<幕間> ミトラスの十日間
<幕間> ミトラスの十日間
※このお話はミトラス視点でお送りします。
思ってたのと違う。第一印象はソレだった。
近しい人は皆離れて、助力を得られず、それでも窮地を脱するべく、異世界から人材を召喚した。
召喚魔法ってけっこう疲れるのに、出てきた人は寝てたし、起きたら起きたですごい怒るし、もう泣くかと思った。
寝てる所を呼び出したんだから、それも仕方がないのかもしれないけど。しかも美人じゃないどころか、なんだか煤けた感じがする人だった。
血色は良いけど裕福とは言えない妙な雰囲気。正直自分が何か手順を、間違えたんじゃないかと気が気でなかった。
でも、少しして、それは杞憂だったと証明された。人は見かけによらないって、こういうことなんだな。
蓋を開けてみればすごく簡単な対処法だったけど、僕はそれに気づけなかった。サチウスは外見よりも、頭が良いみたいだ。
ただ、彼女の身の回りの物を取り寄せてから、別の心配ができた。家具、寝具、肌着、生理用品、ここまでは良い。
問題は、彼女の私物だった。僕は知っている。知らない振りをしているだけで。彼女は参考資料と言っていたけど、僕は知っている。
あれはゲームとか漫画とか、パソコンという奴だ。僕の父、魔王が熱中し過ぎて、身を持ち崩したから、よく知っている。こっちでも使えるようにと電気周りの魔法も、またすごく発展した。
なんでも異世界の資源に乏しい国における奴隷階級の嗜好品で、安物のお酒や、煙草さえ買えない貧民にとって、それらの代替品となる物なのだそうだ。
電気があれば動いて、尚且つ多人数で使い回せるという代物だが、依存性が強いという、悪い意味でも代替品の役目を果たしているらしい。
それをサチウスは持っていた。
しかも周辺機器やソフトが充実している。
これは取りも直さず彼女が、奴隷階級であることを意味する。それもかなり依存している。それに家族も生活もあると言っていた。
ここから推測されることは、サチウスは奴隷階級でもしかすると、自分の稼ぎで家計を支えていたのかもしれない。
奴隷の割に賢いけれど、知能奴隷という者が存在する世界があるから、恐らく……。
ああ、僕は何て罪深いことをしてしまったんだ!
だから召喚魔法は使いたくなかったんだ!
でもサチウスが奴隷なら彼女の切り替えの早さや、他の魔物にまったくと言っていいほど、話しかけない態度も良くわかる。
奴隷の思考と、許されなければ話さないという習慣が抜けてないのかも知れない。
……自分で傷つけておいてなんだけど、可愛そうな人だな。人間が勝った世界で、それと関係のない人間だなんて。
できるだけ、優しくしてあげよう。悪い人じゃないのは分かるし、優しい所もあるのは分かってるんだ。
それに、こっちの待遇が良ければ、心変わりを起こしてくれるかもしれない。
罪悪感はあるけれど、僕はあの人と一緒にいたいと思うようになっていた。
仕事で必要と言われた時に、仕事以外でも必要だと言われたいと思った。今まで僕のことを気遣ってくれた人なんて、市長と四天王以外にはいなかった。
隠しようもなく、僕は寂しかった。自分で用意した出会いなんだ、これをモノにしないでいられるか。
だけどこの仕事が終わったら、やっぱり帰りたいって言うだろうな。そうしたら、僕はどうやって引き止めたらいいんだろう。
ダメだ、しっかりしろ僕。その時が来たら、せめてちゃんと上司の顔をして見送ろう。
そうだ。彼女がいる間に、彼女がいなくても平気なようにならなければ。
他の魔物のレベルが上がったなら、僕も上司としてレベルをあげないといけないんだ。
差し当たってはそれだけ考えよう。これ以上考えても辛いだけだから。
でもやっぱり、一人に戻りたくないなあ。
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