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うっかりが異能力に目覚めた日②

「え? 異能者?」


「はい。私は半年前に目覚めまして、今年から異能者通学可能高校に通う事になってますわ」


「そ、そうですか」


僕は人生で初めてリムジンなんていう富豪の象徴である車に乗る事になったんだけど、目の前、迎え合わせの席には美登里さんが乗っている。


僕の隣には天使な妹の銀ちゃんが座っているんだけど、乗る前から上がっていたテンションがピークを過ぎたのか、今は僕の膝の上で寝てるよ。


うん、寝顔も可愛いね!


そんな車内なんだけど、最初は銀ちゃんを中心に会話していたものの、今では僕たちだけで話す、要はお互いの事を話し合ってたんだけど、美登里さんの発言に驚いた。


十数年前に登場した超常なる能力を持った異能力者、政府は異能者としている存在だと告白されたからだ。


これだけの美少女なんだから異能を持っていてもおかしくはないよね、と頭空っぽな感想が出れば良かったんだけど、流石にそこまで馬鹿じゃなかった僕は完全に引いていた。


その僕の態度から察したのか美登里さんは悲しそうな笑みを浮かべて窓の外に視線を移した。


すっごく気まずい雰囲気が流れ、やっちまった感が半端ないです。


これが所謂うっかりってやつなんだろうか?


僕には親父の血が半分流れているんだし、可能性はあるかなぁ、と頭を抱えて悩んだよ。


まあ、そんな僕を窓ガラス越しに見て美登里さんも解らない程度にため息をついて、またこちらに視線を向けてくれた。


「異能者と聞いて良い印象は受けませんわね。ごめんなさい、瑛士さん。聞かせる必要がない事でしたわ」


「あ、いえ、僕の方こそすみません。正直異能者に付いてほとんど知らないから。凄い事が出来るって程度で、マンガやアニメの登場人物みたいなものとしか思ってなかったんです」


「そうですね。十年ぐらい前までは良く情報が流れていましたが、今は日常の中の一つとなりましたから。久しぶりに話題に上がったのも二年前かしら」


「あー、たしか異能者が通う高校を限定する法律が出た時ですね」


「はい。今回の異能特別法も随分早く実施されましたね。立案、国会承認、広布、施行まで一年も掛かってませんから。去年から第一期生が登場して今のところは問題ないとされてますね」


