時代劇高校とはこういうところだ!
「和モノ×テンプレ企画」というものを見つけて思いついたネタです。
書いたのはこの話だけですが、一応ラノベ一冊分ぐらいのネタはあるので完結は出来るはず、です!
宜しければどうぞ。
「おい、うっかりは居るかうっかりは!」
僕の所属するクラスに響き渡る神経質そうなちょっと高い少年の声。
名を金野祐次と言い、1年生から生徒会長を2年連続で選ばれている凄いやつだったりする。
その金野は眼鏡の似合う美青年、所謂メガネ男子なのだが、声だけはやや幼いがゆえに彼は少年生徒会長などと呼ばれていたりする、もしくは眼鏡会長。
その彼が教室に飛び込んできて、急いでいたのだろう汗だくになりながら叫んだのが先ほどのセリフだ。
「誰がうっかりだよ、僕の名前は八部だよ!」
「おお、そこに居たのか我が友うっかりよ!」
「だからちげーよ!」
そしてうっかり呼ばわりされたのが僕、八部瑛士十六歳だ。
「急いでいるから走りながら要件を伝えるが」
「生徒会長様が廊下を走るなよ。絶対に次の選挙で落ちるぞ?」
「僕が選挙で負ける? それはあり得ないね。私がこの眼鏡を掛けている限り、敗北はあり得ない。我が眼鏡は日本一ぃぃぃいいいい!」
「どれだけ凄いんだよ、その眼鏡。って言うか、眼鏡が凄いんじゃなくて生徒会長だろうが、凄いのは」
「それはそれとして今回も頼むよ。場所は食堂だ」
「えー、またかよ。誰が暴れてるんだ?」
「うむ。今日は三年の御津国美登里先輩と一年の和歌木真治君だ」
「うわぁ、そいつは最悪な組み合わせだ」
「だろう?」
この会話で解ると思うのだが、現在僕は金野生徒会長と共に食堂へ向けて激走している。
激走と言うとアニメなんかだったらエフェクトに煙とかが出そうな表現だが、実際に僕たちは激走していたりする。
多分タイムを計ったら世界新記録を叩き出すその走りなんだけど、とある事情があって僕たちは公式記録としては認められていなかったりする。
何故かと言うのは今差し迫った事態に関係ないので割愛するが、先ほど名前が出た二人が暴れているとなると大事件になってしまうのだ。
厳密に言えば美登里先輩は暴れたりはしないけどね。
それこそ保健室では足りないぐらいの怪我人が続出して下手をすると警察沙汰、いや、まあ、この学校に限っては警察が介入してくる事はないんだけど。
ほらまた妙な事を言ってしまったが、とある事情によりこの学校は警察が不介入、否、警察では役立たずなのである。
もはや自衛隊が出動するレベルなのだが、自衛隊が緊急出動するには警察では対処不可能な国家的危機や自然災害に対して知事や総理大臣から要請があった場合に限られるのでやってこない。
いや、実際にはちょっと違うのだが、今までこの学校で起きた事件で自衛隊が出動した事はなく、全て学校内で処理されているんだよな。
まあ、壊れた備品や施設の修理に業者がやってきて処理はしてくれるから、全部を処理してるわけではないけど。
じゃあその理由ってやつなんだが。
「さあ、我が友うっかり。出番だぞ!」
「だから、僕はうっかりじゃない!」
「おーほほほほほほ! まさかこの私、御津国美登里に盾突く方がまだいらっしゃるなんて驚きですわ!」
「はん、ここはあんたのお城じゃないんだぜ、先輩? 俺がどうしようがあんたには関係ないだろうが!」
「まあ、何と汚い言葉使いなのかしら。育ちが知れましてよ?」
「ああ~ん?」
「む、やばいぞ。今にもやるつもりだ」
「むー。僕は美登里先輩と相性が悪いんだよね」
「いや、だがうっかりしか治められないからな、ここは任せたぞ!」
「だから僕はうっかりじゃない!」
食堂に辿り着いた僕たちは、中央で睨み合う二人を見つけ、衝突寸前のその気配を感じ取っていた。
アニメだったら二人が発するオーラが弾け合い、火花を散らしているエフェクトが見えるだろう光景だ。
いや、僕たちには見える!
二人が発するオーラを!
