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娘と×親と×将来の夢!

 翌日、高盛宅の郵便受けに、差出人不明の封書が届いた。

 不審な手紙の中を確認するとびっくり。中身は、底峰一家が面会する日時と場所が記載されていた。


 時間は、一週間後の十六時。場所は、俗世高校間近のファミレス。

 横槍を入れるにはベストな位置で開催してくれるようだ。向こうは邪魔して来るものを想定していないから当然である。

 最も、昴にとっては好都合。


「は、はは。なにが手を貸さないだ。こんなことできるのは、お前しかいねえだろ……」

 特別誰とは言わなかったが、こんな手管を持つ人物は、金髪ツインドリルの誰かとその従者しか思いつかない。

 中には、「貸し一つ(スカイツリー級)」と書かれていた。

「礼は言うもんじゃなく、返すものってのがアイツらしい……つーか、スカイツリー級って。価値基準がわからん……宇宙規模じゃなかっただけマシか」


 なんとなくすごい見返りを求められているのは、想像できた昴。

 思わぬ助太刀を受け、今後の予定を練り直し始めた。



 俗世高校の正門前に、なだらかの姿がある。植込み部分の段差に腰を掛け、人を待っているようだった。

 

「……」

 なだらかはアトリスの内部時計を忌々しげに見つめる。放課後ののんびりとしたティータイムは、残念ながら、なだらかには存在しない。

 

 これから両親が、俗世高校の正門に迎えに来ることになっている。その直後に、近場のファミレスで転校について話し合うことも。


(お父さん……お母さん、私やっと……)

「なだらか」

「!」


 呼びかけに反応したなだらかを迎えたのは、父の声。リクルートスーツを着用した父の隣には、おどおどとした母の姿がある。

 底峰平斗(ひらと)と底峰しずみだ。

「お父さん、お母さん……久しぶり」

 なだらかは、両親に薄く微笑んだ。


 ファミレスまでの移動の記憶は、ハッキリ言って無い。

 それだけ緊張していたということだろう。

 なだらかは、実に半年ぶりに親の顔を見たのだから。


「なだらか、なだらか!」

「え……あ、うん。どうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょう、何か食べるでしょ? これ、メニュー」

 埋没していた意識を、母に引き戻される。いつの間にかファミレスの席に座っていたようだ。

 対面の母からメニューを渡される。


 なだらかは、母をまじまじと見つめた。見れば見る程、自分は母親似だと思わされる。おっとりとたまなじりと気の弱そうな口元。容姿もスタイルも中の中といったところだろう。

 自分が母のクローンと言われても納得してしまいそうだった。


「水だけでいいよ」

「そうか? 遠慮することはないんだけどな……」

 父はメニューを捨て置いて、指を組んだ。

「話は伝わってるだろうけど、お前を俗世高校から転校させようと思ってな」

「なんで今更……」


 父の意図が、なだらかには理解できない。転校するくらいなら、最初から俗世高校への進学を反対すればよかったのに。


「なだらか……お前は無個性だ。進学校の俗世で、いじめがないとは限らない」

「そんなこと、ないよ」

「表だってはないとは、僕も思う。けどね、無視だって立派な虐めになったりする。本当に、そういったことまで、まったくないかい?」


言葉に詰まる。応えたくなかった。

 なだらかに話しかけるのは、昴たちのグループくらいだ。

 無視まではいかずとも、積極的に関わろうと思われていないだろう。

「友達は……いるもん」

「へえ……なだらかの友達なんて初めてじゃない? お赤飯でも持ってくればよかった……」


 母はこういうとき大げさに反応するので放置。

「とにかく、私、転校したくない」

「それは、僕としずみが決めることだ」


 なだらかと平斗の間に散る激しい火花。

 父は優しい表情を浮かべているが、手段はいとわない。転校させるときは、半ば力づくにでも転校手続きを取るかもしれない。


 緊迫の状況が続く。


「ハイッ、こんにちわ!」

「「は?」」


 狐のお面を被った、属性高校学生服の男の子が、テーブルの横に立っていた。

(昴君なにしてるの!?)

 いやもうなだらかにはバレバレである。


 父が不審者を見る目付きだ。

「なだらか、この変な子と知り合いなのか?」

 知り合いと答えるべきか、それとも昴がなぜここにいるのか追及するべきか。

 どちらにしても知人であるのはバレそうだ。


「お義父さん」

「誰がお義父さんですか」

「では、なだらか先輩パパ」

「……」


 どうあってもまともに対応する気のない昴だが、仮面の隙間から見える瞳はまじめだ。


「俺も俺の友達もなだらか先輩のこと大好きなので、絶対に転校させないでくださいね!」


 じゅわっ、と言い放って昴は消えた。

「え、それだけ?」

 流星のごとくあらわれ、そのまま燃え尽きるように消えていった昴に、呆気にとられる一同。

「昴くーん!?」

「え、えーと……?」

「どういうことなの……?」

 それはなだらかが言いたいセリフだったが、今はぐっと堪えた。

 まあしかし、言ってもらいたいことを簡潔に言ってもらった感はある。


「ほ、ほら私だって友達いるんだから」

「あれじゃ友達の押し売りね」

 母が鋭い指摘をしてくる。

 当初は押し売りだったかもしれないが、今はしっかりと友達としてやっているからいいのだ。


(まあ、昴君は友達っていうより、恋人になりたいんだろうけど)


「ふむ、子細はともかく仲の良い友人はいるみたいだね」

「分かってくれた、の?」

「いや、まだ考えさせてもらう」

 父の言葉に、なだらかは「どうして?」と首を傾げた。

「なだらかが彼のことを、はっきり友達と言うまで信用できないから、かな」

 父は、なだらかそっくりの薄い笑みを浮かべる。少しほうれい線の出てきた口周りが、年を感じさせた。


「でも、転校のことも考えさせてもらうよ」

「お父さん」

 ほっとするなだらか。少なくとも、すぐに転校という事態は、避けられたようだ。

 

「彼はここに来たのは……なだらかを心配しての行動だったんだろう?」

「ふふ、多分ね」

「ボーイフレンドなの?」

「それは違うから!」

 なだらかは思う。自分の若干の腹黒さは、絶対に母譲りだと。

 取り敢えず、帰ったら転校の件は無事解決したと報告だ。


(なんだろう、少しワクワクしてる)


「そう言えば」

「なに、お母さん」

「あなた、将来の夢ってなんだったか覚えてる?」

 母は突拍子もなくそんなことを切り出した。

 そんなものは幼稚園のときを最後に、抱いたことはない。


 だから、なだらかは肩をすくめてこう答えた。

「さあ、なんだったかなー?」

 母はやっぱりねと言いたげに肩掛けバックからスマホを取り出す。

「ほらこれ。私、写真にとってあるんだから」

 画面をタップしてアルバムを開き、母はスマホを見せてきた。

 保存された画像には、笑顔のなだらかが画用紙をよこに携えて微笑んでいる。屈託のない笑顔だ。

 その瞬間、なだらかは恥ずかしさに頬を染める。


「じゃーん。なだらかの将来の夢は――」

「ストップ、ストーップ! それ以上はダメだからー!?」

 ファミレスでなにを口走ろうというのか、この母親は。

 テーブルに乗り出して母の口を塞ごうとするなだらか。


 最初の緊張はどこへやら、底峰一家は笑い合っていた。

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