そう、今から二年前に突然話題に上がったのが異能者が通える学校を限定するという法律だ。


これは今まで海外渡航制限以外の制限のなかった異能者に対して政府が実施した新しい政策だった。


しかしこの法律によって指定された高校と言うのが曲者で、各都道府県に一つずつあれば良かったんだけど、関東圏に一校と言う風に地域に一校しか指定されなかった。


確かに異能者の数が増えて日常化してきたと言ってもまだまだ人口全体で言えば僅かなものだし、仕方ないと思う。


更に曲者なのが全て私立高校であり、経営者が各地域の有力者だという所だ。


これって明らかに将来その経営者に関係する何かに引き込まれちゃうんだろうなぁ、というのが想像出来ちゃうんだよね。


当時、その辺りをマスコミが騒ぎ立てていたけど、すぐに騒がなくなったのもおそらく色々な所から圧力が掛かったから、なんて事がネットで騒がれている。


あ、僕は若干ネットを弄る程度のライトユーザーだけど、そういった記事は未だに出てくるよ。


「じゃあ、美登里さんも実家から離れた学校に通うのですね」


「それが幸いな事に家からそれほど離れていない学校が指定されまして、自宅通学が可能なのですわ」


「それは凄い偶然だなぁ。でも良かったですね」


「はい」


その時は素直にそう思ったし、全く思ってもみなかった。


その学校が御津国家が経営する学校の一つだなんて。


などと話をしていたら、スマホが震えたので確認してみたら、親父からのラインだった。


えっと、何々。


『そっちはどうだ? 公人は後二時間で到着すると連絡があった』


ああ、えっと、親父と母さんはそのまま温泉宿に留まって、美登里さんのお父さんである公人さんを待っているんだよね。


だからテーマパークには僕と銀ちゃん、そして美登里さんだけで行く事になったんだ。


ちゃんと運転手さんを始めとした美登里さんのお付きの人ぽい大人が付いてるけどね。


「あ、小父さんが後二時間で到着するって連絡あったそうですよ」


「そうなのですね? もう、お父様ったら娘の私には連絡をくれないのだから」


「あはは。じゃあ、その辺を父さんから言ってもらうようにラインしておきますね」


「うふふ、お願いします」


『こっちは銀ちゃんが寝ちゃってるけど大丈夫だよ。美登里さんから伝言で小父さんに連絡ぐらい欲しいって』


『伝言は了解。よし、二人っきりだったら行くしかないぞ、瑛士。ファイト!』


何がファイトだよ、あのうっかり親父。


「どうかされました?」


「い、いえ! 何でもありません!」


「そうですか」


僕がスマホの画面を見て顔を顰めていたから美登里さんが顔を寄せて来て覗こうとしたので慌ててラインを閉じました。


見惚れるほどの美少女顔が近寄って来たし、覗かれると恥ずかしい内容だから余計に慌てたよ。


ふぅ、心臓に悪い。


ちなみにそんな僕たちのやり取りをバックミラー越しに見ていた美登里さんのお付きの人は、ニヤニヤしてました。


大人ってこんな人ばっかりなのか!?




「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


「何だい、銀ちゃん?」


「すごい、すごいよ!」


「そうだね、凄いね」


「うん!」


「うふふ」


正直ここのテーマパークの事は舐めてました。


関東にあるネズミ王国や関西にあるユニバーサルな所と比べて落ちるレベルで大した事がない、と思ってました。


はい、大変申し訳ありませんでした。


すっげえ面白い!


詳しい説明は出来ないけど、まず外国にでも来たかのような街並み。


そう、ここはもう完全に一つの街なんだよ。


テーマパークなんだからそれにちなんだ売店やアトラクション施設なんかがあるんだけど、建物がヨーロッパなんだ。


・・・説明下手で申し訳ない。


語彙が少ない僕ではこれが限界だけど、まるでヨーロッパに旅行にでも来たみたいな雰囲気を味わえる街、それがこのテーマパークです。


僕と銀ちゃんはまずその光景にやられて完全に掴まれました。


そしてその後は何度も訪れた事があるという美登里さんのお薦めのエリアに行く事になり、その移動中も街を散策している気分になってもうテンション上がりまくりです。


あまりにも銀ちゃんがはしゃぐので疲れて寝てしまうんじゃないかと心配になったけど、そこはこのテーマパークの凄いところ。


何と敷地内でバスが走っており、それに乗って移動できてしまうのだ!


更に言えば敷地内に川が流れており、クルーザーで水上を移動できたりもする。


もっと言えばレンタルサイクルなんかもあり、広大な敷地内を移動するのが徒歩ばかりの他のテーマパークと違ってそういう所も考えられてます。


そういうのがまた海外旅行に来た雰囲気を味わえて、ただ移動するだけでも楽しいです。


だから銀ちゃんなんてバスに乗ってもきゃっきゃ騒いで、結局疲れる事になりそうな気配なんだよね。


元々言葉少な目の会話が多い銀ちゃんだけど、ここに着いてからお兄ちゃん、お姉ちゃん、凄い、の三言しか言ってない気がする。


うん、シンプルなのは良いね。


難しい言葉を並べたって上手く伝わらないんだから、凄い、の一言で十分だ。


気になるなら直接見聞きすればよいしね。


「はい、到着ですわ」


「へえ、何ですか、ここは?」


「驚きますよ?」


「何でしょう・・・うわっ、すごっ!?」


「すごーい!」


はい、そんな感じで凄い連発の楽しいテーマパークです。


幾つか美登里さんお薦めのエリアを回ってみましたが、これはファミリー向け鉄板のルートらしく周りに家族連れが多かったのも頷けました。


ただ回る順番は美登里さんお薦めの順番らしく、テーマパークが推奨するものとは若干違うんですよ、と可愛く言われて美人って何をしても似合うんだな、とか馬鹿な感想が出ちゃいました。


