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謎の魔物

まとまった金額を手にして、俺は何に費やすか考えていた。半分は貯蓄にして生活の糧に回す。

それでもまだ金額的には余る。

それに最近こつこつと貯めてきた金額もあるので、大きな何かに使うのであれば、今がちょうどその時だ。

やはり、無難に現存している武具、防具の更新。それに採集、採掘道具の更新ってとこか。

それが、今後のための投資にもなるか。

俺は自分の商売道具を一瞥した。

鉄の剣は、たくさんの迷宮内の魔物を打倒してきた。

ここ最近はたまに鍛冶屋に研磨に出さないと、中々切れ味が元通りにならないでいた。

鉄の剣と対になる鉄の盾も、表面は傷でいっぱいだ。

魔物の猛攻から俺を守ってくれたこの盾も表面はもう平面ではなく。陥没している部分が多々見受けられる。

かつて前衛でよく盾を使用していたことから、その名残でどうしても魔物の攻撃を避ける選択よりも、盾で受け止めてしまう癖がある。

やれやれ……中々抜けないもんだな。

困ったもんだ。

俺は、過去を懐かしむように思い返してはみるが、やはりどうしても明るくいい思い出として記憶に留めておくことは出来ない。

ちっ。

俺は、首を左右に激しく振り、このもやもやした嫌な気持ちを振り払う。

せっかくまとまった金が入ったんだ、景気づけにぱっと使わんとな。

あまり貯蓄しておいても、使用する使いみちがない。

金周りをよくするために、余計で余分な金は持たないことにしている。

よく貯蓄しないのとかつて冒険を共にしていた仲間に言われたが、俺はすぐに奮発して、装備の更新を行う一択だけだった。

冒険者として迷宮に潜るのなら、第一に無事迷宮から帰ってこなければならない。

だから、装備品に金を惜しんでいる暇はないのだ。

それに難易度の高い迷宮を踏破することで得られる魔物が落とす素材やアイテムで元手は十分得られるからだ。

まぁ、その得た金も次の迷宮のために消費されるのだから同じことなのだが。

今の俺にとっては関係のないことだけど。

かつての自分なら迷うことなく、投資するべきところが明確化していたが、今は違う。

まぁ、それでも使用する武具や道具の更新は、戦闘効率、作業効率に直結するので、選択肢としては、妥当である。

全部更新してしまって、もう一ランクアップくらいして、効率を上げるか。

これからの稼ぎや作業時間すべてに効果が現れるからだ。

善は急げ。

出かけるか。

今日中に揃えてしまって、明日からは気持ちよく仕事を出来るようにするか。

俺はそう言い、外出するために着替え始めた。


「はぁはぁはぁ……」


俺は肩で息をしながら、ようやく借り屋まで戻ってきた。


「随分買い込んだね」


俺の後方から声がして、振り向くとマーサさんがいた。


「マーサさん」


俺はそう言い、荷物を借り屋の入口に置いた。


「どうしたんだい? これ」


マーサさんが、俺が今日買ってきた品物を見て聞いてくる。


「はい、最近いい取引が出来ましてね。それでまとまったお金が入ったんです。それで入手したお金を装備品の更新にあてがったんです」


俺は、説明する。


「なるほど、余程いい取引だったんだね。私も肖りたいもんだ」


そしてマーサさんは、にこっと笑って、この場から去っていった。


「こういうときにしかできないからな」


俺は自分を納得させるかのように言った。

まずは、武器屋に行き、鉄の剣の変えになる新たな力を手にれた。

黒鉄の剣。

