あらたな冬
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。
女王様たちはそれぞれ四つの塔に住んでいました。
四つの塔は巨大な回転装置に設置されていました。
巨大な回転装置はそのほとんどが地下にありましたが、回転装置の頂上は地上に出ていてその頂上に今は冬の塔があるのです。
四つの塔は決められた期間、交替で地上に出現します。
そうすることで、その国にその女王様の季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
巨大な回転装置が回転しないので、冬の女王様が住む冬の塔が地下に入らないのです。
辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
困った王様はお触れを出しました。
「王様はなぜあのようなおふれを発したのだろうか」
と、言ったのは音楽家ユレテルでした。
巻き貝を頭に七つ飾っている陽気なノッポそれが音楽家ユレテルでした。
「そりゃあ、春の女王が来てくれないと畑に雪厚く、作物収穫できず、国のみんなお腹すいて大暴れするからだろよ」
と、言ったのは木こりのドンクンでした。まん丸ふとっちょで斧をといでいます。ドンクンの着ている木こりファッション服は、左の袖だけとても長いのです。長い袖は砥石になっていて、その袖砥石でドンクンは四六時中斧をといでいるのです。ときどき、ペッと唾を斧にかけて斧をといでいます。
「いや、それは違うよドンクン。お腹すいたら大暴れするげんきなどないじゃないか」
「なるほど、音楽家は嘘を歌うだけじゃないんだ。あんなくだらない歌うたって町人々をだましてコインふんだくっているだけじゃないんだ。ふうん。ペッ」
「ありがとうドンクン。音楽家は夢想を売りにする。それって、現実をしっかり認識することで、やっと現れる救いなんだよ。
それより、王様はなぜあのようなおふれを発したのだろうか?だって、春の女王を連れてこいってことだけど、春の女王がいらっしゃる塔は、冬の女王のいらっしゃる塔の次に控えている。
王様のおふれは国中に配られた。で、ここにあるよほら、冬の女王を塔から出して、春の女王を塔に入れよと書いてある。
おかしいじゃないか。冬の女王がいらっしゃる塔と、春の女王がいらっしゃる塔は別の塔なのに、なぜこのような書き方になってるんだろうか」
この国には大きな観覧車のような装置があります。観覧車は地下にありますが、観覧車の頂上だけは地上に出ていて、そこは塔になっています。頂上の塔に住んでいる女王様は今、冬の女王様なので、国の季節は冬なのです。
観覧車には四つの塔がありまして、時期がくれば観覧車回転して、それぞれの塔が順次地上に出ることで季節を公平に分配しているのです。
けれど、今回、時期がきたのに観覧車回転しません。観覧車回転しないので、地上は冬の女王による寒さ続き過ぎて困っているのです。
すると、それまで黙って本を読んでいた読書家マンボットは言いました。
マンボットは痩せていて厚手のマントにくるまっています。今は冬の女王居座る寒い冬なので、マンボットのマントくるまりファッションは変ではありません。しかしマンボットは春夏秋冬ずっと寒がりでマントにくるまって読書ばっかりしているのですから変です。
「筋を書いてる奴がいるのでしょう。王様はお人好し過ぎるので、きっと他国のスパイに騙されてバカになってるんでしょうよ。怪しいのはピエロのダマシッスンでしょうよ。ダマシッスンはあの詐欺国サギラからいらっしゃった他国ピエロ代表だからして、きっと他国スパイなんでしょうよ。この国を冷凍保存するのでしょうよ」
音楽家ユレテルは頭から赤巻き貝を下ろして吹きながら
「冷凍保存するのはなぜ?」
ユレテルの赤巻き貝は不機嫌な音がします。ユレテルは読書家マンボットの謎な言葉にイラっとしたのでしょう。
