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魔物のレベルを上げるには  作者: 泉とも
魔物と名前を名乗るには
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・女子会(二人ババ抜き)

・女子会(二人ババ抜き)


 ウィルトが持って来た王都からのお触れによると、羊皮紙の内容は猿系の魔物及び獣人を、人間は元より魔物としても、扱ってはいけないということだった。


「獣人って全部魔物じゃないの」

「どうもそれが今回の騒動の原因らしいのよね」


 俺はディーとババ抜きをしながら、今回の御達しについて話していた。基本的に二足歩行の人型で、それぞれ他の獣の特徴が出ているのが獣人だが、その範疇は広い。


 何せ手足が鳥のハーピーから、豚や猪みたいな人間のオークまで、一括りにしてあるのだ。


 余談だが今回の彼女の服装は、何故か旧日本軍の陸軍士官のような軍服である。日本だけどこれもう和服じゃないよな。外套も相俟って格好いいけど、筋肉のせいでぴっちりしてて、今にもはち切れそうだ。


「また変な話だな」


 元の世界で例えて言うなら、アメリカ人をまとめてアメリカ人と表現するようなものだ。


 無理がある。その中で猿のみを狙い打ちにしたのは何故なのか。


「これまで別の人種として扱っていた民族が、魔物なのではないか、とのことなのよ」


 つまり、人と猿の区別が付かなかったのか。詳しいことは目下審議中で、彼らが魔物か人間かを決めかねているから、社会的な身分を取り上げて、一旦猿に戻そうということらしい。乱暴過ぎる。


 人間は人間との境目にいる者を、基本的には人間にしないものだが。


「魔物に戻すだけでいいだろうに。で、その人間と勘違いされていた猿の魔物たちが、人間扱いされていた獣人ということかい」


 ババを引いて、残ったほうも引かれて、結局ディーの勝ち。二人ババ抜きの不毛さと、そこから来る単調さは、考え事をするのにぴったりだ。


 数を書いた紙さえあれば、世界を選ばずできるのもいい。


「そういうことみたい。人間の厄介な所は人間の顔をしていない者が、たまに生まれることよね」


「悪気はないんだろうけど、それ他所では絶対言わないでね」


 危険な発言を流しつつ再びカードを配る。またババが俺の所にいる。


「うちって獣人はそんなにいないんだよね」


「多くは自分の群れで暮らすもの。こっちが棲家を整えない限り、中々寄り付かないわ」


 それこそミトラスが言っていた、生活衛生の問題などもある。体毛の少ない、あるいは抜け難いといった獣人でもなければ、街暮らしは難しい。


 人間に比べて大家族(群れ)で、生活していることも少なくないから、住む場所も広く、大きくないといけない。病気の問題もある。


 そんな訳で、群魔には抜け毛の激しい獣人はあまり住んでいないのだ。


 中には群魔区の外で、人を化かしながら平然と魔法の教習所に勤める、お狐様なんかもいるけど、アレは例外だ。


 うちにはまだ猿の魔物はいない。それは住民の戸籍を整理したり、トレーニングセンターに所属している魔物の一覧を、確認したりした際に分かっている。


「でもそうなると、ミトラスはなんであんなに青い顔をしてたんだろう」


 さっきの彼の顔と声は、心臓に悪いものがあった。一目で悪いことがあったと分かるもので、部外者なら離れ、身内なら下腹の辺りに、熱さと冷たさを両方一度に覚えるような、深刻さだった。


「たぶん、うちに入りたいっていう猿の魔物の相談でもあったんじゃないかしら。兄さんは今でも、魔王軍時代の魔物たちと、交流があるから。うちに所属してなくて、生活に困ってる魔物にも、声をかけてるし」


 群魔区の住民は、概ね魔王軍時代の平和主義者と、人間から人間のタグを外された者たちとで、構成されている。


 ミトラスはその中でも、ここの外に住んでいる魔物たちを招くべく、頑張っているのだ。


 これを営業とかリップサービス呼ばわりするとビンタを食らうし、本気で怒られるから俺は二度と言わないし、今でも悪かったと思ってる。


「ということはだ、うちで住民登録の手続きを今まさにしようとしている相手に、止めてくださいと言いに行ったってところか。自分から誘った相手を」


 ディーが溜め息を吐いた。肯定と見ていいだろう。これは確かに大変なことだ。


 こちらに落ち度は全くない。完全なとばっちりだが現実に被害が、発生しようとしている。


 どっちに?

 双方に。


 法律が通ったからとか制度が変わったからなんて、無責任な報告だけで現場が一斉に従うなら、住民訴訟は起きないのだ。


 この場合腕力に訴えられるのが一番怖い。魔物が魔物の信頼を失うことは、人間が人間の信頼を失うこととは違うのだから。


 後者は上の者が下の者から、どれほど信頼されなくなっても割と平気なのに対して、魔物は人間に比べ、生物としての連帯や協調が強い。


 そしてそれだけに信用が失われることは、交流そのものが途絶えることにも、繋がりかねない。


 加えて断絶したことで、孤立した魔物たちが、増々苦しい立場に置かれるであろうことは、十分あり得るのだ。


 平和に見えても斯様な弱点を群魔、引いては魔物たちの社会は抱えているのだ。曲がりなりにも俺も勤めて三年目だから、この辺のことは何となく分かるようになったぞ。


「神無側の中で、猿系の獣人が住んでる場所が、どこか分かる?」


 分布を把握したくて尋ねると、ディーは俺の手に残された二枚の札のうち、一枚を引いた。


「ちょっと待って、上がり。今地図を出すわね。ええと、獣人たちの居住区は……ここね。兵業(ひょうご)区。河川(かがわ)区の一つ上、うちにいない獣人たちで神無側市内に住んでいるとなると、他にはこの前に行った広死魔(ひろしま)区ね。後は点々としているわ」


 また負けた。とにかくこれでミトラスの行先が絞れた訳だが、生憎と転移魔法が使える人材は、残すところウィルト一人だ。


 何方かに行ってもらうとしても、無駄足になるかもしれない。


「おや二人とも、丁度良いところに。これからお客様がお見えになりますので、お茶と案内の用意をお願いします。急いでください」


 考えあぐねていると、部屋の入口へと差し掛かったウィルトが、俺たちを見つけるなり、そう命令した。


 お客。この流れで。


「猿ですか」

「猿です」

 猿だった。


 俺とディーは紙束を片付けると、これから来るという猿の来客を出迎えるため、慌てていつもの会議室を後にした。


 そういや猿って何かアレルギーとか、食べられない物ってあったっけ。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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