多分他のお客さんから見ると仲の良い兄妹たちが遊んでいるように見える僕たちですが、この時は本当に家族の様に思ってました。


まあ、そんな訳ないんですけどね。




「おや、美登里お嬢さんではありませんか?」


「ごきげんよう、野面那様。お久しぶりですね」


「ええ、年末のパーティー以来ですから高々数ヶ月ぶりですが」


「そうですわね」


「そう言えば公人さんはいらっしゃらないのですか?」


「父は別行動ですわ」


「おお、そうですか、それは残念ですね」


銀ちゃんのお腹空いた発言でレストランに入ったのですが、食事をしてゆっくりしているとテーマパークに不釣り合いなびしっとしたスーツ姿のおじさんが近づいてきました。


おじさん、と言うと失礼になりそうだけど、どこぞのやり手若手社長、ただし四十代、みたいな人です。


銀ちゃんは食事後のパフェを美味しそうに食べる事に忙しく、僕はそんな銀ちゃんを甲斐甲斐しく世話をし、美登里さんはそんな僕たちを微笑ましく見てました。


そこで登場したのがこのおじさんで、美登里さんお付きの女性がお嬢様と呟いた後視線を向けたのでそちらを見るとその人が近寄ってきていた、と言う状況です。


美登里さんに視線を戻すと少し眉を寄せたので、たぶんあまり会いたくない人なんだろうな、と思いつつも僕に出来る事はないし気付かないふりをして銀ちゃんのお世話を続けました。


「ところでこちらの方は?」


関係ありませんオーラを出してるんだから無視してくれれば良いのにこっちに話題を向けないで欲しかったです。


美登里さんはシンプルながらもどこかの高級ブランド品と思える衣服だけど、僕のはファストファッションな安物ですからね、不釣り合いな小僧です。


良いじゃないか安くとも。


ここは世界品質なんて言われてるらしいブランドなんだぞ。


と、自己弁護しつつ僕はどう答えて良いか解らないので黙ってました。


「こちらは八部瑛士さんと銀さんですわ。父の友人の御子息子女ですのよ」


「ほう、そうでしたか」


うん、僕の頭越しに会話してるから表情は見えないけど、見下す感じで見下ろしてるんだろうな、と解る声でした。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


