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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物と名前を名乗るには
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・コネを頼ろう

・コネを頼ろう


 それから更に数日後の朝。


「子どもが出来たら晴れて人間、王侯貴族の仲間入りだけど、駄目ならそのままってのも、大概ふざけた話だと思うよ。でもさあ。それはそれで王様の不甲斐無さを露呈させるだけだから、単純には責められないような気がするんだよなあ」


 双方要らん恥と傷を負い、黒歴史が増えていくだけだろう。そう思って愚痴を零しつつ、俺はいつもの会議室で今度の『どっきり』の段取りを見直していた。


 冷静になってこの一連の出来事で誰が悪かったか、という点を踏まえもう一度見直してみると、宰相の何一つフォローになってない、フォローのせいだということに行き着いた。


 それもそのはず。余計な圧力と介入さえなければ、王様の子作り連敗記録ってだけのことで済んだのだ。


 口止めの為に労力をかけ過ぎたってこと。そして実際に王様をターゲットにすると、大仰になりすぎる。


 身の危険を考えると、その宰相に『どっきり』を仕掛け、その時の様子を出来る限り周知するのが、せいぜいだろう。


 少なくともイヴさんが脅された分の報復は、してもいいだろう。


『あんなにいた』嫁さん候補たちも、婚前交渉と結婚の条件については同意していた分、そこには何も言う資格はないが、やはり圧力をかけられた分や、種族が受けた不利益くらいは、取り返してもいいだろう。


 一応群魔としても、魔物に悪意のある偉い人なんていないほうが、助かるっていう動機もあるしな。


 国の為とはいえ汚れ仕事をして来た訳だし、こっちの良心も痛まないのがいい。


「いやあ、陛下もお可哀相だと思うよ私も! やっぱり持つべき物は良い伴侶と部下ね!」


 俺の横で活き活きとしているのはワイニン・グラトス(二十九歳)。王都有数の貴族にして、屈指の穀倉地帯『六原』の一つを納める豪族のドワーフを旦那さんに持つ、アル中女だった。


 赤髪赤目に赤いシャツと赤いズボン、赤い革靴と赤尽くめ。妊娠三ヶ月。


 今回のどっきりを仕掛けるに辺り、現地の様子を映像に映せるよう、ウィルトによって改造を施された分身パンドラを、設置することになっている。


 場所は猿系獣人の集落の他に、王都にも置いてより沢山の人に目撃してもらったほうが、却って安全なのではないかという、タカ爺の提案により、そのようにすることになった。


 そして俺たちを王都へ手引きしてくれそうな伝手を辿ってみたところ、浮上したのが、ワイニンしかいなかった。


 人妻になっても敬称を付ける気が全く起きないアラサー貴族。かつて自分の縁談で、相手先のお家騒動の火種となり、その後色々あって、うちに襲撃をかけて来た奴だ。


 そんな彼女を頼るのは非常に嫌だったが、神無側市内で働く、彼女の旦那さんを通して、話を持ちかけたところ、二つ返事で承諾。直々に足まで運んでくれたのだ。


「私って基本勝ち組みの轍から外れたことないし? 旦那もいて子どもも出来て領地経営も順調だから陛下の重責なんか分かってあげられないけど? でも何かしてあげたいって思ってあげるのが貴族の使命っていうのかしら! ングハハハ!」


 汚ねえ笑い方だな。完全に調子に乗ってる。この人は兼ねてより、真面目に仕事をして貴族を厳重に監視してくる宰相を、煩わしく思っていたらしく、この機にノリノリで便乗したのだ。相変わらずの下種さ。


「他人の臣下でも不調法があれば、嗜めてあげるのが人の道よね! 私ってお節介焼きね! あ、サチウスさん、そのお酒アメとって」


 彼女にとっては宰相をコケにできる機会が入手できるならそれでいいらしい。


 そんなことだから二号さんで、子どもが出来たのに旦那さんが、一号さんの元を離れないんだよ。


「本当に禁酒してるんですね。いや減酒でしたっけ」

「急に切ると危ないからね、少しずつ減らしてるの」


 依存症はいきなり摂取量をゼロにすると、禁断症状起こすからな。俺は机の上の酒瓶に入っていた、小さな飴玉を数粒取り出すと、それをワイニンに渡した。彼女はそれを即座に噛み砕いて飲み込んだ。