前の鉄の剣に比べ、切れ味はかなり鋭くなったはずだ。

刀身は小さくなったが刀身に特殊な加工技術が行われているため、切れ味が上昇している。

まぁ、実際はそこまで要求しないけど、ついつい買ってしまった。

そういうときは、妙に販売する親父が言葉巧みに商品を買わせようとする。

俺はその親父の上手い罠に乗ってしまった。

いつもの俺なら、生活のことを考え、きちんとした反論を行っているが、今日ははぶりがいいので、それも多めに見てしまった。

防具屋も同様だ。

新しい鉱石で作られた鎧が打撃だけでなく、魔法にも効果があるということで買ってしまった。

嘘か真かどうか分からない。

もぐって確かめてみればわかるか。

他の部位もその鎧と同様であったため買わざるを得なかった。

採掘と採集の道具は、特に何事もなく、現状のものよりも2段階程度上のものを購入した。

これで新しい鉱石が掘れるようになっているかもしれない。迷宮内で、以前は掘れていなかったものが、掘れるようになることはある。

それは道具の性能のせいかどうかは定かではないが。

そんなことを考えていると、俺はレミーオ。ロメンタの顔を思い出した。

それは借り屋に帰る途中のことである。

帰り道に俺はギルドに寄ると、そこには嫌な奴がいた。

俺は、どんな内容の依頼があるか探している。

もしかしたら思わぬところに、いい依頼があるかもしれない。

俺はギルドには、比較的行くことにしている。

乏しい情報では、生き残れない。

またここだけの街の情報以外にもたくさんの街や人々が住んでいるし、迷宮もある。そのため外部からの情報が一般公開されているここギルドの存在は大きい。

だから俺は頻繁にここに行くのだ。


「ふむふむ。依頼は討伐依頼が多いな」


討伐依頼とは、読んで字のごとく、対象となっている魔物を規定数以上倒して、その魔物の一部を持ち帰り、検証してもらう。

それで最後に報酬を受けとると言う感じだ。


「ほぉ、腰抜けにもそんな依頼を受ける覚悟があるのか。ふん、一体どういう風の吹き回しだ。ウィル!」


語尾をつよめてレミーオは言った。


「俺だって、このくらいの依頼なんてクリアしたことはあるぞ」


俺は敢えて、冷静に務めて答えた。

レミーオと話して、感情的になることこそ、馬鹿らしい。

レミーオと仲の悪い冒険者は大抵は、レミーオの事を避ける。

会えば必ず何かいってくるので、それにうんざりしているからだ。

正直、大抵の人に嫌われている。


「クリアだと、高々クリアするための規定数だけ倒した程度だろうが。分かっているのか?

この討伐される魔物は、数が増えすぎたから討伐されるんだ。でないとこのまま増えすぎると、自然のバランスや迷宮内のバランスが崩れてしまうからな。そういう意味合いがあって行われているんだ、お前はそれが分かるか?」


レミーオが得意になりながら言った。

くだらん、面倒くさいわ。

規定数が決まっているならそれでいいだろうに。

たくさんの人がやるから、一人だけたくさん狩っても意味は無いぞ。

俺はそう思うがな。


俺はそう思ったが、満足そうに俺に向かって得意げに話したこの男を見て、そう指摘する気も失せた。


「おい!」


レミーオが何かに向かて話し掛けている。


「おい!」


まただ。一体誰にかけている声だと言うのだ。


「お前だ、お前。ウィル」


ついに誰に話しかけているかようやく分かった。

俺かよ……。

嫌な顔でレミーオの方を見る。


「全く何度も呼ばせるな。この俺に。それよりも知ってるか、例の話」


レミーオが声を細めて言ってくる。

例の話?