「あー、はいはい。んー」


「んー!」


「はい、綺麗になったよ」


「ありがとう、お兄ちゃん」


僕は銀ちゃんのお世話という使命があるので、どうぞお二人だけでお話し合ってくださいね。


決して僕たち兄妹を巻き込まないでください。


「ああ、そうでした。私の息子が一緒に来てましてね、まだ美登里お嬢様に紹介してませんでしたし、丁度良い機会ですな」


「そう、ですか。その方はどちらに?」


「今呼びますので。雅威人こっちに来い、紹介したい人が居る」


「何だ、親父? こんな所に着てるような奴と会う必要があるのかよ」


などと悪態を吐きながら現れたのはワイルド系イケメンぽい高校生ぐらいの青年。


言葉使いと内容が気になったのでちらっとそちらを見てみた感想がそれでした。


正直関わり合いになりたくない人種です。


「ったく、何で俺がこんな場所に、ってすっげぇ可愛い子じゃん! もしかしてこの子を紹介したいのか?」


「馬鹿もの! この方は御津国家のお嬢様だぞ! そんな口を聞いて良い方じゃない」


「へぇ、美少女なお嬢様か、いいじゃん」


「おい!」


うわぁ、セリフだけ聞いてたら完全DQNですよ、この人。


もしくはチャラ男。


そのチャラ男はテーブルを回って美登里さんの方に近づこうとして、お付きの女性に道を防がれて舌打ちして止まりました。


完全にDQNです、ありがとうございました。


「ちっ、邪魔なおばさんだな。俺はそのお嬢様に用事があるんだよ、どいてくんね?」


「適切な距離を保てない方を近寄らせる訳には参りません」


「へぇ、俺にそんな口を聞くんだ?」


「いい加減にしないか、雅威人!」


「ちっ、仕方ねぇなぁ」


流石プロですね、お姉さん。


おばさん呼ばわりされても表情を変えず、美登里さんを守る任務に忠実です。


チャラDQNはおばさんと言いましたが、お付きの女性は一般的には美人なお姉さん扱いされる人ですよ。


目が曇ってるんじゃないかなぁ、などと思いながら目は決して合わせ無いようにしてました。


この手の危ない人は目が合っただけで絡んできますからね。


「美登里お嬢さん、申し訳ない。家の息子が粗相をしまして」


「私は被害がありませんでしたからよろしいのですが、お店に迷惑が掛かりそうですわね」


「そ、そうですね。それでは私たちはこれで。おい、雅威人行くぞ」


「何だよ、紹介してくれるんじゃないのかよ。まあいいや。美登里とか言ったよな、アドレス教えろよ」


「雅威人、いい加減にしろ!」


「ちっ、本当にうざいな。今度会った時に教えてもらうからな」


嵐のような人たちが、唐突に表れて唐突に消えました。


何だったんでしょうね?


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


「何だい、銀ちゃん?」


「お手洗い行ってくる!」


「気を付けてね」


「うん!」


そしてそんな嵐も銀ちゃんにはどこ吹く風だったようですね。


マイペース銀ちゃんも可愛いよ。


「その、瑛士さん、ごめんなさい」


「えっと、色々大変なんですね、お金持ちって」


「お金持ちですか? 確かに実家はそうですけど・・・」


「ああ、そういう意味じゃなくてですね。こう一般市民というかお嬢様とかご子息様とか普段言われないような者からしたらって意味で」


「まあ、それは住む世界が違うと言いたいのですか? 私、悲しいです」


「ええっ!? いや、そんなつもりは」


「ふふ、ごめんなさい。意地悪しちゃいました」


「ひ、酷いなぁ、美登里さん」


こんなやり取りで不機嫌そうだった美登里さんが笑顔になるんなら、僕が道化になるのも悪くないかな?


