちゃんから現在の年齢まで確実に成長出来る保障も無いのだし、だったら自らの判断である程度行動出来る方が魅力的にも思える。
「それでも、私はその転移、だっけ? その手段がいいな」
「わかりました。では身分は強制で『流浪者』という立場になりますので、身分指定のページは飛ばし、特殊スキルのページに移って下さい」
言われた通り、私は身分指定のページを飛ばして、特殊スキルと書いてあるページを開いた。
そこには消費ポイントの大きい順に、沢山のスキルが並んでいる。
「いっぱいあるねぇ。私が持っている徳ポイントってやつを、この特殊スキルに還元して取得するっていうこと?」
「はい、取得したスキルはもう徳ポイントとして戻すことが出来ませんので、よく考えて選んでくださいね」
・不老不死【制限】500pt
・人外変化【虎】50pt
・武術習得【空手・極】50pt
さっと目を通しただけで優に1万は超えそうな程の種類に加え、それぞれに詳しい説明が書いてある。
とりあえず適当に3つ例として出したが、不老不死にも【無制限】2500ptとかの種類があり、全部読み終わるまでにとんでもない時間がかかりそうだ。
美少女感知センサーとかないかな。美少女のいる場所が分かる的な。
あぁ、そういえば、私はそもそもどれほどポイントを持っているんだろう。
「天上院さんが所持するポイントは2500ptですね」
確認しようと軽く視線を向けると、その質問を予期していたのか、ヴィクティムさんから教えてくれた。
想像よりもずっと多かった自分のポイント量に期待が高まる。
いったいどんなことができるんだろう。
というか2500なら不老不死【無制限】とかギリギリ取れるよなぁ。
でもまぁ、永遠に生きていたいとかは私のガラじゃないし、必要ないかな。
こうして死後の世界があると知った今となっては、そこまで魅力的にも思えないし。
「無駄遣いはせずに天上院様にとって本当に必要なものを慎重に考えてくださいね~」
「とりあえず500pt消費して美少女感知センサー取得」
「ちょっと待って!?」
「後は1000ptで究極性技 真四十八手と500ptで召喚術-ペガサス―、残りの500で神槍グングニルで」
「おうコラ待てや」
美少女感知スキルが本当にあって驚いたよ。
私には必須だから迷いなく取った。
後はもう名前からして凄そうなヤツと、残りのポイントで取れる強そうな移動手段と武器。
「他に取るべきスキルあったでしょ!? 武装系スキルを取ったのはいいですけど、戦闘スキルは!?」
「究極性技 真四十八手は戦闘スキルだよ?」
「夜のですよね!?」
「いや、本当に戦闘スキルなんだって」
私がまるで聖剣に導かれるがごとく取得した、究極性技 真四十八手。
それにはこんな説明文が付いていた。
嘗て夜の王と呼ばれた人物が生み出した究極奥義。
その動きは大地を揺るがし、天を狂わす。
四十八手は知ってるし全部マスターしてるけど、これはそんなレベルじゃない気がする。
「こんなの取るなんて……呆れてしまいます」
「いや、私としては美少女感知センサーが本当にあったことのほうが呆れるんだけど」
もう見た瞬間運命だと思ったね、取るしかないでしょこんなの。
私の言葉に頭痛を覚えたのか、ヴィクティムちゃんは軽く眉間を抑えた後に小さく溜息をついた。
「取得しちゃったものは今更変更出来ませんし。転移を開始しますね」
「お願いするよ」
私の周りに不思議な光が現れる。
光が全身を包みかけた時、ヴィクティムちゃんが私の頬に軽いキスをしてくれた。
「素敵なプレゼントだね」
「ただの応援です。すぐに死んじゃったら許しませんからね!」
こうして私はまだ見ぬ美少女を探すために、新たなる世界へ旅立った。