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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物と明日を歩むには
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・特訓開始

・特訓開始


 群魔区群魔町にある、魔物トレーニングセンター。魔物も鍛錬を積めるが、主目的は人間が魔物と戦い、自らを鍛える施設である。


 要は訓練場である。この世界では魔王軍が人間の軍隊により滅ぼされており、彼らの持っていた領土は既に接収済み。魔物に対する扱いも、ほぼ決まっている状態である。


 勝手に迷宮が湧いたり生えたりしないし、どこからともなく邪悪な敵性存在がやってくることも、時代を押し留めるような長い戦争もない。


 それ故に、戦いが終わってしまうと、戦いが生業の人は困ってしまう。


 困ったところで知るか、死ねとばかりに国からは、到底暮らしてはいけない、些少な金額の年金が支給されて、それきりである。


 だからと言ってうちが、僅かな収入を得たばかりに生活保護が受けられずに、将来的に法律上野垂れ死ぬことが決定している、若年層のような仕打ちをするわけにもいかない。


 殺されるくらいなら、遠慮も躊躇も無く、敵に襲い掛かるのが、この世界の人間である。


 そんな彼らに対する救済策というのが、このトレーニングセンターである。勿論、ガス抜きとか憂さ晴らしに使わせて、暴走を抑止する意味がある。


 基本的に彼らの大半は、あくまでも戦うのが好きというだけで、戦えるのならそのために、他の仕事をすることも辞さない、という人々だ。


 初めは安全に配慮して、只管魔物側が攻撃に耐え続けるという、単調極まりない仕組みで不評だったが、水増し式のレベルアップで、楽しく戦えるようになったことで、この施設は生まれ変わった。


 群魔初の黒字施設となったのである。あれからもう二年の月日が経過して、もうじき丸三年に、なろうとしている。時が経つのは早いなあ。


 と、感傷に浸っている場合ではない。来るミトラスとの決戦に備えて、ここには魔物の組み合わせを模索しに来たのだ。


 恐らくはミトラスもそうしているだろう。何やかんや地元の大会で二冠を果たした俺だ。そして相手は、その俺を一番良く知る人物。


 俺に対して個人的にメタを張れるというのが、彼の強みだ。逆にこっちには、ミトラスとの試合の経験はない。挑戦者への対策ができないのは辛い。


 で、あるならば、俺のやることは一つ。最初に普段とは異なる組み合わせを試し、知識と経験を貯めて、それを普段よくやる組み合わせに、還元する。


 そして相手の予想と対策の上を行く。これが王道って奴だな。


 それで勝てるよう工夫をするために、受付で利用手続きを済ます。休日でないと来れないからな、折角だし貯金もふんだんに使う。


「という訳で今日はよろしくお願いします」

「はい、ではごゆっくりどうぞ」


 受付のハーピーさんから営業スマイルを受け取り、コロッセオならぬトレセンのグラウンドへと降りる。しばらく待っていると、順番に現れる魔物たち。


「お世話になります」

『よろしくお願いします』


 先ずは彼らの組み合わせを考えよう。


「ええと、規定が六レベル相当の魔物だから、単純に考えて一レベルの魔物が六体使える訳だけど、ここは敢えて六になる組み合わせを考えよう」


 ミトラスとの取り決めでは時間無制限一本勝負で、用意するのは六レベル分の魔物。その範囲でなら複数用意していい。この六レベルというのはトレセンにいる魔物の上限を指しており、一番高いレベルの魔物を用意しろということだ。


 自作ランカーという訳である。


 ちなみに代表的な六レベルは、デーモンの剣闘士や戦闘訓練を受けたワイバーンなどである。


 この二者を組ませると非常に絵になるが、挑戦者はほとんどいない。何故って指名料が高いから。


「俺の用意しておいた奴とは、後で戦ってもらうとしてだ、先ずはハーピー、ペガサス、妖精さんの三人、出ませい!」


 呼ばれて三体の魔物が前に出る。ハーピーから順にレベルは二、三、一だ。何れも空を飛べる彼女らを、協力させることができたらどうなるか。


「ハーピーさんはペガサスに乗って、妖精さんは一番合う位置に移動したら、協力して空を飛んでみてください」


 言われて彼女らはその通りにした。妖精さんはペガサスの首に止まる。


 白馬がそろそろと駆け出し、彼にとっては狭いグラウンドのあっさり端まで到達すると、そのまま空中へと駆け上がっていく。こうやって空を飛ぶんだな。


 翼を打ち振るいながら、階段を上るように地を離れていく。その瀬に跨るハーピーと、妖精さんがぎこちなく羽と翼を動かす。


 初めのうちこそ、馬の走る速度で天駆けていたが、それが目に見えて加速していく。トレセンの上空を冗談みたいな速さで走り回るようになって、あわや墜落かという角度と勢いで戻ってくる。