ただ、お付きのお姉さんがニマニマした笑顔って言うのはちょっと頂けないけどさ。


なお、銀ちゃんが帰ってきたら美登里さんがもっと笑顔になりましたので、銀ちゃんマジ天使、と僕は再認識しました。




食事休憩中は変な人が絡んできたというハプニングはあったものの、その後はがらりと気分を変えて楽しめた。


このテーマパークが凄いと言うのもあるけど、気分転換がし易いアトラクション系を選んでくれた美登里さんのエスコートも凄いよね。


勿論天真爛漫な可愛い天使の銀ちゃんが居るんだから僕は何時だって気分は上々で楽しくなれるんだけどね。


美登里さんもお付きのお姉さんもそんな僕たちを見てにこやかにしてるし、相乗効果があったんだろうね。


やっぱり笑顔でいる方が良いってものです。


さて、現在僕たちが参加しているアトラクションなんだけど、所謂AR技術を駆使したもので大人から子供まで楽しめるものです。


これだけじゃ解り難いでしょうからもう少し説明すると、目の前に怪物が出てくるから魔法を使って倒しちゃう、と言うのを体験できちゃうアトラクションだ。


「えーい、えーい、えーい!」


僕の横で銀ちゃんが可愛い掛け声と共に一生懸命手を振って火の玉を投げ付けてるけど、これはMC技術が連動してるから出来る事なんだって。


一生懸命手を振る銀ちゃんはマジ天使なんだけど、AR用のゴーグルで可愛い顔が隠れちゃうのが残念だよ、本当に。


「えーい、えーい、やったー! 倒したよ、お兄ちゃん!」


「凄いね、銀ちゃん」


「うん!」


なお、美登里さんはこの手のものが不得意らしく、腕を振って火の玉を投げ付けてますが一つも当たりませんでした。


武士の情け、もしくは、紳士の嗜みで見なかった事にしておきます。


なのでちょっと別の話題を振っておきました。


美登里さんは解説好きと言うか世話好きなのか、こちらが不思議そうにしていると色々教えてくれます。


ちょっと拗ねて機嫌が悪そうに見えたので、得意分野へと誘導です。


「それにしてもここは本当に凄いですね。国外旅行を体験したと思ったら最新技術があったりとか一日で遊び尽せませんよ」


「そうですわね。ここも昔はヨーロッパの街並みを体験できるだけのテーマパークだったのですが、近年こういった最新技術を取り込んで色々な楽しみ方が出来る場所になりました」


「そうなんですか? 最初っからかと思ってました」


「作られた当初はそういう体験型のテーマパークが全国に作られたそうですよ。現在でもいくつか残っていますが厳しいようですね」


「まあ、そういうのって一度でも行けば十分ですからね」


「ええ。ですからここも一時期は経営不振で閉鎖の危機だったそうですわ。でも、起死回生とでも申しますか思い切った改革で現在の様になりましたの」


「思い切りが良過ぎないですか? 街並みとこういうのは掛け離れすぎだと思うんですけど」


「最初はここのテーマである海外旅行体験の部分を拡張する、例えば仮面舞踏会をイベントしたり、夜間イルミネーションライトアップで幻想的な雰囲気を出したりですね」


「そうしてお客さんが増えたところで更に客層を増やす努力をしたんですか・・・凄いなぁ」


「瑛士さん、よくこの話に付いてこれますね。ちょっと話の持って行き方を間違ったのでは、と思ったのですけど」


「あー、父親の影響ですよ」


「将士小父様はコンサルタントをなさっているのでしたわね」


「しゃべるのが好きだからやってるそうですよ? それで子供にでも解るように話せる内容とやらを考えるのに付き合わされるので。堪ったものじゃないですよ、僕としては」


「うふふふ」


親父は嘗てはやり手だったらしいけど、ちょっとやり過ぎて会社で疎まれたから今では半ば追い出された感がある外部委託になったらしいね。


何事もほどほどが良いって事だよ。


自分の子供だからって何時間も話に付き合わせるとか以ての外だ。


ちなみに母さんはその手の話が大嫌いで相手にしてくれないから僕がターゲットになった、と言うのが始まりだけどね。


「それにしても良くそんな裏話的な事を知ってましたね」


「テレビでも取り上げられましたし、それと改革に乗り出した方が私の伯父なんです」


あー、そう言う事ですか。


うん、本当に凄い家系のお嬢様なんですね、美登里さんは。


よくそんな家柄の人と知人になれたな、親父は。


さて、そんな会話を二人で続けている訳ですが、銀ちゃんが先ほどからアトラクションに夢中で僕の相手をしてくれないからです。


勿論僕の意識の大半は銀ちゃんに向いてますが、可愛い可愛い天使である銀ちゃんの事となると僕は無意識で他人との会話が出来たりしますから大丈夫です。


多分、とっても失礼な行為だと思いますけど、美登里さんはそんな僕でも笑って許してくれる度量の大きなお嬢様でした。


許してくれてますよね?




その後も幾つかアトラクションを回り、次のエリアに行こうと言う話になったのですが、銀ちゃんがお花摘みに行きたいと願い出たので一端ストップです。


建物の中だったら良かったのですが現在野外に居る為、迷子になってはいけないからと美登里さんとお付きのお姉さんが付き添ってくれてます。


何時もだったら僕が付き添うんだけど、銀ちゃんの御指名だったからね、ここはぐっと堪えたよ。


「ぬぅ、嫉妬で変になりそうだ」


全然堪えきれてないです、はい。


何とか落ち着こうとパラソルの下で座って待っていたら、悶々としている僕に誰かが近づいてきた。


「おい、お前たしか美登里と一緒にいたガキだよな?」


声に振り向いてみたら、あのチャラDQNでした。


凄く面倒な目に遭いそうな気配がびんびんしております。


本当は相手にしたくないですが、無視したら確実に酷い目に遭いそうですからここは一応反応しておきましょう。


「そうですが、何か?」


って、そんな反応の仕方だと相手の神経逆撫でるよ、僕の馬鹿!


