二度目×告白×揺れる心!
「先輩先輩!」
「今度はどうしたの!?」
なだらかは珍しく焦りを表に出した。それというのも、さっきから昴が一々変なものを見つけてくるせいだ。
戸籍上は無個性なはずの昴を怪しみながら、なだらかはスバルの掌をじっと見つめた。
「何これ?」
「イチイですけど」
一見、少し珍しい形をした赤い果実だ。昴はさっきからなだらかの知らないものばかり持ってくる。全部食べられるものらしく、その都度口に運んでいる。
「あ、それ種に毒があるので注意してください」
「ぶっ……!?」
一度かじった果肉は、なだらかの口から放物線を描いて飛んでいく。
「それを早く言って!?」
「すみません。でもなだらか先輩が急いで食べようとするんですもん」
「わ、私が食い意地張ってるような言い方しないの」
体の疲労が食欲を促進しているのだ。もっと栄養が欲しいと。
「あはは、良いんじゃないですか? 良く食べる女の子の方が好きですよ」
「んもう……」
にへらと力抜ぬけるような笑顔で言われると、それでもいいかなと思わされてしまう。
昴は他人の感情の機敏を察知しているわけではない。自分の思い通りの行動が、その人の行動の理想に近いのだろう。
だから、自然体で他人といられる。それは、昴にあってなだらかにはない、圧倒的な人間力の差だ。
なだらかは、イチイをかじりながら未だ青く染まる空を眺める。
「このまま、ここにいるってことはないよね?」
「さあ……どうでしょう」
「どうでしょうって」
「いや、恐らくこのまま耐え続ければ、包助さんあたりが雨母の命令で助けに来るとは思うんですよねー」
確かに雨母なら昴の危機をいち早く察して、そのような行動をとりそうだ。そういわれるとますます足が言うことを聞かなくなった気がした。
「でも……俺はみすみす助けられるつもりはないです。勿論、ここでじっとし続けるつもりもないです。まあ、ここでなだらか先輩と二人きりの時間を味わうのも悪くはないですけど」
「何言ってるの、君」
「自分の力で助かってみませんかって言ってるんです。他人任せなんてのは、砂漠で死にかけたときくらいでいいでしょう」
昴は大真面目な顔だ。いつだって真剣に生きているのだから、それは当たり前の返答だった。
おそらく昴は普段からこうなのだろう。なだらかは、短い付き合いながら昴の性格や人柄を把握し始めていた。
そして、そういう熱意に溢れた人間を退けてきたのもまた、なだらかの生き方だ。
あらかじめその動きをインプットしていたように、なだらかは首を横に振った。
「私はいいよ。もし昴君が安全に帰れるのなら、昴君だけで皆と合流して。そしたら、私の居場所はわかるわけだし、間接的に助かるじゃない?」
もう歩くのに疲れただとか。面倒くさくなったのだとか。そういう思いは一切ない、なだらかの本心。自分より他人を優先して、何も得てこようとしなかった生き方だ。
昴は、なだらかのそこが気に食わなかった。
何事にも全身全霊で、諦めることを嫌ってきた昴は、そこだけは認めることはできない。認めたらきっと昴は昴でいられなくなる。
「俺はなだらか先輩を置いていくなんて真っ平御免ですよ。まだ足は動きますよね? 動こうとしてないのは、なだらか先輩自身の気持ちだけでしょ? 違いますか?」
「うるさいな、なんでも見透かしたように言わないで……どうせ私なんか」
「どうせ、なんて自分を貶めないでください!」
昴は、森の中で声を荒げてしまったことを気にしたのか。一度咳払いをした。
「とにかく、俺は絶対になだらか先輩も連れていきます。背負ってでも一緒に帰りますから」
その瞳には、絶対に自分の主張は曲げないという強い決意がある。なだらかには到底直視できないものだが、今は二人きりで目を逸らせなかった。
嫌がおうにも、昴の感情に感化されてしまう。
「昴君の気持ちはわかったよ……でもなんで、そんなに私を連れて行こうとするの? 無個性の私を……」
「結局それですか」
無個性。
まずその言葉自体が、昴にはいけ好かないものだった。
人の個性は千差万別。その属性を測る機械とやらが、人間の複雑怪奇極まる感情、性格を読み取れきれるわけがないのに、何が無個性か。
「いいでしょう。では、なだらか先輩が忘れてしまっているようなので、また言っておきます」
「……?」
「俺は、なだらか先輩が好きです! 愛しています! 好きな女の子を森に一人きりにする男がいますか、いたら俺が殴りに行ってやりますよ!」
「私が……好き……」
昴の告白は、なだらかの心に力強く響いた。