「それで、私は当日あの箱を、街の要所にばら撒けばいいのよね」


「ええ、その後で『彼女たち』が標的と接触して行動を開始すんのね。護衛の依頼って名目で、大量の冒険者と一緒に」


 そう、イヴさんのような境遇の女性っていうのは、結構いた。


 人型の魔物に限られたけどエルフ、ドワーフ、デーモン、獣人、人魚、人間に限らず頑張って手を出したものだ。獣人と言ったって俺の目から見て、人間にしか見えないような種族にも、粗方手を出している。


 この元・嫁候補たちの存在は、ミトラスの各種族への地道な聞き込み調査により、判明した。


 こと魔物からの信用において、彼のカリスマは未だ衰えていない。それどころか気付くのが遅くなって、申し訳ないと謝罪まで入れるので、逆に妙な期待までされる始末。


 人徳がカンストしているってのも考え物だな。

 あくまで魔物に対してだけど。


 とりあえず彼女たちには当日一度、群魔区区役所に集まって頂き、転移魔法で一斉に王都に乗り込んで、宰相に詰め寄るという手筈になっている。


 その際にパンドラ(オリジナル)を同行させて、現場の光景を、他の分身に中継させようということだ。


 こんなことをして全員打ち首にならないか心配だったが、数が数だし事案が事案なので、明るみに出したほうが安心だとのこと。


 タカ爺は本当に後ろ暗いことに明るいな。頼りになるけど経歴については、詮索しないようにしよう。


「それで『夫を出せ!』って? お~怖い」


「いや、更にもう一つ捻りがあるんですけどね。安全面を考慮して」


 これはまだ秘密だが、有ると無いとで説得力が違ってくるんだそうだ。途中から四天王の皆が嬉々として参加する辺り、女性問題ってどの世界でも、安定した話の種なんだな。助平共めら。


「確認しときますけど、決行は労働審判の最終日ね。市長が裁判所から、宰相と一緒に出る。終了は正午の予定。それまでに都内で人の集まる所に、パンドラを設置しといてね」


「任せときなさい、要は運送でしょ。面白くなってきたじゃないの!」


 腕を組んでふんぞり返るワイニン。前より胸が大きくなっているような気がする。背は伸びてないけど。


「ご協力ありがとうございます。あのさあ、協力してもらうのに、こんなこと聞くのもアレなんだけど……やっぱり旦那さんとは、上手くいってないの?」


 一応お礼を言ってから、俺は気になっていたことをワイニンに尋ねた。彼女は静かに顔を逸らした。


 分かってはいたけどね。


「悪いこと言わないからもうちょっと寄りを増やせるように頑張ったほうがいいよ。貴族だって離婚するときはするんだからさ。家族仲が悪い家で育った子どもは家を潰すよ」


 俺の場合は勝手に潰れたけど。自分で言うのもなんだが、女は悪い方面で反省したり心を入れ替えたりすることは出来ても、悔い改めるという点に関しては位相が異なる。無理だと言っていい。


 だからまあ無理を承知で忠告をしてみてあげる。


「あのね、サチウスさん。私は頑張っているんだよ。なのになんで皆、私に冷たいのかな」


「頑張ってればどんな態度で誰に何してもいい訳じゃないから、ですかね」


 そのやり取りを最後に、ワイニンは何も言わずに、帰って行った。思う所はありそうだけど、これは望み薄かな。


 そんな風に思いながら、俺は彼女の背中が見えなくなるまで、見送ることにした。


 うん、やっぱり俺は、子ども欲しくないかな。

 上手く言えないけど、そう思いました。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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