俺には、レミーオが言っている言葉の意味が分からない。


「お前知らないのか?」


マジかよといった驚いた顔つきでレミーオが嘆いた。

いやいや全然分からねーよ。

俺はそう突っ込みたくなったが。

レミーオに言っても無駄なので、敢えて口を閉じた。


「やれやれ。最近噂になっているだろうに。迷宮内に出る新しい魔物の話だよ」


そんな魔物の話あったかなと俺は思い返してみるが、思い出せない。


「すまんが、分からん」


確かに噂になっているような話は聞いているが、特に自分には関係していないことなので、気に留めてもいなかった。


「ふん、いつも浅い階層で石いじりと草取りしているからこうなる。腰抜けめ」


レミーオが、ため息まじりに俺に罵声を浴びせる。


「知らんもんは知らん。それにそんな魔物にも興味はないしな、俺は。俺は自分の生活を守れればそれでいい」


俺は頑なに言った。

そういうことは、迷宮踏破を主としている戦闘を生業としている冒険者に任せればいいのだ。

俺には関係ない話だ。


「貴様は、本当に腑抜けになってしまったんだな。かつては、少しは名売れの騎士だったお前が、今はこんな体たらくとは、本当に情けない。今回はいい機会だと思って、かつてのお前ならうちに入れてやろうと思っていたが……今のお前の言葉を聞いて、俺はそんな考えをまがりにも思ってしまった自分が本当に愚かしいと思う。もう貴様を誘うことはない。とんだ時間の無駄だった」


レミーオはけっと最後は、俺を睨みつけて、ギルドの入口の扉を力任せに開けて、出ていった。

俺は、そんなレミーオの背中をただ見ていることしか出来なかった。

俺は、かつて一緒に冒険していた仲間たちに裏切られ、迷宮内に一人取り残された。その裏切った中には、心から信頼していた友人と恋人も含まれていた。

俺は3日分、迷宮内を彷徨い、何とか命からがら迷宮から脱出することが出来た。

仲間に理由を問いただしにいったが、もうもぬけの殻で捜索願すら出ていなかった。

訳が分からなかった。

直前までは、いつもと変わらない素振りだったのにいきなりの出来事だった。

それから、俺は人を信用出来なくなった。

必ず裏切るものだと。

俺が彼らと共に歩んできた数年は偽りのものだった。

だから、最終的に一人でこつこつと無理することなく、自分だけのために自給自足の生活をすることだけを考えている。

マーサさんはいい人だ。

少しは信用しかけてきている。しかし、だが心の本質からは信用できていないそんな気がする。

勘のいいマーサさんもおそらく俺のそんなところに気がついているのかもしれない。

だから基本は、表面上の付き合いだけだ。

にしてもまさかレミーオから、誘いを受けるとは予想外だった。

俺は、あいつに嫌われていると思ってたんだが。

顔を合わす度に喧嘩を仕掛けてくるような相手から誘われるとは本当に意外だった。

レミーオの事だから、裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

しかし、あの怒り具合はどうやら本当だったようだ。この後、ギルド内で実際レミーオが前衛の枠を募集している貼紙がしてあった。後味が悪いが仕方がない。それにアイツに必要なのはかつての俺であって今の俺じゃない。


