#09
「……ねぇ、岳」
白石のもとを離れ、席に着いた途端、希帆が俺のもとに来た。
「どした?」
「宿題……見せてくれないかな……。終わんなくて……」
「おお」
わりと真面目な希帆にしては珍しい……でも、まぁしょうがないか。
「はいよ」と宿題になっていたプリントを渡し、希帆はトボトボと席に戻っていった。
*
「……おい、晴人」
俺は、休み時間廊下に出ていた晴人に声をかけた。
理由は、ただひとつ。
晴人は、「よぉ」なんて言って、俺のもとへ来た。よく、そんなに普通にしてられるな。
「……夏祭り楽しかったか?」
「おぅ!まぁな~」
晴人は、楽しそうに笑った。希帆の気持ちも知らないで。だが、その顔を、一瞬で変えた。
「……なに?希帆と行かなかったから怒りに来た?」
「っ!?」
突然の晴人の言葉に息を呑む。
「岳が俺んとこ来た時点で、大体わかってたんだよね~。案の定、夏祭りの話し始めるし」
「そうか。なら、大正解だな。何で希帆と行かなかったんだよ」
「理由は簡単。行きたくなかったんだよ、希帆と」
そして、晴人はゆっくり俺の近くまで歩んだ。
「……俺さ、他に好きな子いんの。確かに、希帆は小さくてちょこちょこしてて可愛いよ?だけどさ、ちょっと重いよね。俺のこと好きなのバレバレだし。何で、俺は希帆のこと好きじゃねぇのに誘わなきゃなんねんだよ」
「……っ」
返す言葉がなかった。晴人の言ってることも、一理ある。けど―…
「……だからって、ドタキャンはひでぇだろ」
「だーかーらー……」
晴人は、呆れたといった様子で続けた。
「……俺は、由梨音が好きなんだよ」
桃園由梨音―…
THE・女子って感じの奴で、陰口は勿論、男遊びも酷いそうだ。まさに、晴人にピッタリの女子だと俺は思う。
「でさ、岳って希帆のこと好きだろ?拐っちゃってよ、王子様?」
晴人は、ニヤッと笑ってふざけたように言う。悔しいが、晴人は何でもお見通しのようだ。
「……そ。じゃあ、今後希帆に近づくなよ」
「言われなくても」と言って、晴人は教室に戻った。俺は、その後ろ姿を見つめた。
「……岳?」
俺の名を呼ぶ声に、肩を震わせる。
「希帆……」
「これ……。宿題、ありがと」
「おう」と言って希帆から自分のプリントを受け取る。
「……ねぇ、岳」と、希帆は話し始めた。
「……晴人君との事、気にしなくていいよ」
「は……?」
「さっき、晴人君と話してたんでしょ……?私は、大丈夫だから」
「大丈夫って……全然大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫だって。余計なこと、しないで……っ」
そう言われてしまったら、何も言えないし何もできない。
“余計なこと“か……。俺は、希帆の為にやってるつもりなんだけどな。