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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物のお金を増やすには
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・番外編 <流行の裏側>

今回長めです。

・番外編 <流行の裏側>


 ※このお話は市長視点でお送りします。


 おっす儂タカジン(72)! 前大戦での騎士団参謀にして、現在は神無側市の市長に収まっておる、デキル年寄じゃ。


 昔は魔物相手に、裏をかいたりかかれたりの日々を送っておったが、今はその魔物相手に遊んだり遊ばれたりの、充実した日々を過ごしておる。


 そんな儂が今日は何をするのか?


 それはこの晴れやかな空の下で、魔王の息子から受け取った、とてつもなく豪華な服を、周りの連中に余すことなく、見せびらかしてやるのじゃ!


「市長……あの、その恰好は……」


「んー? おやおやおやおや誰かと思えば、ギルバートくんじゃあないか! これかの? これは今日群魔区に改めて書類を渡した際に頂いてしまってのう!」


 儂の根城である神無側市役所、その会議室にいけ好かない青二才がのこのこと現れおった。こやつの名はギルバート。


 市の運営を話し合う、市会議員の一人じゃ。神経質そうな顔をした髪の薄いうらなりで、人としての美点が少ない男での、赤毛で薄毛とか、禿のほうがいいんじゃない? キミもう五十路でしょ?


「ああ、あの期日の欄が空白だったという……わざわざ市長自らのご連絡、痛み入ります」


「なになに全っ然構わん! おかげで儂はこんなに良い物を頂けたからのう!」


 事実この群魔区の新制服とかいう物、見て良し着て良し見られて良しと、非常に優れた衣服じゃ。


 普段は嫌味たらたらで、いつも儂の座を狙っておるこやつが、さっきから食い入るように儂を、いや服をみている。掴みは良いようじゃの。


「それは、魔物の服……ですか?」

「正しくは魔物の素材で作られた服じゃな」


 儂はその場で背を向けて、持って帰ってきた書類や荷物を、わざと探すふりをした。案の定後ろからの視線が強まるのを感じる。よいぞよいぞ。


「それはまた、どのような素材で」


「うむ、それについてじゃが、まとめた資料があったはず、どこだったか……確か魔女の髪を、布に変えたとかなんとか」


「髪の毛ですか? しかしこれはどうみても純毛だ、犬にしては短い、猫ほどの弾力ではない。それに色、毛を染めるなんてことは」


 うむ。ギルバートはケチで金に汚い男じゃが、それだけに金のかかっていそうな物には、感動する素直さがある。この市役所が殺風景というせいもあるがの。


 何せこの市役所は古戦場跡で、建物も廃棄された砦を使い回しておる。おかげで役場の人心が荒む荒む。


「毛は蜘蛛の毛だそうじゃ。魔物には愛玩用の大きな蜘蛛がおってのう。それに生えている体毛が、これという訳じゃ。良いツヤをしとるじゃろう? 軽いし手にも刺さらぬ」


「それで市長はお土産を持たされて、お帰りになったという訳ですか」


 ふむ、そろそろ気を取り直してきたようじゃな。

 よろしいならば本題じゃ。


「ああ、結構なお土産じゃよ。ほれ」


 儂はギルバートに、ミトラスから受け取った見積書と資料を渡した。そこには多少“盛った”工程とこの制服の金額。各自治体への売り込みと、事業としての安定性が丁寧に記されておった。


 これをこさえたのは、あのサチウスとかいう娘さんじゃ。素の態度はよくないが、仕事ぶりや気立てを考えれば、中々エエ娘さんじゃのう。


「新制服? なるほど………夏・冬型と四季型、一年通しはないんですね」


「そりゃそうじゃろう。君、今の制服を見た目で考えたことはあるかね? 一年で買い替える予定の、着た切りぼろぼろでみっともない奴。如何に安くて丈夫と言っても、儂なんか浮浪者同然でうんざりじゃ」


「それは、まあ」


「儂より若い君ならもっとじゃろう。あんな舐められるためにあるような服」


 魔法使いの老人なんか珍しくもない。見慣れれば後は貧相さが際立つばかり。年は取りたくないのう。


「確かにこれは値が張るがの、相手は儂ら公職じゃ。儂らは特別な服が着られて、群魔区は税金が払えるようになる。互いに得どころか、助成金が税金になって返ってくることを考えれば、丸儲けじゃわい!」


 これは本当じゃ。他の区の取り分が減るかもしれんが全体の収支が変わらなければ、儂らの腹は別に痛まない。所詮マネーゲームなんてパイの取り合いじゃ。


「ですがこの値段は、しかし、それに魔物が作るというのも」


「まあこれまでの意趣返しじゃろうな。こんなものが一日二日で出る訳もないから、相当前から温めておったんじゃろう。儂にはどうでもいいことじゃ」


 儂が魔物贔屓だというのは、戦時中から知られていたことで、それのおかげで魔王の息子が内応したというのが儂の功績。


 こやつも邪魔な人間よりは、邪魔ではない魔物のほうが良いという輩、邪魔なのはいつも体裁よ。


「払えるんじゃぞ。儂らはこれを、余裕で、買える」

「……………………」


 くくく。迷っておるわ。最上の物など、いくら武力があっても得られるものではないわ。


 こやつの権威を贅沢というエサで肉付けしてやればあとはもう虜じゃろう。


「儂は今夜の会議で、これを議題に上げようと思う。先ずは我々からじゃ。楽しみに待っておいてくれよ。ギルバートくん!」


 儂は彼の肩を軽く叩くと、その後痩せた足が棒になるまで練り歩いた。人目に付くようあちこちを。


 高齢者でもイカした服。これは後々まで生きる文化じゃと、儂は確信していた。


  *


 しかし儂の予想は斜め上の方向で裏切られた。


「馬鹿な!? これはどういうことだ!」


 儂は柄にもなく狼狽し、怒声を上げた。こんなことは今まで数えるほどしかない。


 原因は一つ。議会の満場一致による、新制服の否決じゃった。


「残念ですが市長。これが結果、民主主義ですよ」


「お、お主ら正気か!? こ、この服がいらんというのか!?」


 儂の声には誰も答えぬ。顔を背け沈黙する。鼻薬でも嗅がされたというのか、しかし理由がない!


