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初恋は実らない  作者: 柏原ゆら
*Disappointed Love*
8/18

#08

*


「……希帆?」


誰かに名前を呼ばれた。ここは、どこだろう。宛もなく走った私は、その声で顔を上げる。そこには、両手にスーパーの袋を持った岳がいた。


「岳……」

「ここで何してんだよ?夏祭りは?晴人はどうしたんだよ?」


私は岳の質問に答えることなく、その場で再び涙を流した。


「ちょっ……なに泣いてんだよ……」


岳は私のもとに駆け寄り、頭をポンポン撫でた。


「……おばさんいる?」


そう聞かれ、私は首を横に数回振った。

そして、私の手首を掴み岳の家に連れ込まれた。

私、自分家まで走ってたんだ……。何も考えずにひたすら走ったから、なんか疲れたな。

岳に岳の部屋まで導かれ、「座れ」と言われ床に座る。そして、岳からお茶の入ったコップを渡された。


「……晴人は来たのか?」


正面に座った岳は、お茶を一口飲み聞いた。

私は、再び首を横に数回振った。


「来なかった。一時間待っても……で、街中を歩いて探してたら、女の人と歩いてる晴人君見つけて……」

「女の人……」

「すごく綺麗な人だった……。晴人君の彼女に、ピッタリの人だよ……」


また涙を流す私の隣に岳は座り、また私の頭を撫でた。


「……まだ、彼女とは決まってねぇじゃん」

「間接キス……してたもん……」

「晴人の一方的な片想いかもしんねぇじゃん」

「そうだとしても……もう、私には振り向いてくんないよ……」


それ以上、私も岳も何も喋らなかった。

しばらくすると、車が停まる音が聞こえた。音からして、私のお母さんだ。


「お母さん……帰ってきた……」

「……もう帰れ」


「うん」と岳に言い、岳の部屋を出た。


*


夏休みが終わる。

俺は、いつも通り希帆ん家の前で希帆を待った。

夏祭りの日以来、希帆は家から一歩も出ていないらしい。おばさんから、何かあったかと聞かれたが、大丈夫だからと無責任なことを言ってしまった。

……本当は、希帆が失恋して喜ぶべきなのに。希帆が、晴人ばかり見なくなくなるのに。

しばらくすると、希帆が家から出てきた。いつもは朝なのに元気良く挨拶してくるが、今日は口を開かない。


「……はよ」


俺から挨拶すると、希帆からは「……うん」と返ってきた。いつもとアベコベだ。

俺達は無言で足を進めた。こういう時、希帆に何て声をかけてやればいいんだろ。俺、全然使えねぇな。

そうこうしているうちに学校に着いた。

教室に入ると、ドアの後ろに白石が来ていることに気づいた。

俺と白石はメアド交換はしたものの、メールやLINEで喋ることは少なかった。学校で話すのは勿論の事、最近やっと敬語で話さなくなったくらいだ。

白石は俺と目が合うと、パッと笑顔を見せ、俺を手招きした。


「……何?」

「あのさ……飛鳥君、いるかな?」


何で風馬?と思ったが、白石の隣で何やらモジモジしている人が関係あるのだろう。

俺は風馬を呼んだ。風馬は、白石の友達らしき人と少し離れた所へ行ったため、俺は白石と二人きりになった。

何話そう。っていうか、話さなくていいかな。


「……あの、星川君」


ここを立ち去ろうとしたら、白石に呼び止められた。


「野咲さん……大丈夫?」

「……?希帆?」


何で白石の口から希帆の名前が……。二人が話してるところ見たことねぇんだけど……俺が見たことないだけか?


「……何で?」

「噂なんだけど……野咲さん、晴人君に夏祭りドタキャンされたとか……」

「……!」


それ、噂になってんのか……?


「……所詮、噂だろ」

「私もそうだと思ったんだよ?でも、その噂の発信源が、晴人君って……」

「……は?」


なんだよ、それっ……。

晴人が噂の発信源って、夏祭り誘ってくれたのもハメる為だったのか……?でも、元々の原因は、誘うことを進めた俺じゃねぇか……。


「……にしても、野咲さんも凄いよねぇ。晴人君からの誘いに、のっちゃうなんて」

「?どゆこと?」

「これも噂なんだけどね、晴人君、中学の頃から女癖悪かったらしいの……。色んな女の子と付き合っては突き放したり、期待させといてドン底に突き落としたり……」


「顔だけはいいのにね」と笑う白石に、俺は改めて晴人がどんな奴か思い知らされる。晴人は、希帆に気があると期待させておいて、突き放すつもりだったんだ。


「……ま、信じちゃう野咲さんも野咲さんだけど」


白石の笑い混じりの言葉に、ちょっとイラッとくる。


「……希帆をバカにするなよ」


それだけ言い捨てて、俺は教室の中に戻った。

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