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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物のレベルを上げるには
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・外憑け○○○

・外憑け○○○



「ぐあー! 駄目だ! さっぱり進まん!」


 役所内、宿直室に俺の叫びがよく響いた。


 あれから既に一週間。スカルアーマーの改良に精を出していたが、まるで進歩がない。外は既に真っ暗。幸か不幸か、役所に魔物が来たことは一度もない。


「デフォルトが一番頭良いんだな。至らない点を指摘すると、今度はそこしかやらなくなる。命令の仕方も改善したけど、やはり基本的な力も物足りないし」


 あれから山賊顔のおっさんにも協力してもらって、問題点を洗い出していったが、リビングアーマーやスケルトンが一番良く戦えたのは「戦え」という命令を出した時だった。


 細かい指示を出すとどんどん動かなくなっていく。


「他の客の苦情は解決したんだけどなあー」


 今回取り入れたレベルの上げ底、もとい水増しで苦情をあらかた片付けた。他の客の分の『魔物のレベルが低い』という苦情だ。


 名簿に登録していた魔物たちも、同じ要領で強化した結果、そこそこ戦えるようになった。実態は客に比べて防具がマシという程度だが、使用できる武器の貧弱さもあって、中々良いバランスになるのだ。


 余談だが俺は他の魔物とはほとんど話さず、そこはミトラスに任せきりだった。


 人間相手ならまだしも、魔物相手にボロが出たら怖いし、上司そっちのけで俺に説明されても、いい顔はされないだろうと思ったからだ。


 元々人付き合いが乏しいせいで、距離感が分からないというのもある。


 何にせよ、おかげで市長の課題とやらは達成できたのだが、一件だけ残ったのがこのおっさんであった。


「あの人だけ強すぎるんだよな。結局魔法もまだ使ってないし」


 指摘が一々正確で改善点は出るものの、スカルアーマーの問題が、解決する様子はなかった。


「やっぱり頭を外付けするしかないかな~」

「お風呂あがりましたよ」


 そういって牛乳片手にパジャマ姿でやってきたのはミトラスだ。

  俺たちは勤務時間が終わると、宿直室を改装した部屋を、それぞれの自室として生活している。風呂は地下にあるシャワー室を使っている。


「おう分かった」

「それにしても課題を無事達成できて良かったー」


 こいつは既に他の客の苦情解決で、ことが済むと分かってからは、すっかりこの調子だ。


 おっさん一人放っておいても、良いということなんだろう。その辺は同意だがこっちにも意地がある。


「サチウスは熱心ですねー。あ、それともまだお風呂行くの怖いんですか?」


「いや、あれは誰だって怖いと思うぞ」


 魔物の区役所だから、夜中の地下なんて何かと遭遇してもおかしくないと考えていが、何も出なかった。そして何も出ないことが、却って怖ろしいのだ。


「大丈夫ですよ。お化けなんて大した魔物じゃないんですから」


 そんなふうに言いながら、小童が風呂上がりの牛乳を飲む。こいつがいったいどの程度まで異世界のことを知っているのか分からない。


 もしかしたらこっちの世界でも、風呂上がりの牛乳は一般的な文化なんだろうか。


「大したことなくても俺は怖いんだよ」


「あ、それじゃあお化けを使って、サチウスを操りましょうか? それならお風呂に行けますよ」


「お前それ本気で言ってる?」


 こいつは一度カウンセリングを受けたほうがいいかも知れない。ていうか俺の体は俺の物だ。お化けに取り憑かれるなんて……お化け?」


「なあ、お化けって、取り憑けるのか?」

「じゃないと操れませんよ」


「いや、そうじゃなくて、魔物にも取り憑くことってできるのか?」


「できますよ。凶暴化した魔物なんかは、それで沈静化させたりするんですから」


 お化けが取り憑く。

 お化けが操る。

『お化けが操る』!


「まだ形にならねえけど上手くいける気がしてきた」

「だからうちのお風呂はお化けだって出ませんよ」


 違う。そうじゃない。風呂から離れろ。

 俺はミトラスを手招きした。


「この世界だと、そのお化け、ゴーストってどんな扱いなんだ?」


「どうって、別にただのお化けです。死者の魂が化けて出たもので、仮に生前が人間であっても魔物の扱いです」


「じゃあこっちで使ってもいいのか!?」


 ついつい勢い込んで尋ねると、ミトラスが怪訝そうな顔をする。そしてすぐに何やら感づいたのか、その表情が明るくなった。


「ああなるほど! スカルアーマーの足りない頭を、ゴーストに操ってもらうことで、知能を補おうってことですね。確かに、程度の差はありますが、それでも単純なアンデッドや、無機物系の魔物よりは賢い! 考えましたね!」


 説明する前に説明台詞を言うな。なんだかやるせない気持ちになる上に、俺が馬鹿みたいじゃないか。


 でもいいぞ、俺の言わんとしていることが、分かるようになって来ている。


「となれば、明日早速試してみましょう。なるべく細かい検証もして、万全の態勢を整えれば、今度こそいけるかもしれません。ああ、それと」


「なんだ、何か気になることがあるのか?」

「お風呂冷めちゃいますよ」


 ミトラスが一言付け加えた。

 お前は俺のお袋か何かか。

 時計を見れば既に夜の十一時を回っていた。


 この世界も一日二十四時間だが、彼が言うには、自分たちを基準にして相手を召喚しているそうだ。


「ああ、入るよ勿論。でもなあ」

「やっぱり怖い?」

「うん、ちょっと」


 ほぼ無人の広い建物で、たった一人でわざわざ地下まで、風呂に入りに行くってのは正直怖い。


 これからも慣れないだろう。幽霊もいる世界だし。そうして渋っていると、ミトラスがため息を吐いた。


「もう、それじゃあ今度から、僕が一緒に入ってあげましょうか?」


「え!?」


 突然の言葉に、なんだ、今なんて言った? 『一緒に入ってあげましょうか?』目の前のファンタジー系ネコ耳緑髪ショタが?


 ――なにそれ最高じゃないか。


「いや、いいよ、お前今日はもう入っただろ。今日はいいよ」


「そうですか? じゃあ頑張って行ってらっしゃい」


 やばい。

 自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。

 やばい。


 俺は部屋の引き出しから、お風呂セットと着替えを持って、急いで部屋を出た。今気付いたけど羞恥心で恐怖心が麻痺してる。


 だがそんなことはどうでもいい。

 明日からはどうする。どうするべきか。

 いや待て、ミトラスはそういうんじゃないだろ俺。


 羞恥心と邪な欲求と変な葛藤で興奮しながら、俺は急いでシャワー室へと向かった。


 そしてこの日、俺は久しぶりに風呂でのぼせた。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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