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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物と積荷を運ぶには
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・マップを広げよう

・マップを広げよう


 第十九回群魔区地域振興会議は、何時にも増して変則的な議題を扱うこととなった。


 俺たちの声が揃う場所はいつもの会議室。開け放たれた窓からは、金木犀の香りが微かに漂ってくる。


 ここだと違う名前だけど、似たような花はどこにでもあるものだ。


『神無側の再開発計画』


 告げられた内容を二人でオウム返しに呟いていた。夏も終わり冬服に衣替えしたことで、俺とミトラスは少し着膨れている。


「然様。今のままなら市民は十分幸福じゃが、人が増えれば、嫌でも不幸になりおるからの」


 死ねばいいのに、と市長は舌打ちする。

 おい爺さん。


 この物騒なことを呟く彼の名はタカジン。神無側の市長を務める人物。人間側から見ると魔物よりの危険人物であり、こちらから見ると頼もしい存在である。


 そんな彼が神無側内の土地の再整備について、打ち合わせがしたいと言って来た。例により俺とミトラスが応対して、話を聞くこととなる。


 お茶をお出ししてから、席に着かせて頂いてと。


「ありがとうサチコくん。夏休みはどうだったかね」


「おかげさまで楽しかったです。市長も来ればよかったのに」


 夏休みの間、ミトラスが再三一緒に遊ぼうと誘ったのだが、おじいちゃんは『若者だけで楽しむといい』と言って聞かなかったのだ。変なところで頑固だ。


 それでもミトラスは、個別に訪問したらしいので、気不味いということもない。


「いやいや、この年にもなるとな、遠慮が美徳になるものじゃよ。話を戻そう。この神無側市は、一見広く見えるが、北東部と東部はあまり人が住んでおらん」


 この神無側はゲーム的にはマップを九分割できる。この場合は右上と右のことだと考えればよい。


「あれ、でも前に群魔が独立するときに、他の区は統廃合の課題を、乗り越えたって」


「うむ。あれはお主たちが増長せぬよう、戒めるために用いた方便じゃ。この二つは乗り越えられず廃置を検討した末に、消滅となった。統合するにはあまりに無益じゃったからの」


「おい」


 一応人員は引き上げたようだけど、とんだ狸爺だ。そうなると残っているのは五区しかない。ここで一度現在の神無側の地理を、おさらいしてみよう。


神無側かながわ


 九分割マップの全体のことで、中央には同名の区がある。右側と上を海と山に覆われており西側、つまり左側と中央以南は平野部が多い土地である。


 川も豊富で水に事欠かないが、水害にもまた事欠かない。未だに全容を把握していない、この大陸の端にあり、王都ともミトラスの実家である魔王城跡地にもそれなりに距離を置いている、はず。


 魔物を住民として認めている街の中では、最大級の規模を誇るけど、他の市区町村に接する交通面での不便さが仇となり、交易能力はそれほど高くない。


群魔ぐんま


 ご存知我らがホームグラウンド。マップ下段を占める魔物の巣窟。同名の群魔町はその中央に位置する。名前に反して自然が豊か。


 最初はここ以外何処にもいけなかったがそれも昔。今では両隣の区を併合し、面積的には市内でも神無側区と互角かそれ以上。魔物たちは市内に限り、好きな場所で働けるし移動も可能になったのだが、どっこい住処は群魔に限るという枷は未だについている。


 魔物由来の紡績業や、人間が魔物と戦える、トレーニングセンター、異世界へと旅立てる行政サービス『続きの扉』など他所にない強みがあり地力は高い。


 最も魔物が入り混じる地域でもある。装飾品の生産も盛んだ。国内で唯一魔物の病院が有る。


妖精ようせい


 旧名『屠殺とっとり区』。マップで下段左側で群魔町の隣。元々本当に何もない平地だったが、ウィルト設計の風力発電所により人が住めるようになり、風力発電所により滅んだ街。


 現在は脱風発を掲げて、地道に土地の開発を進めている。竹林を植樹の後、酪農と畜産を計画している。また、妖精たちが運営する学校があり、新校舎を建設してから、生徒主体で様々な商業活動を開始するようになった。


 朝には風雅な音楽が聞こえてくると、住民からは概ね好評だ。妖精サイズの服装と和笛の数々は、ここでしか手に入らない。主に住んでいる魔物は、エルフやドワーフといった『元人間たち』である。