「さあ、皆さん、《やってしまいなさい》」
「「「「「「「「「「「「「「「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」」」」」」」」」」」」」」」」
「ひとつ、ここは学校施設。
ふたつ、俺は誰にも従わない。
みっつ、誰が言ったか最古の英雄、天下無敵とは、俺の事だ!
《今こそ鬼面を外す時》」
「ぎゃー、始めやがった!?」
「まだ俺食い終わってないのに!?」
「先日の怪我が治りきってないのにー!?」
「「「「「「「「「「「「「「「「た、助けて~!?」」」」」」」」」」」」」」」」
阿鼻叫喚、まさにそういう状況に突入した食堂は、テーブルが砕け椅子が飛び、人がマンガのように空を舞う戦場へと化した。
そう、この学校、私立時峰台夏期高校、通称時代劇高校では異能力者たちがバトルする迷惑な学校なのだ。
「もう無理だ。やってくれ、うっかり」
「だからうっかりじゃ、って、仕方がないな」
そんな異能力バトル高校に入学している僕なのだが、一応異能力を持っている。
僕に先ほどからうっかり呼ばわりしてくる少年生徒会長様も勿論異能力者だ。
彼の異能力は選挙などの何かを選ばなくてはならない時に最も異能が活かされる能力で、その力を使って生徒会長をやり続けている。
その能力を使う為には選択する者よりも一段以上高い位置にいる必要があるんだが、必ず彼が望む正解を引き出すというやり方によってはチート過ぎる能力だ。
なので彼は選挙権さえ得てしまえば国会議員に、そして最年少総理大臣の誕生、憲法改正が思いのまま、という将来が約束されていたりする、このままいけば。
ちなみに能力名は《大岡裁き》だ。
そして現在バトルを繰り広げている御津国美登里先輩の場合は、自分を慕って集まった人を週に一度だけ一騎当千の兵に変えるという監督向きの能力だ。
僕はちょっとした縁もあって美登里先輩と呼んでいるが、プロポーションも抜群で男性だけではなく女性からも人気があるので集まる人の数が半端ない。
今も食堂に居る半数以上が美登里先輩の能力によってプロ格闘家も裸足で逃げ出す狂戦士になっていたりする。
叫び声なんて人語じゃないし。
その美登里先輩の能力名は《やってしまいなさい》。
もう一人の異能力者である和歌木真治君は僕の一つ下の学年で、今年入学してきて入学式からやらかした暴れん坊だったりする。
彼の能力は自分の信念に反する事を強要され、誰か一人でも賛同者が居た場合、週に一度だけ一騎当千の能力を得るというもの。
美登里先輩の他者を強化するのとは違って自分を強化する点では優れているかも知れないが、制約も多し一騎当千になれるのは一人だけというのが何ともボッチな感じがして嫌だ。
そんな彼に僕は懐かれてしまっているのだが、何故だろう?
なお、彼の能力名は《今こそ鬼面を外す時》。
「おい、うっかり。良いから早くやれよ」
「そうだぜ、うっかり。何時もの様に乗ってやるからよ」
「そうよ、うっかりくん。何時もの様に、ね?」
「頑張って、うっかり先輩!」
「だから僕の名前は八部だ! うっかりじゃねええええええ!」
「くそ、やってやる!
えーい、静まれ、静まれ!
