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三日目の朝、トレセンで俺は苦しんでいた。意識が遠のきそう。
「うー、腹が痛い。めっちゃ、痛いっていうか、なんていうか……」
「だ、大丈夫ですか、サチウス?」
俺の身を案じてミトラスが寄ってくる。今は臭うかもしれないから、寄ってこないで欲しい。
不老不死になったらしいのに、未だに月のモノはあるのかよ……。よりにもよってこんなことで現実感が来るとかふざけんなよ。
「くそ、やっぱり現実だったんだな」
「本当に大丈夫?」
こういうのって魔物に襲われたり、倫理観の違う人間の行動にはっとさせられたりして、ああ俺は本当に異世界に来ちゃったんだなって思うものじゃないか。
三日目の朝は、もう一つの目覚めを齎したが、正直何も嬉しくない。
「いいから、昨日言った奴らを出してくれ」
「は、はい。では、出でよ!我が僕たち!」
ミトラスが掛け声と共に片手を前に伸ばすと、地面が光り始め、そこから先日の甲冑と、綺麗に一揃いした人間の白骨、スケルトンが現れる。
やはりというか、トレセンの魔物は元魔王軍とか、彼の部下あるいは所有物だったようだ。
「試しにこの骨にな、リビングアーマーを装備させてくれ」
「そんなことして何に、いえ、まずは実際にやってみましょう。ねえ!」
ミトラスに促されて、白骨と甲冑がいそいそと合体いや二人羽織り、違うな。
とにかくスケルトンがリビングアーマーを装備した形になった。
「これでレベルがあがったはずだぞ」
「ええ! こんなことで!? ていうか二対一じゃ」
「ダメ?」
「ダメという決まりはありませんけど……」
お手軽感溢れる対処に、ミトラスが初めて傷ついたような表情を浮かべた。
子供騙しにしても、真面目にやってくれと言わんばかりであった。
「そんな顔しないで、騙されたと思ってこいつで何かテストをしてみろよ」
「それじゃあ……」
少しの間なにやら考えていたが、結局は同じようなリビングアーマーを呼び出した。なるほど、これなら確かに差がはっきりするだろう。
「この二体を戦わせてみます」
本当は言われた通り二対一なんだけど、それは別にいいだろう。ダメという訳じゃないんだから。
「両者、武器無しで、そのままどちらかが行動不能になるまで戦ってください。いいですか。ではよーい、はじめ!」
十分に両者から離れてから開始の合図をした。こうして中に骨が入った鎧、スカルアーマーと、リビングアーマーの戦いが始まった。
*
「そこまで!勝負あり!」
「こんな、こんなことが……」
始まってから約三十分。スカルアーマーがリビングアーマーを一方的に打ち負かして、文字通り凹ませて勝利した。
ここに元の世界に奴がいたらピンと来たんだろうなあ。やれ合体したり一度に出る数が増えただけなのに上位種と言い張ったりするようなモンスターは、少なくとも俺の世界のゲームでは割とよくある。実際は冗談半分だったから、中々どうして上手くいった。
「そうか!」
「お、どうした」
「スケルトンもリビングアーマーも、自分の力で物を持つ。だから一か所に集めたら、どちらか一人だけの力で戦うと思っていたけど、違ったんだ! ちゃんと力を合わせるんですね! サチウス!」
「ん? うん。うん」
なんだ? 何か当たり前のことを言って、感動している。興奮して顔が真っ赤だ。
ミトラスは尚も続けた。
「こんな方法があったなんて! これならスケルトンを抜けば、レベルも下げられますよ! これはとても画期的です!」
「出来合いでそこまで喜ばれるとなんだか申し訳ないなあ」
「そんなことないです!」
レベルアップに必要な物をほぼ確実に、しかも無尽蔵に手に入れられる場所には、心当たりがあった。
しかし人間によってキャップ、上限が嵌められているのなら、ちゃんとした成長は好ましくない。強くはなるが、弱くもなれるほうが良い。
「これならレベルも一緒にする魔物の数で、調整できます。これなら戦わせても、あっさりと蹴散らされて終わりなんてこともないかも……!」
「つまり苦情の三つも無事解決だな」
これでようやく魔物たちにも『ガード以外の行動』をさせてあげられるし、強さを調節してリビングアーマーに追加する魔物を増やし、種類を水増しすれば『一種類しかいない』という問題もクリアだ。
「さ、あとはお客さんにこのスカルアーマーのお披露目といこう。もう弱いだなんて言えないはずだよ」
「ありがとうサチウス! 本当にありがとう! 人間には勇者がいるけど、魔物にも救世主がいたんだ!」
ミトラスが大げさな言い方で褒めてくれる。今にも抱き着いてきそうな勢いだ。こんなに嬉しそうだと、そうされたいし俺もそうしたい気になるな。
「ああ、早く今日のお客さんが来ないかなあー!」
でもこの時あんなことになるなんて、俺たちは想像すらしていませんでした。
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