竜人りゅうじん


 旧名『偽腐ぎふ区』。マップで下段右側で群魔町の隣。害獣によって荒らされた港だったが、それも今は無事に解決。バスキーの活躍もあって、人魚を始めとした水棲系の魔物が、多く招かれ急速に復興した。漁業は市全体の大きな力となっている。


 試験的に塩に耐性のある植物の、研究と栽培が行われており、近くの島嶼地域には冬になると、翼竜ワイバーンと大梟ストリクスが越冬にやってくる。


 彼らの卵の殻や羽毛は、冒険のアイテムの他にも、寝具にはもってこいで、一部の好事家の間では、高額で取引される『お宝』である。また、この街の目玉としてジャイアントクラブがある。年に数匹しか解禁されないが、その人気は既に絶大。


河川かがわ


 マップ中段左側、妖精町の上、兵業ひょうご区の下。水どころとして有名らしく、市内のお酒の出所といえばまずこの河川区であり、特産品でもある。


 川と森林に覆われているが、よく整備されており、景勝地としても力を入れている。最近は貴族や豪族が引っ越してきたという噂がある。他には俺と同じく、異世界から来た妖狐が営む、魔法教習所がある。他の教習所に比べて、魔法に目覚める段階がとても早く、負担も少ないので人気のようだ。


 湿地帯があり、群魔に属さない野良の魔物たちが、暮らしている。俺にとっては、最も多くの知り合いがいる場所だけど、色々あってここに近付きたくない。


神無側かながわ


 マップ中央に聳える人間の街。とにかく人間だっていうことで、威張り散らかす嫌な輩の多い街。それが神無側。特に特産名産も無いくせに、他の地区の力関係でそういう態度だから、性質が悪い。


 とはいえそれだと流石に不味いので、市長タカジンがお役人たちを、良く働かせるため、行政能力は非常に高い。中心都市とはいえ、市全体のインフラの整備や管理をできる自治体は、他に幾らもないだろう。


 とてつもない醜聞と共に、一度滅びているせいか、世の中の評価はあまり良くない。砦を使い回した役所も一応観光名所ではあるが、機能的でない。住民たちの能力こそ高いが、性状は高慢でしかも迂闊なので、色んな意味で危険な街である。


兵業ひょうご


 マップ上段左側、河川区の上、広死魔ひろしま区の隣。河川区よりも多く川が流れ込み、非常に入り組んだ住み難い街である。そもそも陸地が少ない。冒険者ギルドがあるものの、いるのは仕事があってもやらない冒険者もどきや、崩ればかりだった。


 しかし最近は意欲的で友好的な獣人たちが、数多く登録をして彼らを叩き出したので、以前よりも治安が改善している。何かご依頼の際は、冒険者ギルドへ。猿系獣人たちが迅速に対応してくれることだろう。


 特にこれといった産業はないものの、獣人たちが掘り当てた温泉とその宿『大勢湯』のことを聞きつけ、やってくる旅行者も増えているようだ。


広死魔ひろしま


 マップ上段中央、兵業区の隣。霊峰『屍招しまね山』とそこにある古代遺跡『オカヤマ』を擁する、霊廟都市である。市内最大の共同墓地を有しており、人々の埋葬先を一手に引き受ける、終の住処である。


 経済的な貢献度は皆無だが、山と墓でどこからともなくやってくる、アンデッドを食い止めること、墓に眠る凶悪なアンデッドを封じ込めること、この二つの地味に重大な使命を負っているため、予算配分は優遇されている。


 墓の管理者は魔物が務めており、近隣住民から反発を受けることが予想されたが、種族が死神ということで逆に全幅の信頼を得ることとなった。余談だがこの死神のように、訳有って群魔以外で暮らすことを許されている魔物は、そこそこいる。


「こうして振り返ってみると、うちが関わってるとこがほとんどだな」


「ていうか、河川を除けば、うちが立て直したようなものですね」


「今更言い訳はすまい。その通りじゃ」


 市長が顎髭を扱きながら頷く。器用なことを。


「それで、この神無側区の右隣りと右上を、何とかしたいと」


「そうじゃ。その辺のことについては、話せば長くなるんじゃがの」


 そう言うと、市長は二つの場所について静かに語り始めたのだった。

新章開始となります。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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