音楽家ユレテルにとって読書家は他人の作品に溺れる水泳苦手人でした。ユレテルはそのように認識しているのでした。
ですからユレテルにとって読書家マンボットの「冷凍保存」というオリジナル臭い表現がイラっときたのでしょう。
ユレテルの心理など知らぬ存ぜぬな読書家マンボットは厚手のマントにくるまりながら通俗小説を読みながら
「サギラ国は最近、次々と他の国を征服しています。
ばかばっかりな世界なので歌うたっているあいだにだまされて征服されてしまうのでしょう。
征服した国に手下どもを送って統治するのですが、征服されるばか国が多すぎるので、最近では、とりあえず征服した国は冷凍保存してしまうのです。
いつか思い出したときにその国をむさぼり食う魂胆なんでしょうよ。
この国はまだ征服されていませんが、きっと、征服する前に冷凍保存するという画期的アイディアによって冬の塔を回転できないようにした。という僕の推理なんでしょうよ」
なんだか真実のようなマンボットの推理。そのオリジナル臭い推理にユレテルは怒り最高潮。赤巻き貝を大音量で吹き鳴らします。ユレテルは自分と同じ感情に周りを変えてしまいたい症候群なのでした。
たまらず木こりドンクンは斧を袖砥石で激しくといで音を発しました。すると、赤巻き貝の怒り音はたちまち鎮まって、音楽家ユレテルは落ち着いて椅子に座りました。
木こりドンクンは斧を研ぐのをやすんで言いました。
「こら読書家マンボット。おまえの推理は確かに論理的だ。じゃが世の中っちゅうのんは論理で動かせない不条理満載だ。だろ?だろさ。
この国の女王の四塔観覧車はわしら木こりが作った最良物件だ。かすぼけな詐欺国サギラごときが邪魔立てできるようなやわな塔じゃないぞ。ぺっ」
木こりドンクンが言ったのは真実でした。この国には四つの塔があります。
その四つの塔を順序良く回転させる巨大な回転装置があります。
その塔と回転装置を作ったのは木こり達でした。
木を育て伐採して、家や塀、そして城や塔まで建てるのがこの国の木こりでした。
木こりドンクンは続けます。
「読書家マンボットが言うように、あのピエロが怪しい。サギラ国から流れてきたというが、サギラのスパイに違いない。
わが王様はピエロダマッシスンにころっと騙されなされた。確かにダマシッスンはピエロとしての才能豊かでおもしろい。国民すべてころっと騙されてバカになっていやがる。
王様さえ率先してバカになっていやがる。だから王様は我が国の四塔四季の法則を忘れ、トンチンカンなおふれを発しなすったんだ。
こうなったらわれら三人衆そろって城に乗り込んでダマシッスンを成敗しようではないか。ぺっ」
すっくと読書家マンボットは厚手のマントを翻して立ち上がりました。
「待ってくださいドンクンさん。お主はあわてんぼう過ぎて困ります。まず、ここは事の成り行きを整理整頓しようじゃありませんか」
すると、黙っていられないとばかりに音楽家ユレテルは赤巻き貝をちゃっかり頭に戻して、黄巻き貝を頭から選んで黄巻き貝を吹きながら言いました。
黄巻き貝の音は周囲を知的空間に変貌させると推測されています。
「まず、冬の塔に行こうじゃないか。われら三人衆揃って冬の塔に乗り込むんだ。
城に直接乗り込んでしまうと、王様が危険だし、反逆罪に問われる恐れ大だ。
観覧車をまず正常に作動させて、その成果を携えて城に報告に向かうのだ。
観覧車にはサギラ国の工作員が滞在しているに違いない。
冬の塔にいらっしゃる冬の女王様だってサギラ国の工作員にひどいことされているはずだ。
冬の女王様を救い。冬の塔から観覧車に移動してサギラ国工作員をやっつける。
すばらしい。黄巻き貝の音でユレテルすばらしいアイディア」
三人衆は冬の塔に向かいました。
冬の塔には警備の兵が常駐しているはずですが、辺りに誰ひとりいません。
冬の塔へ入るには分厚い扉、ごつい鍵かかった扉を何とかせんといかんかったのですが、なにしろ塔を作った木こりが三人衆にいるのだから心強い。