「どうでした」

「これは、これは良いです、良すぎて良くないです」

「羽が千切れるかと思ったけど病み付きになりそう」


 馬が合う、ではなく羽が合うとでも言おうか。興奮冷めやらぬ彼女らは、比翼の快感と、新たな加速の体験で語ってくれた。うん、これは無理だな。


 予想を遥かに超える相乗効果で、レベル詐欺と言われる域に達している。


 ミトラスとの勝負には、使えそうにないし、俺が用意したやつも、相手になりそうもない。


「相性と訓練次第でもっといけると思うけど、そのうちレースもできるかな」


「是非、やってみたいですね」


 ハーピーの翼も種類があるし、ペガサスや妖精さんだって同じじゃない。是非ベストな三位一体を探して頂きたい。


「よし次。ジャイアントスパイダー、ウィスプ、出ませい!」


 今度は三レベル同士の組み合わせだ。人によっては失神或いは失禁しても可笑しくない、大型の蜘蛛と晴天の下でもはっきりと存在感を示す鬼火。


 蜘蛛の大きさは中型自動車並。


「あなたたちへの注文は簡単。そこの壁に向かって糸を吐いたら、ウィスプは先のほうに着火するか凍らせるかしてください」


 言われてその通りにする両者、ウィスプはゴーストの上位互換である。敬称略したのは、敬語を使うべきか判断がつかなかったからである。


 糸が張り付いた壁に火を付ければ燃え、逆に冷気を放てば凍る。どちらも使用後は糸の拘束は解けてしまうが、それでも動きを封じてから二属性の攻撃手段があるのは心強い。


「お互い付かず離れずの位置で連携をとること。いいですね」


 了承の意思表示なのか、大蜘蛛が前脚で頭上に丸を作り、ウィスプは一際大きく燃え上がる。これで強力な遠距離主体の、相手ができたな。


「次だ、ケンタウロス、イエティ、ゴブリン、前に出ませい! オプションで猟犬と鷹!」


 レベルの上では三と二と一。オプションは獣人を相手にする際に、選べるサービスだ。獣人は他の動物を使っての連携が、主な戦い方なので、数の上では五体になる。


「言わなくても分かると思いますけど、イエティの人はケンタウロスさんと組んでください、武器は好きな物を選んでくれて結構です。ゴブリンの方も同様」



 イエティは頷くとケンタウロスの瀬に跨り、その細長い体を小さく折り畳む。そして胴体よりもなお細い腕には、鉤棒と鞭、ゴブリンは石を沢山。


 この組み合わせ自体は、ジョージ族長から聞いたものだ。戦時中はこの集団が、戦場で矢を射掛けながら走り回るという戦法が、猛威を振るったらしい。


 馬が弓を使えるのはずるい。ゴブリンを加えたのは単なる思い付きである。とはいえ動物との連携もあってか、斥候としては優秀だったそうなので、騎兵のカバーにと思ったのだが、さてどうなるか。


「これで最後! エルフ、ドワーフ、リザードマン、出ませい! ていうかそれでいいのかお前ら」


 最後に呼んだのは、元人間現魔物の分類が、されたままの被差別種族の面々。


 自棄と悪乗りが高じて、ここに就職した彼らだが、もっぱら対人戦の枠で人気を博している。奇しくもRPGのお約束みたいな連中が揃ったな。ここに獣人と人間がいれば完璧だった。


 レベルは二で揃いである。純粋にチームワークで六レベル相当の力を発揮することを期待する。


「前衛、中衛、後衛と揃ってますね。よく打ち合わせの上で、ことに望んでください」


 こめかみを指で押さえて、頭痛を紛らわせながら、最低限の指示を出す。悪びれない彼らの笑顔が、些かうざったい。


「以上今言った四組と、俺の用意した奴とで交互に対戦してもらいたい。どうかお付き合いのほど、よろしくお願いします」


 そう言って、俺は後ろに手招きをして『奴ら』を呼び出した。俺の用意した六レベルの魔物。勝負の日程は三月最初の休みの日。後二週間ほどである。


 それまでに俺に出来ることは、ここでの戦いから、こいつを残る日数までに、仕上げることだけ。


 静かに深呼吸をして、改めて周りの魔物たちを顔を見る。


さあ、スパーリングの始まりだ。

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文章と行間を修正しました。

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