案の状、それでなくとも機嫌が悪そうな雰囲気を醸し出していたチャラDQNの不機嫌オーラが増しました。


「ああん? お前、誰にそんな口聞いてるんだ?」


いや、ほんとどこのヤンキーさんですか。


そういう方たちは絶滅したんじゃないですか?


それともそう思わせているだけでまだまだ世の中で隆盛を誇っているのですか?


などと僕はいい感じに混乱してました。


「おい、無視するんじゃねーよ」


「誰ってあなたにですが。僕たち自己紹介もしてませんよね? だからあなたが何者かなんて」


「僕ってキモイこといってんじゃねーよ」


いえいえ、一人称僕の人は世の中で結構な割合で居ると思いますよ、特に未成年だと。


「まあいいや」


いいなら言わなくっても良かったんじゃ?


「おい、お前。美登里のアドレス教えろ」


「住所じゃなくてメアドやラインって事ですよね?」


「当たり前だろうが、お前舐めてんのか?」


舐めてはないですが、一応確認しておかないと間違ってたら面倒な事になるじゃないですか。


「そうですか。でも僕は知りませんのでお教えできません」


「ちっ、使えねぇ。何でお前みたいなガキが美登里と一緒にいるんだよ? 頭湧いてじゃねーか?」


いやいやいや、何でそこまで言われちゃうんでしょうか、僕は。


知らなかったらと頭がおかしい発言は、逆に自分がおかしいと言ってるようなものだと思いますよ。


後、凄く気になってるんですけど、何でこのチャラDQNは美登里さんを呼び捨てにしてるんでしょうね?


少なくとも自己紹介もされてないし、父親からも紹介されてないよね?


うん、このチャラDQNがおかしい、そう言う事だね。


「そうですか。そんな使えない僕の相手をしていたら時間の無駄じゃないですか? 違う場所に行かれては?」


「ああん? お前やっぱり俺様を舐めてるだろ? それにどっか行くならお前だよ、ガキ!」


うわぁ、俺様とか言いましたよ、この人。


痛い、痛すぎるよ!


「申し訳ないですけど、ここで妹と待ち合わせ中なんです。ですから移動は出来ませんね」


「やっぱお前舐めてるんだな。俺様にそんな口聞いた事後悔してももう遅せえぞ」


あれ?


気が付いたら僕はこのチャラDQNに喧嘩を売る羽目になってますね。


何だからごきごきと指を鳴らしながらどんどん近寄って来てますが、僕は今まで喧嘩なんてしたことが無いですからやばいです。


怪我なんてしたら銀ちゃんが泣いちゃいそうだなぁ、と僕は苦笑しながらチャラDQNが振り上げる拳を見てました。


バシン。


そんな音が辺りに響き、風が僕の顔を押し、目の前には拳が。


「なっ!?」


音と風から行くと間違いなく僕が一撃でやられちゃう、いや、大怪我を負う事確定の拳だったんだけど目の前で停止してます。


その停止した原因は、とても細い、荒事なんて無縁そうな腕に掴まれてチャラDQNの拳が止まってた。


そしてその腕の持ち主は。


「へぇ、そうかそうか。美登里も異能者だったのか」


「あなたが異能者だと言う事は知っていましたわ。そしてどう言う人かも」


不敵な笑みを浮かべる美登里さんでした。


僕はこの時初めて超常なる能力を持つ者、異能力者たちのバトルを目にしたのです。

お読みくださってありがとうございました。

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