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帰還×女の闘い×勃発!

 昴の大胆な告白は、なだらかに十分な衝撃を与えた。

 一度目は、馴れ初めもなくいきなり「好きです!」と叫んだのだから、それは振られもする。


 しかし、今回はそれなりに関係性を深めてのトライだ。それも日常的に学校で告白しているわけでもない。完全に新規のシュチュエーション。

 

「ご、ごめんなさい! 今は混乱してて昴君の言葉に返事をすることが出来ません!」

「あ……あーですよねー!」


 それも薄い期待というものだったが。

 何度も繰り返してきた告白と違うのは、返事が送れる……という点だけ。だったが、昴は焦ること無く笑って流す。

 だって、なだらかの別の表情を見られたのだから。それは一歩前進ということだ。


 昴は、持っていたイチイを食べ尽くすと種を纏めて一ヶ所に埋め捨てた。


「でも嬉しいっすよ。今度は考える時間が欲しいんですよね? なだらか先輩は今まで即答だったから、俄然やる気出てきました! 前の先輩だったら、きっと混乱してても「ごめんなさい」の一言で俺を振ってましたよ」

「むー……それは気のせいだよ。きっと」

「いーや、気のせいじゃないですね!」


 誰が何と言おうと昴は考えを改めないだろう。自分の信じたことに一直線の昴は、容易に自分の考えは変えないのだ。

 だからなだらかは、微々たる悔しさ(、、、)に溜息を吐いた。


 テストで誰に負けようが、マラソンで誰に抜かされようが特に心の揺れることのなかった。なのに、今なだらかの気持ちは揺れ続けていた。


「……! そろそろ、来ますね」

「来るって?」

「そりゃあ、森の中なのでクマさんですよ」

「へっ!?」

「あっははは、冗談です。かすかに足音が聞こえたもので……ねえ、包助さん!」

「ほ、包助さん?」


 なだらかは木々に囲まれた周りを見渡すが、あの龍嬢雨母の執事どころか人の影すらない。


「もう、ビックリさせないで。誰も「やはり昴様は鋭いですね。この黒崎感服いたします」ぎゃー!?」

「おや、淑女らしからぬお声ですね。イケませんよ?」

「ほ、ほほほ包助さん!? そこ、き、木の……!?」


 昴たちが腰を据えていた木の上から、ぶら下がって現る包助。

 あんたは忍者かと、なだらかは素で突っ込みそうになった。よく見ると燕尾服に見える別物の衣装だが、そのこだわりは彼のどこから湧いているのか不明だ。


「やほー、包助さん。雨母が寄越してくれたんですか?」

「ええ、実はお二人が斜面から落ちて行くのを見たそうなのですが。二次遭難されても困りますので、お嬢様はエロ……英露さんにお守りをしてもらっています。私は独断でここまで参った次第です」

「へー、そうだったんですか! わざわざありがとうございます!」


(いやいや、素直に感謝してるけど、まず一人だけで私たちの救出に来たことに驚こうよ!? 後、絶対英露君のことをエロさんって言おうとしたよね!?)


 包助でもたまには間違いそうになることもある。雨母がいつも英露のことを変態エロと連呼するものだから、自然と覚えてしまったというのが正しいかもしれない。


「だそうですよ! せっかく包助さんが救出に来てくださったので、一緒に行くとしましょう!」

「あ、ああ、うん。そうだね……」


 初遭難は、何とも締まらない形で終わった。

 しかし、なだらかの心のもやは晴れず、むしろ山々にたむろう霧のように増え続けて行くのだった。



 木漏れ日が茜色に染まりつつある獣道。

 完璧な微笑を浮かべた包助が言うには、昴たちはハイキングコースから斜め下にずれたところを逆に辿っていたらしい。


 迷わず進めていたことにほっとするのと、昴への信頼がちょっぴり上がったなだらか。だからといって告白の件は、まだ解決していない。

 この後もなだらかは頭を抱えることになるだろう。


「うー……」

「どうしたんですか? またお腹減りました?」

「またってなに!? さっきから私を食いしん坊キャラにしすぎだよ、もう!」


 繊細に自分を扱うくせに、弄るところは全力で来る。昴はそこら辺の見極めがうまい。普段、こんなことを言われたら間違いなく怒るのに。


「じゃあ、何に唸ってるんですかねえ……?」

「その顔、むっかつくー……」


 自分の内心を察しているような昴の表情が憎たらしい。

 昴は頭が切れるので、なだらか側から出し抜けることがないのだ。


「ほら拳なんて作らない。スマイルスマイルー♪」

「す、すまいるー♪」

「もっと笑顔でスマイルー♪」

「す、すま……ってできるわけないでしょ!?」


 口の端を一センチ以上動かした笑顔なんて、ここ十年していない。

 なだらかはそれを自覚した頃から、絶対に某ハンバーガーチェーン店では働くまいと誓っている。


「昴様、なだらか様は乙女ですので、きっと素敵な笑顔を見せるのが恥ずかしいのですよ」


(このサド執事!)


 一人先頭を歩き、わだちを作りながら先導する包助。

 彼はたまーに、なだらかをからかうためか会話に割って入ってくる。


 雨母は、この喰わせ者の執事の手綱をうまく握っている。なだらかに対して敵対的な雨母だが、彼女は彼女で苦労が絶えないのかもしれない。


 なだらかが悠長に考えをまとめていると、包助が上を見て止まった。


「この坂を上っていくと、スタート地点です」

「はあ~……やっとついたのね」


 少し道がくねっていることを除けば、至って普通の山の風景にまで戻っていることに感動する。

 元々足を踏み外したのはなだらかだが、流石に安堵の溜息を出さずにはいられない。


「帰ってき「昴ー! お待ちしておりましたわー!」グェ……」


 なだらかはようやく坂を上り切ったところで、鉄砲玉の如く突っ込んで来た雨母に押し倒される。

 色々とデカい。特に、身長に似つかわしくない二つの山とか、おっぱいとか、巨乳とか。

 なだらかは自分の胸にコンプレックスなどないが、風船みたいな二つの塊を思わず揉んでしまった。


「あん! 全くなんですの!? いきなりレディのバストを――って……」


 雨母はなだらかを見て目を点にした。 


「底峰先輩……どいてくださる?」


 むくりと起き上った雨母は、馬乗り状態でなだらかに尋ねる。

 その眼は既に冷め切っていた。


「それはこっちのセリフなんだけど? 龍嬢さん?」


 同時になだらかも、おそらく昴に抱き付こうとしていただろう雨母を仰向けの状態で挑発した。

 後から付いて来たのは、雨母の護衛役として抜擢された変態エロこと英露だ。昴の帰還に喜んでいる彼は、無邪気に腕を振っていた。


「おお、昴ぅー! 無事だったかー、これで俺のバキューン(自主規制)も……って何この空気? 俺こういうの苦手なんですけどー……」


 雰囲気の変化を察した英露は、そーっとゴキブリのような動きで昴と包助の横に付いた。


「おい、昴。あの二人ヤバくないか?」

「うーん、包助さんはどう見ます?」

「仲が宜しいようでいいんじゃないでしょうか?」

「そっかー、そうだよなーって、んなけねーだろぉ!?」


 一番常識的な考えをしていたのは、びっくりなことに英露だけだった。

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