レミーオのことを思いだしながら、俺は明日の準備をした。

明日は、久々の討伐依頼。

最近採集、採掘ばかりを行っていただけに少しばかり緊張感が募る。

始まりの街の近くには、迷宮が2つある。

一つは皆が慣れ親しんでいる冒険を始めたばかりの冒険者が初めていく迷宮。

俺もしょっちゅう厄介になっているが、今日いくところの迷宮はそれとは違う。

この街から少し離れたところにあり、難易度も始めのそれより高い。

どちらかというと初心者ではなく、中級者が行くとちょうどいい難易度の迷宮だ。

俺も行くのは久々だが、今日のついでに受けたギルドの討伐依頼は、こっちの迷宮の魔物だったからだ。

難易度が高い分、報酬が高くなるのは当然である。

この始まりの街が賑わっているのも、初心者が多いだけでもなく、こっちの迷宮での報酬がいいという話を聞いたことがある。

ギルドの支店も始まりの街ということでしっかりしたものがあり、対応がしっかりしているし、街事態の規模も大きい。

このため、この始まりの街に居付く冒険者も少なくないとか。

俺もその一人でもある。

剣と盾、鎧に兜、腕甲、すね当ては更新したので特別問題らしい問題はない。

唯一、問題が残るとしたら、それはレミーオが話していた噂の魔物の存在くらいか。

まぁ、浅い階層には目撃例がないから大丈夫だと思うが。

万が一、遭遇したときは逃げるしかないだろうな。

俺一人でどうなる相手ではないだろうし。

レミーオが、人を集めていただけに、それなりの強さの魔物だろうし。

行く前に、詳しい詳細をギルドで確認してから行くとするか。

この日は、明日の討伐依頼に備えて、早く休むことにした。

買い出しの疲れもあり、俺は寝床に横になるとあっという間に意識がふっと夢の世界へと誘われたのである。


次の日、俺は兜、鎧といった防具を装着し、花に水をあげているマーサさんにあいさつもそのままに、いつもより少し早く、借り屋を出た。

昨日考えた通り、ギルドに寄ってからいくためだ。

徒歩で、まっすぐな長い道を中心通りのほうに向かって歩く。小一時間程度で俺はよく見慣れた建物の前に着いた。

扉を押して、中に入る。

そして、ギルド内での掲示板のところに向かう。

これだな。

まだ真新しい貼紙がしてある。

しかし、分かっているのは巨大な身体の大体の大きさだけで、どんな攻撃手段を持っているのか? おおよその強さや危険度もまだ書かれていない。


「こちらのほうでもまだそのくらいしか把握していないんですよ。そもそも本当にいるのかどうか……」


俺の後方からギルドの女職員が話しかけてきた。

眼鏡をはめた肩口までの短い髪の毛をした如何にも利口そうな顔つきと雰囲気をしている。


「どういうことだ?」


俺は、その職員に話を聞いてみた。


「はい、そもそも発見情報が少ないのと、その発見した人達に聞いても、あまり姿形に一貫性がなくて……」


女性職員は首を傾げながら答えた。

確かに明確な情報でないご情報をギルドが伝えたら問題だなと俺は思う。


「なるほど。だが巷では結構話題に上がっていると聞いている。討伐しようとしている奴もいる話だ」


俺は昨日の意気揚々としたレミーオの顔を思い出す。


「噂が先に一人歩きしている感じですね。事故に繋がらなきゃいいんですが……あぁ、すみません。なんか話し込んでしまって」


女性職員が慌てた表情で俺に謝ってきた。


「気にするな。俺もいい話が聞けた。何も事故がなければいいな」


俺の言葉にこくりとうなずき女性職員は去っていった。

どうにも情報が少ないな。

まぁ、大まかなことはわかったからいいか。

俺はそう思い、ギルドを後にし、迷宮へと向かった。

初心者のほうの迷宮は出てすぐのところにあるが、こっちのほうは歩いて、十五分程度の砂丘の中にある。

普段は、歩いて向かう途中に数人とすれ違う程度だが、今日は頻繁に人と遭遇する。

しかも、始まりの街にそぐわない装備品をした冒険者が多い。

なるほど、皆がその大物狙いか。

噂の魔物を求めて、これだけの冒険者たちが集まってきているいうことか。

俺はそんな大層な装備をした冒険者達の横をすり抜け、迷宮へと向かう。

途中見知った顔を何人か見かけるが、兜を被っているので、俺は相手が分かるが、相手は俺だと分かっていない。ここで面倒くさいあいつに遭遇しなければいいが。


「いちおう8人揃ったからいくぞ! 俺達が噂の魔物を倒すんだ。よし、俺に続け!」


すると、会いたくない男のレミーオが目の前でちょうど迷宮に入るところを見かける。

そこそこ頭数は揃えたな。

するとレミーオ以外で見たことがある姿がそこにはあった。

槍術士のニコルと魔術師のマハル。

その二人の姿が、レミーオと共に迷宮内に入っていったのが見えた。

他人の空似ということもありえるが、間違いはない。

あの業火のような赤い髪と深海のような深い青い髪を俺が間違えるはずはないからだ。




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