木こりドンクンは斧の先端で鍵を器用に開けました。
身構えながら冬の塔に入る三人衆ですが、塔のなかは静寂が溢れていました。そして、静寂が凍っているのです。
三人衆は寒さに震えながら螺旋階段を上ります。
木こりドンクンは螺旋階段の果てに立ち止まり
「さあ、冬の女王様の部屋だ。準備はいいか?」
静寂と寒さに震えながら三人衆は重い扉を開きました。
部屋には誰もいません。がらんとした広い空間でした。
「ドンクン。ほんとにここは冬の女王様の部屋なのか?女王様どころか、警備兵や従業員さえいないじゃないか。女王様はやはりサギラ国の工作員どもに拉致されたのだろうか」
木こりドンクンはただ唸るばかりです。
「おや、本だ」
音楽家ユレテルはだだっぴろい部屋の真ん中に落ちている本を発見しました。
なにか手掛かりがあるかとユレテルは本を調べようとすると、マンボットが
「お忘れでしょうよ。私は読書家です。私が読んで聴かせるのが正統でしょうよ」
「ある朝、分厚いマントに身を包んだ男が女王様を訪ねてきた。物腰柔らかく慇懃なさまであったので女王は謁見を許可した。男はマンボットと名乗った。読書家だとのこと。読書家マンボットは女王様に本をプレゼントするという。冬の塔から出られない女王は喜んでプレゼントを受け取った。マンボットは本を読んであげると提案した。女王様は常にたいくつだったので、お茶とお菓子を用意させお話を聴いた。
そのお話は女王様が読書家に本を読んでもらっているうちに本のなかに閉じこめられるというお話だった。
マンボットが本を読み終え、本をボンと閉じた。すると部屋には誰ひとりいなかった。冬の塔の警備兵や従業員らすべてマンボットの話に呼び寄せられて話を聴いたので全員本に閉じこめられたのだった。
さて、この話を聴いている音楽家ユレテルと木こりドンクンもやがて本に吸い込まれて…」
音楽家ユレテルは事態に気づいて慌てて青巻き貝を頭から選んで鳴らそうとしましたが…
木こりドンクンは斧を振りかざしてマンボットに突進しましたが…
ユレテルとマンボットは本に吸い込まれてしまいました。
読書家マンボット
いや、実はサギラ国王サギラその人は自身のマントを開きました。マント下には身体はありませんでした。そこには宇宙空間に並んだ本棚。
サギラはその本棚に冬の女王物語をしまいました。
そしてまた分厚いマントで身を包んで冬の塔をゆっくりと退出します。
「この宇宙にオリジナルなどない。すべてすでに書かれている物語だ。
さて、次は春の塔物語を読むとするか。
そしてやがて、この物語を読んでいる読者様を訪ねて行って、小説家になろう物語を読んで本に閉じこめられた読者物語を聴かせてあげようじゃないか」
サギラが冬の塔を出て歩いていると、ピエロと王様が森から現れました。
ピエロダマシッスンは言いました。
「こら詐欺師サギラ。おいらをサギラ国スパイとか風評被害じゃぼけ。おいら自由なピエロじゃぼけ。おいらなんだってできる才能豊かなピエロダマシッスンじゃぼけ」
サギラ慌ててマント下から本を選んで読んであげようとしましたが
ピエロダマシッスンは異様なスピードで冬の塔物語を宇宙空間本棚から選んで音楽家ユレテルの7つ巻き貝を知るや、すぐに奏法マスターして7つ巻き貝をすべて同時に鳴らしました。
すると大いなる虹立ち現れてサギラは虹に捕まえられて空の遠くに退場しました。
大いなる虹の下
冬の女王様、警備兵、従業員ら、音楽家ユレテルと木こりドンクンすべて帰ってきました。
王様は言いました。
「春夏秋冬すべての女王を塔から開放して自由を与える。自由がどれほどたいせつかこのピエロダマシッスンに教えられたよわっは」
女王様達は自由に国をほっつき歩いたので暑さ寒さごっちゃとなり、国は混乱。しかし、アイスと肉まんが同時に売れたり、服が異様に売れたり、経済活性化したのでした。
ピエロダマシッスンはいち早くこの状況に飽きてまた旅を続けました。




