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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物のレベルを上げるには
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・現状把握

・現状把握


「という訳で、早速ですが仕事の説明をしますね」

「結局やるのか」


 意外に意志は固い。


 現在は昼過ぎ。場所は引き続き先ほどの、改めて見ると宮殿とも砦とも集合住宅ともつかない、古代の市庁舎とでもいうべき建物である。


 そして俺はミトラスに連れられて、別室へと来ていた。今気付いたが建物は外見に反して、中は現代的だった。やはり科学的ななんやかんやが、魔法に置き換わっているとかなんだろうか。


「サチウス。分からないことがあったら、どんどん聞いて。でも先に会議を済ませるから席に着いてね」


 こちらを見上げながら、チュートリアル的なことをミトラスが言う。なんだ? お前は村人か何かなのか?


 言われるがままに簡素な椅子に腰かける。安物の意味合いが、こちらと日本とで異なるのか、造りは中々しっかりしている。


「では只今より、第六回群魔区地域振興会議を始めたいと思います」


 ちなみにこの場所の名前は『群魔区総合庁舎』で、どうやら本当に魔物の役所らしい。


 文明レベルがだいたい剣と魔法の世界だけど、地域ごとに市区町村はあるらしい。まあ当然といえば当然か。開所時間は九時五時。


「知っての通り現在この群魔区は、今後の統廃合でよそに組み込まれ、消滅する危機にあります。ですが市長に泣きついた甲斐あって、課題をこなせばその予定を、先送りにしてもらえることになりました!」


「そうか。頑張ったんだな。偉いぞ」


 聞いてて悲しい気持ちになるが、この子の努力の成果だ。予定の解消ではなく、先送りというのが生々しい。


「えへへ……で、ですね。その課題というのがこれです!」


 そう言って一度室外に出ると、どこからか大量の書類を持ってきて、会議用の長机の上に並べ始める。羊皮紙ではなく綺麗な紙だった。なんでもこの世界では、詩人が小説を出版したりするらしい。


「他地域から群魔区への苦情の解消、財政の健全化、及び文化的実績の獲得」


「恥ずかしながら、今の群魔区は人間側からすれば、完全にお荷物です。金食い虫で、生活様式も外見も違うから、この統廃合を機に、僕たちを一掃しようという声さえあります。なんとかしないといけません」


「うーん。なんとかって言っても、これ本当に俺でなんとかできんの?」


 一介の女子高校生になんとかできる内容には、到底思えない。しかしミトラスは、妙に自信に満ちた様子で俺を見上げた。その表情がなんとも言えず可愛い。


「できるはずです! 僕はあなたを召喚するときの条件に、この問題を解決できて、僕たち魔物にも優しくしてくれる人って設定したんです! そしたらあなたが来てくれました!だから大丈夫のはずです!」


 うおっ眩しい。こんなにキラキラした瞳とか初めて見る! ていうか視線が文字通り熱い。日焼けしそうな熱さだ。期待が重い。


 せめて自分を疑うことくらいはして欲しいけど、正直ちょっとだけ嬉しい……。


「ちなみにこれ何時までにやればいいの?」


「いきなり全部は無理なので、とりあえず来月までに、どれでもいいから三つ達成できれば、今回の予定は先送りにできます!」


 尚、今日は一日の模様。しかし三つか。一度全体に目を通すにしても、まずは苦情の解決が最初だろうな。


「ここまでで質問はありますか?」

「他の場所に比べて、ここだけ俺のいた世界にそっくりなんだけど」


 そう、どのくらいそっくりかというと、人の姿こそないが窓口や部屋の内装、果ては電灯らしきものまであって、現代日本の役所そのままなのだ。おかげで混乱はしているが、パニックにならずに済んでいる。


「それは魔王が召喚したものだからです。魔王もまた召喚術が使えました。そして自分の欲望のために、異世界の住人を呼びつけては、技術を積極的に取り込んでいったのです。この施設もその一つで、とにかく便利です。他にも周囲に比べて異常に発展しているとか、場違いな物があれば、それは魔王軍の遺産と考えてください」


「それで、呼ばれた人は?」

「もう用済みになったから……」


 ミトラスが顔を背ける。そうだよな。人間だって拷問室を作らされた人物が、口封じに始末されたりするもんな。この件についてはこれ以上考えないでおこう。生活水準が保たれて良かった!


「俺の扱いってどうなるの? 生活とかは?」


「召喚獣は魔物の扱いですから魔物になります。生活のほうは、僕が呼び出した以上、僕が責任をもって世話します。あとで必要な物があれば言ってください。サチウスの世界から取り寄せますから」


 ペットか何かみたいな言い方だ。まあゲームでも召喚獣ってだいたいがその延長みたいだしな。自分がそうだと言われるとちょっと興奮するけど。


「他にありませんか?」

「俺たち以外の職員ってどこいるんだ? たった二人ってことはないんじゃない?」


「昔は四天王がいてくれましたが、私が勤め人になると皆離れて行ってしまいました。今はそれぞれの暮らしを送っています。」


 四天王……いるのか。所在が気になるが、彼らについては後で聞けばいいだろう。今聞くべきことは他にある。俺にとってはこれが一番大事な質問だ。


「最後に一つ。魔王の子どもって言うけどさ、それなら何でこんな平和的な生き方しようと思ったんだ?」


 親や他の魔物とやらと一緒に、分かりやすいモンスターライフを送っていてもおかしくない。


 というより暴力に長けた輩は、人間だってそっち方面で食っていくというのに、何故こんな状況に甘んじているのか。そこは知っておきたかった。


「なんでって……」


 ミトラスはきょとん、としていたが意味が通じたのか、静かに目を閉じて俯いた。表情は分からなかったが、覗き込んで確認しようとは思わなかった。


「僕がいくら強くても、仲間も友達もできないんだもん」


 言い終えると、ミトラスは困ったような笑みを浮かべたが、その目はとても寂しげだった。


「さ、今ので質問は終わりですか? それなら今日はこの辺にしておきましょう! あなたも突然のことで疲れているでしょう? 寝る部屋や食事の案内もまだですしね」


「うん、そうだな」


 話を切り上げられてしまった。けど分かったことがある。こいつもぼっちだ。俺が召喚された時の条件を思い出す。『僕たち魔物にも優しくしてくれる人』という言葉。


 仕事とは別に、俺には別の何かが求められていることは、なんとなく分かった。けどそれが、『誰』になるのか。そこまではまだ分からなかった。


 いいや、今はまだその時じゃないだろう。俺を疑問を棚上げして、会議室を後にした。

投稿にあたりミスがあり大変申し訳ありませんでした。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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