・番外編 イベントアイテムの仕様
・番外編 イベントアイテムの仕様
※このお話は三人称視点でお送りします。
今日テレビゲームでは往々にして様々なアイテム、武器や防具、または道具に魔法の効果が付随している物が数多く登場する。
広義に曰くマジックアイテムである。そして魔法を物に付随させることを、エンチャントという。
付随の内容も恒久的に効果を発揮するものや、一度限りの使い切りなど、用途に応じ分かれるものだが、先ず異世界へ行き来するための魔法が、エンチャントできるかどうかで、彼らの議論は行き詰った。
「理屈としては、異世界に対する召喚魔法と送還魔法を特定のアイテムに封じ込める。この二つの魔法を封じ込めたアイテム同士を関連付け、この世界と異世界を行き来できるようにする。ということなんですが」
サチコたちから解決案を聞かされた、群魔区の長ミトラスは、バスキー、ウィルトの両名を伴い、自室で角を付き合わせて検討していたのだった。
時刻は既に終業時刻を迎えているが、やや行き過ぎなくらい仕事熱心な彼らは、残ってこのアイテム製作に挑戦していたのだった。
「行ったことのない世界に行く。そこから此方へ帰ってくる。順序の前後、そのための調整はできる。だが道具に封じ込めるとなるとこれは」
彼らの手元には小さな水晶球がある。その水晶球の中には、奇妙な文字が浮かんでいた。
妖精町こと旧屠殺の発電所に使われている規格の、最小サイズである。試しにバスキーが、魔力を込めてみたところ、水晶球はその場から、消えてなくなってしまった。
「この通り、水晶球だけが飛んで行ってしまうのう。お、戻ってきた」
問題はアイテムのみが、異世界へ飛んで行ってしまうという不具合であった。
遠くの景色を映す。火を噴く。持ち主の傷を癒すなどの魔法なら、その場で発動して、効果を得るものである。
しかしながら異世界転移となると、先ず真っ先にアイテム自体が転移するのだ。
使用者が魔力を込める方式にしたのは、試作品第一号がその不具合を見せ付けたからだ。
持ち主が触れているならどうかと思い、何故か召喚魔法が使えないバスキーに使わせてみたのだが、やはり駄目だった。
ちなみに本来ならば、そのまま使用者も転移して、帰ってくることはないのだが、バスキーは時間差で魔力を込められるように細工をしていたため、追放の難を逃れた。
「異世界に行っても、この水晶に込められた魔力と魔法は、ちゃんと機能したようじゃな」
また一つ分かったことを記録しながら、三人は改善案を言い合う。こういうことはいつも最初に、簡単そうな大きな題目が出て、それから『どうやって』を模索することになる。
「改善点としては、まずアイテムだけではなく、使用者も異世界に行くこと。これが絶対。次に要求されるのは異世界を選べること。安全対策ですね。とてつもなく高度な文明を誇り、尚且つ邪悪な世界に繋がってしまう危険がある訳ですから。最後に、値段をどこまで抑えられるかですね」
ミトラスの言葉に二人が頷く。
それからの動きは早かった。
材料の確保のためにパンドラを呼び、様子を見に来てくれたディーに記録を頼む。
ここに魔王軍四天王と、魔王の息子が勢揃いして、異世界をある程度まで選び、自由に行き来できるアイテムの製作に取り掛かる。
「魔法を術者が使用する場合と、アイテムが使用する場合の違い、これは対象を選ぶよう設定する字を足さないと駄目だな。感覚でやっていると忘れがちだが、回復用、支援用のマジックアイテムには、必ず簡易ながら使用者を対象に、発動するという仕組みが最初に設けられているんだよ」
道具作りに関しては、専門家という訳でもない製作陣に対して、パンドラが口を出す。
彼は現在小さな鞄に化けており、開ける度に中には材料がぎっしりと詰っていた。
「異世界を選ぶというなら送還、いや送出の際に向こう側の世界を映すための装置が必要だな。その水晶球も一つで済ますんじゃなくて、いっそ二つに分けたほうがいいだろう。欲しい機能を全部一つに組み込むのは無茶だ。遠見の魔法を水晶に付与する台座を作ったほうが安全だろう。召還と送出、二つの水晶の力を借りて機能を拡張して、異世界の映像を引っ張り込むんだよ」
物の考え方、とは良く言ったもので、アイテムの仕組み、及び道具としての視点を持つパンドラは、サチコには分からないと言ったにも関わらず、次々と指示を出して行く。
「で、最後に異世界に行き来する奴を、識別するための目印として、水晶球がもう一つ必要だな。少なくともこれで、大よその要件は済むだろう。異世界の選び方までは知らんけども」
つまり必要な物は最低でも水晶が三つ、行きと帰りを司る、水晶に映像を映すための台座が二つ。
結果として異世界の観測装置とでも言うべき代物が考案される。
「魔法も即座に発動ではなく、発動できる状態を維持したり、保留できるとありがたいのう」
「選ぶ、という所まで機能に持たせるなら、外側からそれができる仕掛けが要るわね」
こうして何が求められているのかが、はっきりしてきたのは、サチコが夕食の時間に呼びに来て、皆でごちそうさまを言った後であり、彼らは食事時も、仕事の話を引き摺っていたことになる。
「それだけできれば確かに助かるでしょうね。ですができるかどうか……」
要求される機能や性能が上がれば上がるほど、それを形にするのは難しくなる。ウィルトは眉を顰めた。青い瞳の三白眼を細め、憂いを表に出す。
「そう思い悩むなって。召喚は無理でも、似たような構造の物なら、いくらでも出してもやるから、先ずはそれを参考にしろって」
パンドラが気楽に言ってのけると、ウィルトの視線が厳しくなる。
ある一つの自然な警戒が、口を突いて出る。
「パンドラ、君は、もしかして答えを持ってるんじゃないか」
「そうなら良かったんだがな」
旧友の言葉に、鞄の返す答えは素っ気無かった。
パンドラに集まっていた視線は、既に散っていた。
彼は自分にできることなら、できると自己申告して来る。そのために、この台詞は真実なのだろう。一同は肩を落とした。
「ここで嘆いても仕方ない。具体案は出たんだ。まずはやれるだけ、やってみましょう!」
ミトラスが締めの言葉を発する。
すると丁度そのとき。
「おい皆お風呂空いたぞー」
サチコがお風呂から出て、声をかけに来た。
そして彼らの打ち合わせは、やっと終わりを迎えたのだった。
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文章と行間を修正しました。