これが見えないか!」
「「「「「「「「「「「「「「「「そ、それは食堂限定カツサンド!」」」」」」」」」」」」」」」」
「そう、これは僕が昼に食べようとしていた、ごほん。
頭が高い、控えおろう!」
「「「「「「「「「「「「「「「「は、ははぁ~」」」」」」」」」」」」」」」」
食堂中の生徒たち、さらには食堂のおばちゃんたちまで一斉に僕に平伏した。
僕の異能力は誰かから依頼を受け、依頼者が後ろに居る状況で混乱した群衆を鎮静化し平伏させるというだけの能力。
能力名は《葵の御紋》で、右手に持つ物を見せながら決まったセリフを言う事で発動する異能だ。
「あら、瑛士くん。来るのが遅いのではなくって? 私に跪いて犬の様にはぁはぁしながら従うのがあなたの運命なのよ」
一見凄い能力に見える僕の異能にも弱点があって、僕以上の異能力者には効果がなく、この学校には数名存在している事だ。
僕に対して下僕化宣言する美登里先輩もその一人で、|異能を授けてくれる精霊の存在が僕よりも上位に位置している為、全く無効どころか僕に対して強制力を持っているという関係だったりする。
ただし他に人目がある場合は、その効果も薄いから今は跪いたりしないけど。
もうお分かり頂けたと思うが、この私立時峰台夏期高校、通称時代劇高校は異能者が多すぎるのだ。
「いやぁ、今日も助かったよ、うっかり」
「だから僕はうっかりじゃない」
「瑛士先輩。どうぞ、ネ●ターです」
「だから頼んでないって真治君。と言うかカツサンドに●クターは合わないんじゃないかな?」
「あら、瑛士くん。ネク●ーの甘みはカツサンドのソースの酸味を抑えてまろやかになるという組み合わせを知らないのですか? 情弱ですわね」
「本当ですか、美登里先輩? って、何でお嬢様な美登里先輩がネットスラングを御存じなんですか?」
阿鼻叫喚の大乱闘によって被害が出始めた食堂だったが、僕の異能によって沈静化し、特に怪我を負った人もいなかったので今は何事もなかったように昼休みが謳歌されている。
そして僕は美登里先輩に捕まって一緒の席に着いたのだが、当然のようにさり気なく少年生徒会長様が僕の横に座り、まるで執事の様に真治君が僕に仕えてしまった。
何故か真治君は僕にネ●ターを勧めてくるんだが、不●家の関係者だったりするんだろうか?
ちょっと気になるところだけど、割とどうでも良いから今まで一度も聞いた事が無い。
「ところで和歌木真治君、そろそろ●二家の株を当家に売る気にはならないのかしら」
「だからあの株は俺の親父が遺産として残した物だと言ったるだろう。幾ら学校の先輩だからと言う事を聞くと思うなよ」
ああ、どうやら関係者だったようだ、不二●の。
まあ、疲れた時とか甘くて美味しいよな、ネ●ター。
「それで、今日はどのような理由で揉めていたのだ?」
「あら、生徒会長ともあろう方が知らないと?」
「なんだ、この眼鏡。やるのか?」
「いやいやいや、何でそう揉めようとしちゃうんだよ。もっとフレンドリーにいこう、フレンドリーに」
「何を言ってるんだ、我が友うっかり。ちゃんと対等な立場で話しているだろう。フレンドリーの定義に沿って」
フレンドリーにそんな定義はなかったと思うよ、少年生徒会長様。
「対等な立場ですって? 何時から芸の道に歩んだのですか?」
芸ってお笑い芸人って言いたかったのかな、美登里先輩は。
「あんたが俺と対等な訳が無いだろう、この眼鏡が」
何で真治君は眼鏡に拘るんだろうか?
序に真治君が僕に対してだけ下手に出るのは何故なんだろうか?
そんな疑問を残しつつ、能力が使えない状態では争いも起こる事無く、その日は平和になったのだった。
いや、まあ、異能者が居る時点で平和なんてないんだが。
ここで異能者に付いて説明しておこう。
異能者と呼ばれる者が現れたのは今から十数年前、一人の甲子園球児があり得ない投球を見せて全試合パーフェクトピッチングで夏の甲子園で優勝した事から始まる。
彼が投げる球は変幻自在にして完璧な制球力、そしてメジャーリーガーでも出せない速度を叩き出した。
その野球少年が優勝インタビューで答えた回答に日本中が、そして世界中が驚愕したのだ。
「優勝おめでとうございます、銭賀田平侍選手。ずばり、全試合完全試合で優勝した秘訣は?」
「はい、僕がチートに、異能力に目覚めたからです。そのお陰で練習なんてしなくても投げる球が自由自在になりました。球以外でも自由自在ですけどね。ほら、チートでしょ?」
「は?」
優勝の興奮?
それとも熱射病によって幻覚を見ている?
それとも薬物か?