「確かにその服は素晴らしい。買えるものなら幾らでも欲しいでしょう。ですが魔物の服です。我々がそれを着るのは、やはり風聞がよろしくない。まこと残念ですが、これは議会の決定です。よろしいですね? 市長」


「た、たったそれだけでか! それだけが理由か!」

「では会議を終了してください、市長」


 頭に血が上り、何も言葉が出ぬ。


 そして同時に群魔区の二人に、合わせる顔がないことで、焦りが生まれた。抗弁の隙も探せぬまま、その会議は終わってしまった。


 情けない。なんと情けない。


 歴戦気取りの呆けた爺が、好々爺のつもりで、浮かれ燥いだだけだったか。


「儂はこんなにも耄碌したのか……!」


 情けない。この顛末を報告した時の、二人の顔が瞼から離れぬ。せめてもの償いと儂がしてやれたのは、区外の客にも売れるよう、取り計らってやることくらいじゃった。


 寒い。人は気持ちだけで、こんなにも寒さを覚えるものか、戦時中でさえ、こんなことはなかったというのに。


「クソっ! あのときギルバートの小僧めが、邪魔をせなんだら!」


 あの会議から数日、儂は年甲斐もなく悪態を吐いて街を彷徨った。いかん、これではいかん!


 今日はもう酒でも飲んで、明日二人に詫びを入れ、善後策を考えてやらねば。あたら若い命に苦労ばかりさせられるか。


 それが同僚からの嫌がらせなら尚更じゃ。


「ヤッダー! 何これスゴーイ! 私こんなの見たことないんだけどー!」


 ……なんじゃ。こんな夜更けに若い娘の声がする。


「いやあ全然大したこと、あるけど、これは僕の気持ちなんだよマーサちゃん」


 ……どうやら男が彼女さんに、プレゼントでもしてやったらしい。


「ねえ! ちょっと着てみていい!?」

「あ、うん! ボク待ってるから!」


 初々しいのう。できることならば儂もああいう真似を、あの子らにさせてやりたかったものよ。空しい。しかし、この声どこかで聞いたような……


「ねえねえどうどう!? すっごーい、私純毛って初めて! 絹も使ってるし、デザインなんかもうすごいよね! これどこの新作?」


「実はね、役所で制服のコンペがこの前あったんだけどね。落ちたのがそれ。随分ふっかけて来たんだけどその分物はいいでしょ? だから買ってあげたの」


 うん? 


「へー! じゃあまだこれ全然出回ってないんだ! トモダチに自慢しよ! 者共控えおろー! なんて」


 なんじゃろう。儂この先見たらいけない気がする。そう思った際に、そう行動できないのが、老いたってことなんじゃろうな。


 儂の目の前を、新制服に身を包んだ、若い女性が駆け抜けていき、二回りは目上に見えるギルバートが、歩いて追いかけていく。見たこともない笑顔で。


 儂の脳みそは、戦時中でさえあり得なかった速度で回転を見せた。和服、若い女性、役所、ギルバート(既婚)、プレゼント、会議での否決。


「そういうことか!」


 儂は誰もいない通りで、思わず叫んでおった。群魔区の立てた計画では、各自治体が季節に合わせて制服を買うというもので、服もその時期に合わせて作るというものじゃった。期間も決まって、その時期だけは儲かるという仕組みじゃ。


 しかし言い換えれば、買う機会はそこしかない! あやつは確かにこう言った。『買えるものなら幾らでも欲しい』と!


 正式に採用されればそれはできない。可愛い女の子に貢ぐこともできない!


 なんということじゃ。これは完全に市政の私物化!


 しかしそれを見過ごせば、恐らくギルバートのような者が、どんどん和服を買うじゃろう。それはつまり群魔の二人が潤うということ。


 儂は悩んだ。同僚の汚職と不倫に目を瞑り、子どもらに楽をさせてやるべきか。


 はたまた正義を選んで泣かせるか。

 答えは決まっておる。


 五十路の不倫男を破滅させ、そのついでに若者たちを助ける。あやつの末路など儂には関係ない。加えてその過程で、少しでも幸せになる者がいるなら、それこそ本望じゃ。


 儂は今日のことを忘れるため、手近な酒場へと繰り出した。今日は美味い酒が呑めそうじゃ。


 舐めよってあの小僧弱味を握ってやったわ覚えとれぐふふふふふ!


「いらっしゃいませー」

「すまんがエールをくれ! うんときつい奴でな!」

「かしこまりましたー」

 

 思わぬことで、ミトラスとサチウスにも合わせる顔ができた。正義は必ず勝つ。


 やはり世の中、こうでなくてはのう!


 番外編

 ―了―

これで本当に2章は終わりです。ご一読いただきありがとうございました。

何故かすごく長くなっちゃったなこれ。


誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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