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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物と休みを過ごすには
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・サチウス、休みを得る

・サチウス、休みを得る


「うおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 間。


「夏休みだああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「サチウスうるさいです」


 はい。すみませんでした。夜中に大声出したらいけませんね。昼間でも自室でも、大声出したらいけませんね。


 時は八月。去年は妖精さんたちの学校を、建て直すことに時間を取られ、夏休みを過ごすことができず、有給休暇も消化できず仕舞いだったが、その未消化分と今年の分を合わせて八月! 丸々! 全部に休みを取ってやったぞ!


 許可してくれたミトラスには頭が上がらねえ!


「それに関しては雇用者である僕の調整能力の落ち度ですから。仕方ないですよ」


 でも嬉しくはなさそうだった。ごめんなミトラス。俺一人ではしゃいでも意味ないよな。この世界じゃ同人イベントも何もないから、一ヶ月休みがあっても、予定なんか何一つ立たないし。


 勢いで取った休みをどうしたものだろう。


 四天王もそれぞれ休みを取って、最後は皆で竜人町に海水浴に行くことが、決定しているから、それまでの期間をどう過ごすかだな。


 これが昔懐かしの恋愛アドベンチャーなら、一夏を一人の攻略対象に注ぐことにより、カップル成立となるのだが、生憎俺にはもうミトラスがいるから、これも無意味なんだよな。


 となれば他の主人公に、ヒロインの現在の好感度を教えるポジションに移るべきか。


 いねえよそんな相手。


「うーん、まいったな。折角の休みだけど、どう過ごせばいいのか、分からないぞ」


「誰かを誘って遊びに行ったり、でなきゃ誰かの家に遊びに行ったり、すればいいじゃないですか。折角の休みなんだから」


 その手があったか。友だち付き合いとはご無沙汰してるから、その発想は無かったなぁ。


 なんやかんやでこの世界では、知り合いや友だちはできたけど、仕事に追われたり同棲したりで、出向くということを、考えられなくなっていた。反省。


「四天王の皆だって、海に行く日以外は休みをずらしてるんだから、彼らと過ごしてもいいし、僕と出かけてもいいんです。これまで出会った人々の所に、ご挨拶も兼ねて、訪ねてみるのも一興でしょう」


 これまでに出会った人々か。けっこういるな。確かに全員分を回るとなると十五日くらいかかる。小学校の頃に、友だちが沢山いる子が、夏休みの宿題の自由研究で『毎日違う友達と遊ぶ』ということをやってのけた剛の者がいたな。


 俺はその中に入ってなかったけど。


 誰かの元に遊びに行く、か。

 考えたこともなかったな。


「そんなことして迷惑じゃないかな」


「やだなあ。迷惑にならないよう、事前に連絡するんじゃないですか。当然でしょ」


 ミトラスがあまりにも眩しい笑顔で正論をぶつけて来る。かれこれ二年以上、付き合いがあるけど、彼にこんな形で傷つけられるとは、思いもよらなんだ。


 そうだね、当然だね。俺そんなの分からないよ。


「予定を立てるにしても、相手に連絡自体がつかない場合もあります。その辺も考えて、動いたほうがいいですね。もし良かったら手伝いましょうか」


「いやいい。それは流石に勘弁して」


 そんな友だちを遊びに誘うのに、母親に電話してもらうような真似はできない。いくら俺でもできない。


 残念そうなミトラスだけど、ここは妥協しても堕落してもいけない線なんだな。


「となるとだ、先ずは誰に連絡を取ろうかな」


「ユグドラとギンボン先生は、二週目に休みを取るみたい。四天王は一週目が先生。二週目がディー。三週目はパンドラが順に、休みを半分取得しますね。バスキーさんは毎日がお休みみたいなものだから」


 あいつ本当に羨ましい生態してるな。


「それで八月の終わりに、皆で海に行くことになってるから。あ、そうだ。サチウス水着買った?」


「え、みず、水着って、なんだっけ」


 学校の水泳の授業で使う奴だよな。何で水着だ?


「いや水着は水着だよ。サチウスも泳ぐでしょ。僕も楽しみにしてるんだから、ちゃんと忘れずに用意しておいてね」


 泳ぐ。俺が。この体で。俺の予定だとミトラスや、ウィルトの半裸とか、他の魔物たちが楽しくしているのを見て俺も、楽しい気持ちになる段取りだったんだけど。


 何で俺まで水着になるんだ。


「鈍いなあ。僕だって男なんだから、その、見たいってことだよ」


「え、あ、うん。ありがとう」


 ああやばい。


 もう結構な間一緒に住んでて、ちょっとやそっとのことじゃ、動じなくなってきたはずなのに、今のはかなりぐっときた。


 下を向いて、むっとしながらちょっと赤くなって、上目使いにこっちを見て、目を逸らした。


 一発で潤ったなあ。


「えと、じゃあ、頑張って、選んでみるよ」


「うん。僕も、なるべくちゃんとしたの、買ってくるから」


 そんな無邪気な笑顔を向けないでくれ。それは確かに生き物として、ポジティブであるべきことだから、間違ってないんだけども、その期待には顔から火が出そうだ。


 嬉しいけど、ミトラスはいつも好意を真っ直ぐに向けてくるから、苦しい。でも、我ながら嫌じゃないのがちょっと悔しい。


 しかし月末まで時間があるとはいえ、これで引くに引けなくなってしまった。いいや、こういうのは知り合いの女性陣に相談しよう。


 そうだそういう名目で遊びに行こう。そうしよう。


「じゃあ僕はもう寝るからね。おやすみ、サチウス」

「あ、うん。おやすみ。ミトラス」


 就寝前の挨拶をして、彼は部屋へと帰って行った。よし、俺も寝よう。


 でも、まさか俺が、男のために水着選びをする日が来るなんてな。


 嬉しいような恥ずかしいような、幸せだなあ。これは来てるな。去年お預けを食らった分の反動が。


 ――と、このような感じで今年の夏は、いつになく平和且つ、穏やかな滑り出しを見せたのだった。


 なんとか腹をもう少し引っ込めないとな……。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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