#03
「…そういえばさ。岳は、好きな人いないの?」
朝の教室。 希帆の口から出た言葉に、ピクッと体が反応する。
お前だよ。なんて、素直じゃない俺は言えない。
「…いねーよ」
そう答えると、希帆は残念そうに「えーっ、いないの~?」と言った。
残念そうに言うのは、俺に気があるからか?なんて、非現実的なことを。
心の中で苦笑していると、希帆が、あり得ないことを口にした。
「んじゃさ、作ろうよ!好きな人!」
作る?だから、お前だって。
ここで、さっきいないと答えたことを後悔した。
終いには、「例えばさ~…あの子!白石未来ちゃん!」と、顔も名前も知らない子を紹介してくる。
「…誰?」
「隣のクラスの美人さん!お姉さんが、学校一イケメンの何とか先輩と付き合ってる子だよ!」
何とか先輩?学校一イケメンなのに、名前知らないのか。ま、俺も知んないけど。
「ふーん…」
俺はこの話を終わらせるために、スマホをいじり始めた。
それに気づいた希帆は、つまらなそうな顔をして「恋すると楽しいのにな~」とぼやく。
…楽しい?いや、俺は苦しいよ。
*
一時間目の休み時間。
俺はトイレを済ませ、教室に戻ろうと足を進めた。その時だった。
廊下の曲がり角で、誰だか知らない女子とぶつかった。
「わっ…」「きゃっ…」
その女子がふらつくので、俺は倒れないように背中を支えてやった。
暫しの沈黙。
倒れかかってる女子を俺が支えている…他から見たら、誤解されかねない。
「…あ、わり」
「…いえ。ありがとうございます」
そう言って、その女子は走って教室に戻っていった。
ハァ…なんか疲れた。
*
二時間目の授業が終わり、クラスメート達は教室を出たりしている。
そんな中、クラスメートの一人が他クラスの女子が俺を呼んでいると教えてくれた。後ろのドアを見ると、さっき廊下でぶつかった女子だった。
「…あっ、」
俺を見ると、そんな声を出した。
「…俺に何か用?」
「あ、あの…よかったら、メアドとか交換してくれないかなって…」
「さっき、助けてくれたので」と付け足した。
「…あれは、助けたのうちに入りません」
「いえ、私は助けられたと思ったので!」
たかが、ぶつかって支えただけなのに助けたとか…それに、頑固だな、この人。
「…それに、私は星川君と交換したいんです」
「え…」
何で俺なんかと…と思ったが、そこまで言うならいいかなと思い「交換しましょう」と言った。
パアアと笑顔を見せ、俺達はメアド等を交換した。
「ありがとうございます!」
元気よくそう言い、その人は教室へ戻っていった。
去ってった後、俺はスマホの画面を見た。
そこには、『白石 未来』の文字が書かれてあった。