と、それはもう野球連盟から何から何まで大混乱となった。
だが、彼を幾ら検査しようと薬物反応も体や脳の異常は見られず、身体能力が高いだけの至って普通の高校生だと判明し、増々世間は混乱した。
そしてそんな混乱する世の中を尻目に、第二第三の異能力者を名乗る者たちが現れたのだ。
その者たちは皆十代の少年少女で、第二成長期を超えた者だけが得た能力として認知されていった。
最初の異能者が現れてから日本中、そう、日本だけで異能者が現れ、日本は世界中からバッシングにさらされた。
日本は人体実験で超能力者を作っている、と。
そこまで言われて流石に黙っていられなくなった日本政府も、それまでは異能者の存在に懐疑的だったが重い腰を上げて政府主導で研究し始めた。
そして十年近い年月を掛けて調べ上げた結果、日本人が持つ桁外れな想像力が成長期と共に脳を活性化させて超常なる能力を与える、異能者を生み出すという事が判明したのだ。
更に異能力者には共通項が存在し、何故か親の世代やそのまた親の世代が想像する英雄たちを元にした能力に目覚めるという、本人の妄想ではなく日本人の大多数が想像する英雄の能力だ。
現在の日本は超高齢化社会に突入しており、人口比率で多いのは六十代と四十歳前後と丁度そのぐらいである。
では彼らが英雄として考えるのはだれか?
過去の英雄、例えば物語の人物だったり、ナポレオンだったりを想像すると考えるだろう。
だが、この年代は違う。
彼らが想像する英雄とはテレビや映画で見た英雄、しかも日本人がその対象に上げられる。
時代劇。
日本人にだけ現れた異能者のルーツは時代劇の登場人物だったのだ。
ただ、彼らのほとんどは架空だったり脚本上の演出で実在の人物とは掛け離れた設定を付与された者たち、まるで妖精や精霊と同じような存在だ。
だから日本政府は異能者の持つ能力ルーツ、アーキタイプを能力を授けし精霊、オリジンと呼ぶ事にした。
この段階でも何言ってるんだ日本人は?
と、世界中からバッシングを受けたのだが、そこで折れなかった日本政府は等々この異能者に対する保護と育成に乗りかかった。
その政策を若者よ妄想を抱け計画と銘打ち、巨額の予算を組んで対応する事になったのだ。
何故なら現在の異能者は高校を卒業、19歳を迎える前に能力を失うという状況にあり、もしこれが成人しても残したままであれば日本にとって大きなアドバンテージになるからだ。
そんな日本政府の政策で出来たのが、僕の通うような異能者が多過ぎる学校だったりする。
なお、日本には幾つかこの様な学校が存在しており、異能者と異能を持たない普通の者、普通者を混合で通わせている。
ちなみにネットスラングでは、異能者をR厨二、普通者を一般人と呼んでいたりする。
Rはリアルの略な。
「お兄ちゃん、治った?」
「人を病気みたいに言うんじゃありません!」
お陰で僕は遠く離れて暮らす小学5年生の妹から電話口でよくこんな事を言われて悲しい思いをしています。
何故離れて暮らして居るかと言えば、日本政府の陰謀、政策の所為で近所に異能者通学可能高校が無かったために一人離れて他県で住んでいるからだ。
その住んでいる所というのが、これまた困った場所だったのだ。
「ほら、跪いて足を舐めなさい」
「流石にそこまで出来ません、美登里先輩!」
日本でも有数の名家で資産家である御津国家の豪邸、そう美登里先輩の御実家だったりする。
「そうかしら? 身体は正直のようですわ」
「ぐぅ、おのれぇえええ! 何で僕と美登里先輩のオリジンが同じ作品なんだ!? しかも上司と部下なんて!?」
はい、そうなのですよ。
僕と美登里先輩は日本でも一番有名じゃないかと思うあの時代劇、数年前に終了した長寿番組のアレです、アレ。
僕が甘い物好きでちょっとおっちょこちょいな従者、美登里先輩はちりめん問屋の隠居を騙る老主人というオリジン。
なので僕の異能は効果がないし、他に人があまりいない場合、登場人物が少ない場合は上司と部下という関係性が強まって、無茶な命令も勝手に体が反応してしまうのだ。
「ぐぅ、それだけは! 人間の尊厳だけは、絶対に失わないぞ!」
「おーっほほほほほ。頑張りますわね。でも、それも何時まで続くか楽しみですわ」
全然楽しくないから、早く終わってくれぇええええ!
こんな毎日を送らなくてはならない私立時峰台夏期高校、通称時代劇高校は、異能者で異常者が多過ぎる、嫌過ぎる学校だ。
お読みくださってありがとうございました。
これは和モノじゃねぇええええ!
と、言われそうな内容ですが、時代劇は立派な和ですよ、和!
なんて言い訳しつつ綴ります。
どうぞよろしくお願いします。