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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物の祭りを開くには
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・その名はパンドラ<前編>

・その名はパンドラ<前編>


「着きました」


 俺たちはミトラスの魔法で、彼の古巣である魔王城に来ていた。神無側から遠く離れたこの場所だが、正確な場所は地図に載っていないらしい。


 瞬間移動の魔法を使ったというのだが、文字通り一瞬なので、何がなんだか分からないうちに、目的地に着いていた。


「目の前がちかっと光ったと思ったらって、これが、魔王城……」


 言われて視線を向けた先にあったのは、瓦礫に満ちた荒野と、崩れ損ねた建物の残骸が、風に吹かれる光景だった。


「これが、僕の家です」


 家。そう、家だ。

 ミトラスにとっては家だったんだろう。


 戦争の舞台になったとはいえ、見るも無残に朽ちており、顕在ならば古城になっていたであろう建物は、果たして何階建てだったのか。


 大半が抉れており、残った壁にも穴が空いている。ミトラスたちが住んでいた場所なのに。


「サチコ、僕は大丈夫。もう見慣れたはずだから……ありがとう」


「ああ、うん」


 俺は気付かないうちにミトラスの肩を抱いていた。辺りにはもう何もない。


 砂埃が舞うばかりの廃墟、言い方は悪いが、こんなところに陽気な男なんて、いるんだろうか。


「それで、これから仲間にする四天王ってのは、どんな奴なんだ」


 手を放さないまま俺はミトラスに聞いた。彼は遠くに聳える魔王城の亡骸を、見つめながら言った。


(けっ)貨将(かしょう)パンドラ。前の大戦では魔王軍の先鋒と殿を務めた、僕が股肱と頼んだ者です。ミミックと呼ばれる魔物の突然変異で、元は人間側が持つ強力なマジックアイテムでした」


 ミミック。


 魔物の中でも知名度は高い方であり、お宝を守るために存在する、守護者と罠の二束の草鞋を履きこなす魔物だ。


 一言で表すなら『魔物化した入れ物』である。代表的なものは宝箱だが、鞄だったりツボだったり宝物庫そのものだったりと、その姿は多岐に渡る。


「意思を持ったアイテムか。伝説の剣とかにありがちだけど、装備者が宝だと考えれば、あれもミミックと言えなくもないのか」


「彼は自身の持つ能力と記憶のために人間から追われていましたが、ようやく彼を迎えることができます。すーっ……パンドラアアァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!僕だっ! ミトラスだ! 聞こえているだろう! パンドラーーーーーーーーー!!」


「うわっ」


 突然ミトラスが叫び出す。


 パッと見誰もいないから、大声を出せば聞こえはするだろう。


 でもいきなりは止めて欲しい。心臓に悪い。


「……来た!」

「どこどこどこどこ! アレか!?」


 指差された先を見れば、遠くから一つの影が、猛然とこちらに走ってくるのが見える。


 金属質なのか逆光で分かりにくいが、近づくに連れて段々と輪郭が、はっきりとしてくる。


「リビングアーマー?」


 その外見は群魔区にある、トレーニングセンターの主要モンスターこと動く全身甲冑リビングアーマー、いや、その派生であるスカルナイトによく似ている。


 骨が入っていない点、甲冑の色が元通りの銀であること、襤褸を身に纏っているのが、違いと言えば違いだろう。


「来るのが遅えんだよおおぉぉーーーーーーー!!」

「パンドラ! 久しぶり! 僕だよミトラぐばぅ!」

「ミ、ミトラスーー!?」


 今や目前に迫ったそのリビングアーマー、パンドラは速度を落とすことなく、ミトラスに突っ込んだ。


 撥ね飛ばされキリモミ回転しながら、宙を浮くミトラス。頭から落ちてそのまま動かなくなる。


「な、え、おま、お前……」


「てめえ人がどれだけ心配したと思ってやがる。やっと現れたと思ったら女連れだとぉ?ら随分とお幸せになったじゃねえか。おめでとう! 頭にくるけど嬉しいぜ! ミトラス!」


 銀色の甲冑がびしっと、動かないままの幼魔王に指を指差す。間近で見ると一般のリビングアーマーとの違いがよく分かる。


 どこか置物のようだった、トレセンの彼らよりも実戦的な造りをしている。人間が装備することを考えた関節や隙間、採寸のズレがある。


 前者が観光地などに置いてあるような調度品と考えると、こいつは実用品だ。武骨と言っていい。鉄のみではなく、スカートの部分やちぎれた皮紐みたいなものもある。目出しの部分からは中が空洞であることが分かる。声の出所は謎だ。


「ぼ、僕は、約束を、果たしにきました。パンドラ、また、僕たちと」


「皆まで言うなって! オレの力が必要なんだろ? 訳を話しな」


 どっちなんだよ。


 よろよろと身を起こすミトラスを助けながらパンドラが言う。この魔物が四天王の一人か。オラオラ系の性格なのか、それとも頭の悪い男子高校生みたいな性格なのか。


「サチウス、悪いけど、説明をお願い。ちょっと足に来ちゃって」


「分かったけど、早く治せよ」


 想像以上にダメージがあったのか、珍しくミトラスは俺に説明役を譲った。本当に足が震えている。


「その前に自己紹介が先だろ!」


「あ、はい。俺は臼居祥子。サチウスがこっちでの通り名。召喚獣扱いです。今はミトラスのお手伝いしてます。よろしくお願いします」


「オレは血貨将パンドラ! 元人間側所属で元魔王軍四天王のミミックです! よろしくなサチウス。もう説明し始めていいぞ!」


 こいつは陽気なんじゃなくて、躁病なんじゃなかろうか。内心不安になりながらも、俺はこれまでの経緯や夏祭りのことを、眼前の人型ミミックに説明した。

タイトルがしっくりこないので修正

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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